COP23現地報告:トランプ政権のアメリカへの注目

世界に衝撃を与えたパリ協定離脱宣言。

2017年11月6日、ドイツのボンで2017年の国連気候変動会議(COP23/CMP13)が始まりました。南太平洋の島国フィジーが初めての議長国を務めるこの会議。就任前から温暖化への懐疑論者として耳目を集めていたアメリカのトランプ大統領にとっては、就任後、初めて政府代表団を送り込むCOP(締約国会議)となります。新しい交渉団は、どんな方針で交渉に臨むのか。現地報告をお伝えします。

「パリ協定」の離脱を宣言したトランプ政権

2015年に世界が交わした、地球温暖化防止のための新しい約束「パリ協定」。 その成立を牽引した大きな力になったのが、オバマ前大統領の下、交渉の場に臨んでいたアメリカの政府代表団でした。

しかしその後、大統領選で当選したトランプ大統領は、2017年6月1日にパリ協定からの離脱を発表。8月4日には国連に書面で通告しました。

さらに、オバマ前政権が掲げた温室効果ガスの削減目標を放棄し、途上国の温暖化対策を支援する気候資金への拠出も停止するなど、温暖化対策に逆行する政策を次々に発表しています。

世界に衝撃を与えたパリ協定離脱宣言。

ドイツのボンで開催される今回の会議COP23は、この新政権が発足した後に開催される初めての気候変動枠組み条約の締約国会議です。

そのため、中国に次ぐ世界第2位の排出国であるアメリカが離脱したとしてもパリ協定は成り立つのか、トランプ政権が送り込む政府代表団はどんな姿勢で交渉に臨み、会議にどんな影響をもたらすのかが注目されてきました。

COP23会議への影響は?

しかし、これまでのところ、会議への影響はほとんど見られません。

そもそも、アメリカはまだパリ協定から離脱していないのです。

これは、日本の国内でも広く誤解されている点ですが、「パリ協定」は、発効した日から3年間は離脱することができません。

離脱の意思を正式に通告してから1年後にしか離脱できないため実質的には離脱するまでに4年かかるためです。

つまり、2016年11月4日の発効日から、4年後の2020年11月4日までは、どの締約国も離脱することができません。

そして奇しくも、この2020年11月4日という日は、次期アメリカ大統領選挙の投票日の翌日にあたります。

選挙の結果次第では、またアメリカが協定に復帰する、可能性もあるでしょう。

しかも、アメリカは、「パリ協定」の親条約である「気候変動枠組み条約」からは離脱しないと表明しています。少なくとも2020年11月4日までは、アメリカはパリ協定の締約国であり続けるのです。

そのため、今回のCOP23 の重要テーマである「パリ協定」のルールづくりにも、他の国々と同様に参加しています。

新しい交渉団への関心

地球温暖化の否定を続ける大統領。 その下で送り出された新しいアメリカの交渉団が、どんな方針でCOP23の交渉に臨むのか。

これは世界の関心が集まるところとなりました。

しかし、蓋を開けてみると、新しい交渉団の顔ぶれは、「パリ協定」の成立に貢献した前政権下の交渉団とほぼ同じ。

重要な点として、交渉官のひとりが、APA(パリ協定特別作業部会)の重要な議題である「透明性」の議論を進行する共同ファシリテーター(議事進行役)の重責を担う、という点も、変わりがありませんでした。

あえて変化を挙げるとすれば、これまでより発言の回数を減らして会議を静観していることくらいで、交渉姿勢もこれまでと変わらないように見受けられます。

少なくとも今の時点で、議論が混乱するような要素は見当たりません。

アメリカが見せる別の「顔」

一方で、COP23ではアメリカが持つ「もう一つの顔」が、確かな意思を示しています。

それは「非国家アクター」と呼ばれる、国の政府ではない、地方自治体や市民団体、企業、大学の研究者などの主体。

アメリカのこうした非国家アクターたちが今、団結して「我々はパリ協定にとどまる」という意思と、そのための具体的な行動を始めているのです。

COP23は、その大きな舞台となっています。

2017年11月9日には、トランプ大統領の「パリ協定離脱」を受けて結成されたアメリカ社会のイニシアチブ「それでも我らは留まる(We Are Still In)」が会場内に開設したパビリオンで開会式を開催。

「政府に代わって市民がパリ協定に掲げる目標をめざす」と宣言しました。

トランプ大統領の派手な言動とは対照的に、あまり日本のメディアは注目していませんが、今こうした非国家アクターによる動きが、非常に大きく活発になり、しかもCOPでの議論に影響力を発揮しているのです。

こうした非国家アクターの動きは、前回のCOP22マラケシュ会議から、顕著になってきました。

それまでは、各国政府の代表団と、一部の環境団体のメンバーのみが出入り可能だったCOPの会場は、広がり、開かれ、非国家アクターによるさまざまな展示や発表が競うように行なわれるようになりました。

温暖化という問題が、あらゆる人、組織、社会のつながりに影響するものである以上、こうした多角的な参加者が集まり、議論を活性化することは、重要であると同時に、当然のことといえます。

問われる「世界の意思」

今回のCOP23では、開幕日の翌日の11月7日に、長年の内戦で苦しんでいるシリアが「パリ協定」への参加を表明。

COP23に参加している197か国のうち、シリアを除く196か国がパリ協定に署名していましたが、今回、シリアが署名する意向を表明したことで、すべての国が協定に参加することとなりました。

交渉の場におけるアメリカ政府の存在は、確かに大きなものではありますが、一方で、数ある参加国の一つでしかないという側面も確かにあります。

少なくとも、COP23で行なわれている、「パリ協定」の実施指針となるルールブックを完成させる懸命の交渉に、アメリカの離脱宣言が及ぼしている影響は、今のところないといってもいいでしょう。

2018年12月に開催されるCOP24で、このルールブックが完成できるか。

その世界の流れの中、離脱表明で孤立が鮮明になっているアメリカ政府と、市民社会の非国家アクターたちは、どんな役割を果たしてゆくのか。

これからの動向が注目されます。

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