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阿部博史氏×櫻田潤氏対談(前編)~データジャーナリズムとインフォグラフィック~

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さまざまな社会課題をビッグデータによって可視化、分析する取り組みが進んでいる。NHKスペシャルでは、「震災ビッグデータ」、「医療ビッグデータ」という特集を放送。防災や医療の分野にビッグデータを活用したデータジャーナリズムという切り口を提示し、放送と同時に大きな反響を呼んだ。これまで見えてこなかったデータ上の事実を、わかりやすくビジュアル化することで分析可能にするという、新しい報道の形が模索されつつある。両番組のディレクターである阿部博史氏にお話を伺う本連載。今回は、ニュース共有サービス「NewsPicks」でインフォグラフィックス・エディターとして働く櫻田潤氏をお招きした。インフォグラフィックとは、データを整理してストーリー性を持たせることにより、人に伝わりやすいグラフィックをデザインする手法だ。データを視覚化する際に、どのような工夫や技術が必要になるのか。両氏の対談をお届けする。

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阿部 博史(あべ ひろふみ)氏
日本放送協会
報道局 報道番組センター 社会番組部
ディレクター
櫻田 潤(さくらだ じゅん)氏
株式会社ユーザーベース
NewsPicks編集部
インフォグラフィックス・エディター





インフォグラフィックとはなにか

櫻田:私はもともと文系出身なのですが、システムエンジニアの職に就き、その後ウェブデザイナーになって、さらにマーケティングの仕事に携わりました。マーケティングの仕事をするなかで、プレゼンテーションの資料や社長の考えをまとめるといった作業が発生するようになったときに、ピーター・ドラッカーなどの本を読むようになり、その内容を図解してわかりやすくまとめる工夫をするようになっていったのです。そして、2010年に自分で作った図解を紹介するブログ「ビジュアルシンキング」 を立ち上げました。

阿部:「インフォグラフィック」という発想に行き着いたきっかけは、なんだったのですか?

櫻田:図解を作り始めていくうちに、その奥深さにだんだんと気付いて、海外の事例をインターネットで検索し、調べるようになったのです。そこで、「インフォグラフィック」という言葉に出会いました。インフォグラフィックとは、データを整理整頓したうえで、人に伝わるように視覚化して、ストーリーを作っていく手法です。最初は海外のサイトを見るだけだったのですが、そのうち自分でも作るようになっていきました。現在は、「NewsPicks」でインフォグラフィックを活かしたコンテンツを作る仕事をしています。そのなかでわかってきたのは、データをビジュアライズするのと、インフォメーションをグラフィックにするというのは、似ているようでまったく違うものだということです。

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阿部:具体的に、どう違うのでしょうか?

櫻田:データのビジュアライズは、プログラムを組んでデータを整理し、グラフィックソフトで加工するという手順で製作します。以前、私はアメリカ大統領選の献金データを使って、州ごとにビジュアライズしたことがあります。しかし、それを見ても大統領選に興味がない人にはあまりピンときません。見る側のモチベーションがないと、なかなか響かないのです。それに対してインフォグラフィックは、編集の要素が入っていてストーリーに見る側を巻き込みやすい、というメリットがあります。はじめのとっかかりとして、まず興味を持ってもらうことに長けているということです。しかし、編集の要素が入っているからこそ、悪い人が使えばミスリードさせることができてしまう。その点、データビジュアライズは、読み手への要求度が高い一方、透明性も高いというメリットがあります。

阿部:お互い、メリットとデメリットがあるというわけですね。

櫻田:そうです。両方のメリット、デメリットを把握したうえで使い分ける必要があります。

デザインに必要な「分析」と「編集」

阿部:テレビでは、ある程度ストーリーを作ることが要求されます。紙芝居のようなもので、ある一定の時間軸にずっと画を乗せて、時間内に到達点に達する必要があるからです。ですから、実はインフォグラフィック的な発想で作られています。震災ビッグデータや医療ビッグデータの取り組みは、それにデータビジュアライゼーションを取り込んで、データを視覚的に見えやすくしたものです。櫻田さんは、テレビ報道について、どう感じていますか?

