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「半沢直樹」の次は本当の悪役=金融庁のドラマをみたい-森永卓郎

2013年09月07日 22時00分 JST | 更新 2013年11月07日 19時12分 JST

経済アナリスト

森永卓郎

ドラマ「半沢直樹」が驚異的な視聴率を獲得した理由は、3つあると私は考えている。

1つは、出演者たちの演技力が非常に高いということだ。半沢直樹には、一流の役者が揃っている。半沢直樹を演ずる主演の堺雅人や国税局職員を演ずる片岡愛之助はもちろん、浅野支店長を演ずる石丸幹二に至っては、銀行員のいやらしさをこれまで誰も演じたことの無いほどの完璧さで表現している。

2つ目の理由は、銀行という舞台が選ばれたことだ。「白い巨塔」や「スチュワーデス物語」など、大ヒットしたドラマのなかには、普通の人がなかなか体験できない職業を描いたものが多い。私が知る限り、これまで銀行の舞台裏まで描いた本格的ドラマは存在しなかった。

銀行の世界をリアリティをもって描くことができたのは、原作者の池井戸潤氏の銀行経験が大きく影響しているのだろう。「裁量臨店」や銀行員同士の陰湿な足の引っ張り合い、銀行員の奥さん同士の軋轢など、これまで一般社会ではあまり知られていなかった銀行社会の裏側を垣間見ることができるというのは、視聴者にとって知的好奇心を大いに満たすことになるのだ。

そして第3の理由は、流行語となった「倍返し」を初めとする勧善懲悪が、じょうずに盛り込まれていることだ。「水戸黄門」に代表される勧善懲悪は、ドラマの定番中の定番だ。しかも「半沢直樹」の勧善懲悪は、国民の間に深く根ざしている「銀行悪者論」をバックにしているから、ますます受けがよくなるのだ。

だから「半沢直樹」は、エンターテインメントとしては、完璧な作品なのだと思う。ただ、正直言うと、私にはひとつだけ引っかかることがある。

それは、そこで描かれている銀行の世界は、いまから10年前までの世界だと私にはみえてしまうのだ。

小泉構造改革で、銀行業界は激変した。金融庁の厳しい検査の下で、仕事の中心は、貸し渋り、貸し剥がしになってしまった。不良債権かどうかは、すべて金融庁が判定するから、銀行マンとしての知恵や経験を活かせる場所はなくなった。銀行は、金融庁という進駐軍が直接統治する占領下の業界に変わってしまったのだ。

だから私が次にみたいのは、金融庁の傍若無人な振る舞いやそれを取り仕切るカネの亡者の金融コンサルタント、そしてハゲタカの手先だった金融担当大臣や金融庁長官といった「リアリティ」をもったドラマだ。

ただ、それが日の目をみることは絶対にないだろう。そこまで勇気のある製作者はいないだろうし、なにより本当の悪役が金融庁だという理解が、国民の間にはまったく広がっていないからだ。

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