怖すぎる絵本「わかってほしい」の真意 20歳まで虐待受けた作者語る

ツイッター上で「ホラーすぎる」「一生トラウマになる」と話題になっている絵本があります。

絵本「わかってほしい」 出典: クレヨンハウス提供

ツイッター上で「ホラーすぎる」「一生トラウマになる」と話題になっている絵本があります。クレヨンハウスから2003年に出版された「わかってほしい」です。表紙に描かれたクマのぬいぐるみが、ページをめくるたびにボロボロになっていきます。「にくいんだろ」に対して「ここしかないから」とか、「しんでびびらせるか」に対し「でも あきらめない」など、相反する二つの感情がそれぞれ白と黒の文字で重なるように書かれています。ただ「怖い」というだけで拡散させている人もいますが、この絵本が伝えたいテーマは「虐待」です。20歳まで父親から虐待を受けていたという作者に話を聞きました。

無残な姿のぬいぐるみ

真っ赤な表紙に白抜きの文字で「わかってほしい」。最初のページには、こう書かれています。

「この本を書いたのは 虐待が少しでもなくなればという思いと、自分を変えるためです」

ページをめくるたびに「なんのためにうんだの?」「どうしてもわからない」と、子どもの視点からつづられます。

黒い文字で「憎しみ」、白い文字で「耐える感情」を、それぞれ重ねながら表現します。そして、「わかることはひとつだけ」「あいされたい」と結ばれます。無残な姿になったぬいぐるみとともに。

20歳で家出

この絵本の作者はMOMOさん(48)。中学1年のころ両親が離婚し、父とMOMOさん、妹と弟の4人暮らしが始まり、父から暴力をふるわれることが増えました。

ゴミ捨てを忘れると殴られたり、魚を上手に食べられずにいると顔面を蹴られたり。拳で殴られていたのが、木の棒になり、最後は鉄の棒に。

父を完全犯罪で殺すことまで考えたそうですが、「それは本当に自分がしたいことなのか」と考えたとき、そうではないと思ったそうです。

「殴られているときや、その直後、頭の中が混乱して、いろんな感情が入り乱れます。自分でも説明できずにいたのですが、20歳になったころ『私が本当に求めていることは〝愛されたい〟ってことなんだ』と気づいたんです。そう思うと、スーッとモヤモヤが晴れて、家を出ることを決断しました」

先に家を出ていた弟に続いて、MOMOさんも妹を連れて家出。そのまま父のもとには戻りませんでした。

MOMOさんに聞きました

出版から10年以上がたって、再び注目されているこの絵本。ネット上では、虐待をテーマにしていることを知らないまま拡散させている人もいるようです。

作者のMOMOさんは、どんな思いで絵本を書いたのか? 詳しく聞きました。

――絵本にしたきっかけを教えて下さい

「2000年ごろ、虐待のニュースを見ることが増えました。そんななか、私の経験から伝えられることがあるんじゃないか、そして、この本を出して自分も一から出直そう、という思いで出版社に持ち込みました」

――なぜ絵本だったのでしょうか

「自分が虐待を受けていたとき、絵本に救いを求めたことがありました。でも、手にした絵本は、とても優しい雰囲気のもので、『現実はこんなものじゃない』と思ったんです。実際は血も出るし、骨も折れます。それを伝えようと思ったんです」

――気をつけたことは

「殴られているときは、いろんな感情が同時に入ってきて交錯します。きれいごとではなく、感覚的にそのことを伝えようと、白と黒の文字を重ねました」

出版後、父から電話が

――父親と連絡はとっていますか

「絵本を出した後、父から連絡がありました。『最後のページを読んで泣いてしまった。愛しているつもりだったが自分を止められなかった。悪かった』と言われました。それからは年に1度は会っています」

――10年以上たって話題になっていることについては

「ツイッターとかをやっていないので、本が批判されているのかと思って心配しました。『怖い』という理由で拡散することについては、気にしていません。本当のことですし、それによって、いま虐待されている人や虐待している人、自分は関係ないと思っている人に絵本が届くのであれば」

――改めて、この本で伝えたかったこととは

「殴られている子って、親を怒らせようと思っているわけではありません。『愛されたい』と思っているだけなんです。虐待をする親でも、子どもにはその人しかいない。このことを、どうかわかってほしいと、こころから思います」

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