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櫻田:確かにテレビでなにかを訴えようとしたときには、ストーリーが必要ですよね。しかし、私はデータジャーナリズムにも期待しています。イギリスの新聞「ガーディアン」は、データブログ を公開していますよね。社会問題や災害、経済など、さまざまなデータをインターネット上で可視化しています。そのデータについての一応の解釈も述べられており、読者はデータをダウンロードして、自由に反証できるようになっている。日本のメディアが、どこまでそこに近づけるのか興味を持っています。




阿部:NHKでも、放送で紹介したデータや放送では紹介できなかったデータを、インターネット上に公開していこうということが検討されています。たとえば、放送で使われたデータに自分が住んでいる地域が記載されていなかったら、インターネット上で確認できるような仕組みです。御嶽山の噴火について取材した情報を蓄積して、「噴火の証言」 というサイトを作るなどの取り組みも行っています。テレビで紹介するだけではなくて視聴者自身も探索できるようにし、そのうえ情報をさらに磨いて放送していくという流れが加速していけばいいと思っています。もう一つ櫻田さんにお聞きしたかったのは、先程も指摘した通り、テレビには時間軸がありますよね。一方、ウェブや書籍などでインフォグラフィックの表現を使用するときには、読者の視線を誘導させることによってストーリーを展開させていくのだと私は解釈しています。どのような工夫をしているのでしょうか?




櫻田:起承転結の構造を作ってストーリーに巻き込んでいくのですが、映画のシーンが変わるときのように、デザインを跨ぐときにどう文脈をつなぐかがポイントになります。映画の脚本についての本などを読み、参考にしていますね。これまでは、直感に訴えることがビジュアルコンテンツの役割でした。しかし、インフォグラフィックはそこにストーリー性という考え方を持ち込みました。スマートフォンなどデバイスも小さくなっていくなかで、どのようにストーリーを伝えるかが問われてきているわけです。そのときのデザインのキーワードとして、「脚本」の部分が重要になってきています。インフォグラフィックスは、「ビジュアル・ストーリー」と言い換えることもできます。分析と編集を重ねて、いかに脚本を作っていけるかが、これからのデザイナーに必要な力です。私の名刺には「インフォグラフィックス・エディター」という肩書きが書かれています。本当はただ単に「デザイナー」でも良かったのですが、これからはグラフィックを作る際に編集する力がデザイナーにも問われてくるという意識から、あえてこの肩書きにしました。




データの可視化により「新しい取材空間」を




阿部:放送と同時にデータをインターネット上で出すこともそうですが、デザインの分野でも確実にやらなければいけないことが増えていますよね。どんどん手間は増しています。

櫻田:その通りですね。インフォグラフィックには、リズムとメロディーがあります。その部分は、ある程度理論化することができる。ですからシンプルに突き詰めていくと、プログラミング的な要素で作ることもできます。理論化できる部分はアルゴリズムで処理したほうが、作り手によっての質のバラツキもなくなるでしょう。そのうえで、人力でやらなければいけない分析と編集にどれだけ時間を掛けられるかが重要になってくると考えています。

阿部:分析と編集の話でいうと、私は気象庁のデータを使って爆弾低気圧による風の流れを可視化したものを作ったことがあります。地図上に数キロ間隔でグリッドを打ち、風の流れをつないでいったものです。すると、気圧の前線が目に見えるようになる。この場合、プログラムとデザインを合わせて、はじめて素材として可視化されるという順序になります。だから、分析や編集は事前にはできません。まずはもともと目で見ることができなかったデータをデザインし、そのあと分析と編集を行うのです。そして、専門家やジャーナリストが可視化されたデータにストーリーをつけていくという流れになります。

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櫻田:とても興味深いお話です。

阿部:東日本大震災の被災地を取材したときも、津波の被害にあった沿岸部を回るだけでは、なかなか全体像が見えてきませんでした。しかし、携帯電話の位置情報などを利用して被災者の避難経路を可視化してみると、いろいろなことがわかってくる。データをデザインすることによって新しい取材空間を作ることができるのです。それをもとに専門家やジャーナリストたちが、被害の実態や防災に役立つ知見を見出していくことができます。

櫻田:私もデータのプロトタイピングは、分析と編集の前に行っています。まずはプログラミングを使って全体像を掴む必要がある。ですから、今のお話はとても腑に落ちました。

対談前編では、データのビジュアライズとインフォグラフィックの違いなどについて語っていただいた。後編ではさらに議論を深め、ビッグデータとジャーナリズムを融合することによって開かれる未来の可能性と課題について、お話を伺っていく。

後編に続く

(構成・宮崎智之)

WISDOM 2015年03月13日の掲載記事「社会課題とビッグデータ 第5回 阿部博史氏×櫻田潤氏対談(前編)~データジャーナリズムとインフォグラフィック~

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