【シリーズ:象牙とアフリカゾウ】野生のアフリカゾウをめぐる現状

陸上最大の動物アフリカゾウ。今、1年におよそ2万頭が違法に殺されているといわれています。

陸上最大の動物アフリカゾウ。今、1年におよそ2万頭が違法に殺されているといわれています。原因は、アフリカゾウの牙「象牙」を目的とした、密猟や密輸。その犯罪行為は国境を越えて組織的に行なわれ、年々大規模なものになっています。象牙をめぐる違法行為の撲滅と、アフリカゾウの保護に向けて、国際社会、そして日本は、どのような姿勢を示し、取り組みを行なうべきなのでしょうか。シリーズで紐解く象牙をめぐる問題。 第1回目は、アフリカゾウを取り巻く状況を整理していきます。

アフリカゾウを取り巻く問題の今

サハラ砂漠以南のアフリカ大陸、37カ国に分布するアフリカゾウ。

森林やサバンナなど多様な環境に適応したこの動物は、かつてアフリカ全域にその生息地を広げていましたが、今では農地や牧草地、都市などの開発などにより、多くの地域ですみかが分断されています。

また、農地や人の集落の近くで生きるゾウもおり、ゾウが農作物を食い荒らしたり、人がゾウに襲われて死亡したり、報復にゾウが殺されるトラブルも多発しています。

さらに、政治情勢が不安定な地域では内戦の影響も受けています。

こうした国々では、密猟監視などのパトロールが困難になるため、ゾウが違法に殺され、肉が食用にされたり、犯罪組織が高い値の付く象牙を売り、銃器などを購入する費用に充てる、といった問題が生じています。さらに、密猟監視のパトロールを行なうレンジャーが危険にさらされ、密猟者の攻撃により実際に命を落とすケースも起きています。

また、国境を越えて移動しながら生活をする野生動物ゾウには、「国」という意識がないため、ある国では保護されていたゾウが、国境を越えた途端、殺されてしまう、といった問題も生じます。

いずれにせよ、アフリカという地域が抱える貧困や政治の問題を解決し、生息国どうしが協力して連携しない限り、保護政策は進みません。

アフリカゾウは今、何頭いる?

保護活動がさまざまな困難を抱える中、野生のアフリカゾウは今、何頭が生き残っているのでしょうか。

他の野生生物と同様、自然界に生息するアフリカゾウの数を数えることは容易ではありません。

しかし、ゾウは身体が大きいため、今ではその個体数を、軽飛行機などを使い空から調査・推定する手法が多用されています。しかし、この方法が使えるのは、アフリカ東部や南部などのサバンナや半砂漠のような見晴らしの効く環境のみで、中部や西部に広がる森林地帯では上空からの確認が難しく、この手法は使えません。

また、内戦などが生じている地域も、治安などの問題で調査活動の実施が困難となります。

こうした状況は現在も変わりませんが、1979年以降は大陸全体で、包括的な個体数の把握が出来るようになりました。また近年の技術発達や、WWFを含む多くの組織からの資金支援による大規模な調査が可能となった結果、2016年には現時点では最新のデータとして、42万頭という数字が発表されています。

これは、1979年時点で推定された134万頭ともいわれたアフリカゾウの個体数と比較すると、大幅な減少といえます。

しかし、アフリカ各地で同じようにゾウが減り続けているわけではありません。

これはあまり注意が向けられない点ですが、国や地域によっては、ゾウの数が増えていたり、生息密度が高くなりすぎて人とトラブルになり、問題になるケースも生じているのです。

また、国としてせっかく保護政策をたてても、ひとたび紛争や内戦がおこれば、その政策を実行することは非常に困難です。保護区のレンジャーも避難を余儀なくされるケースも度々起きています。

こうしたアフリカ各地の実情を正しく理解することは、それぞれの地域において何が必要な保護活動かを考える上で、非常に重要です。

これまで、WWFやトラフィックではアフリカゾウを守るために、各国、各地域の人々と協力しながら、密猟取り締まりへの支援や、違法取引の調査、摘発、生息域の保全にかかわる法律の整備や、保護区で働くレンジャーの育成など、局面に応じた多様な取り組みを展開してきました。

それでも、アフリカゾウの危機はいまだに去ってはいません。

次回は、野生のアフリカゾウを年間2万頭ともいわれる規模で死に至らしめている密猟の原因「象牙」について考えます。

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