日本からの声援を力に!"幻のサイ"を守る取り組みが進行中

その数、世界でわずか300頭。角を狙った密猟と熱帯林の減少により、絶滅の危機に追い込まれているスマトラサイ。中でもボルネオ島のインドネシア領では、1990年代にすでに絶滅したとされていました。ところが2013年3月、WWFインドネシアなどの調査チームが、20年ぶりにその生存を確認。幻のサイが生きていたというニュースは世界中で話題になりました。

その数、世界でわずか300頭。角を狙った密猟と熱帯林の減少により、絶滅の危機に追い込まれているスマトラサイ。中でもボルネオ島のインドネシア領では、1990年代にすでに絶滅したとされていました。ところが2013年3月、WWFインドネシアなどの調査チームが、20年ぶりにその生存を確認。幻のサイが生きていたというニュースは世界中で話題になりました。一方、その生存が確認されたことで、再び密猟の手が迫っています。WWFジャパンは2014年7月から緊急支援を開始、これまでに1,000万円を超えるご支援が寄せられました。日本からの励ましを大きな力に、"幻のサイ"を守る取り組みが進んでいます。

偶然見つかった幻の足跡

2013年3月のその日、WWFインドネシアのスタッフ、サルジュニは別の調査のため、ボルネオ島のインドネシア領、東カリマンタンの森に入っていました。

すると彼の目が、湿った土の上にある、幅20cm強の3つの爪痕をもつ足跡を捉えました。彼にはその瞬間、これがスマトラサイのものだと直感的にわかったといいます。

ワンテンポ遅れて、彼は自分の発見の重大さに気づきます。1990年代に絶滅したと考えられていた、ボルネオ島インドネシア領のスマトラサイ。

もしこの足跡が本物ならば、一度は幻とされたサイの生存を示唆する、世界的にも貴重な発見になるのです。彼は、この時のことを「まるで夢のような瞬間だった」と話しています。

その後、速やかに調査チームが結成され、自動撮影カメラ16台を森に設置。

3カ月後、回収されたデータには、お尻をカメラに向け、しっぽを振りながら、のっしのっしと森の中へ消えていくサイの姿が映っていました。

さらに、実地調査で発見された足跡の中には、サイズが小さいことから若い個体と思われるものもあり、この森で繁殖が行なわれている可能性も見えてきました。

金の延べ棒「サイの角」

スマトラサイは、現存する5種のサイ類では最小で、うちアジアに生息する3種の中で唯一、2本の角を持ち、身体全体がまばらな毛で覆われているのが特徴です。

東南アジアのスマトラ島とボルネオ島、マレー半島の熱帯林に生息していますが、その推定個体数は220~275頭で、絶滅の恐れがきわめて高いとされています。

とりわけ、ボルネオ島に生息している亜種は数が少なく、マレーシア領にある2つの保護区に数十頭がいると推測されているのみ。

インドネシア領では、今回の調査で初めて、少なくとも数頭の存在が示唆されています。

世界のサイを追い詰めている主要因は、角を狙った密猟にあります。東洋では古くからサイの角には解熱作用などの薬効があるとされてきました。

国際社会は1977年、ワシントン条約によって、角を含むサイの身体の部位について、すべての国際的な商業取引を禁止。しかし、法律をかいくぐって密猟に成功すれば、大きな利益を得られる構図は今も変わっていません

さらに近年では、おもにベトナムにおいて、ガンの治療薬や滋養強壮、あるいは社会的地位を示す贈りものとしての犀角の需要が高まり、高値で取り引きされています。

ある報告では、1キロ当たり、金の2倍相当の6万USドルにまで高騰しているといいます。

しかし、こうした薬効について、今のところ科学的な根拠は確認されていません。

急務とされる調査と密猟の取り締まり

今回の発見はこの上ない朗報ですが、再び密猟の手が伸びることは十分考えられます。

WWFインドネシアはWWFジャパンの支援のもと、密猟の取り締りをはじめ、保護・調査の取り組みを進めています。

特に、密猟を防ぐためのパトロールは欠かせません。

実際、サイの暮らす森からそう遠くないエリアに設置された自動撮影カメラには、密猟者と思われる、銃を手にした二人組の男が撮影されており、スマトラサイはもちろんのこと、現地のさまざまな野生生物への脅威が確実に存在していることが分かっています。

しかし、こうしたパトロールや、調査のための自動カメラを設置する取り組みには、多くの困難がつきまといます。

アフリカのクロサイやシロサイが暮らす、視界の開けたサバンナとは異なり、スマトラサイが生きる東南アジアの熱帯林は、樹高60メートルにもなる木々が連なる、見通しの利かない空間。

しかも、その生息数が少ないため、長年研究に携わっている研究者でも、実際に姿を目にすることは稀だといいます。

そうした状況下での保護活動は、時には1カ月近く、深い森を移動しながら継続して行なわれることも珍しくありません。

道なき森では、川が道の代わりになりますが、乾季には水位が浅く、ボートが思うように進まない事態になったこともありました。

機材や食糧、テントなどを積んだボートを人の手で引っ張るほかない場所や、倒木や岩が行く手を阻む難所が続き、サイが確認された現場に至るまでに1週間を要したことも。

それでも、この調査を通じて見えてきた、スマトラサイの食性や生態は、今後の保護活動の基盤となる重要なデータとなります。

これらはさらに細かく分析され、世界に残りわずか300頭といわれるスマトラサイの国際的な保護活動に寄与することも期待されています。

地域の人々と共にサイの森を守る

さらに、"幻のサイ"の保護には、そのすみかである森を守る取り組みも欠かせません。

ボルネオ島では現在、木材や紙、植物油や石炭の採掘などのために急速に森が切り拓かれ、開発が進められており、過去半世紀の間に実に50%が消失。

現在もその勢いは衰えず、1年あたり3.2%の森が失われているとされています。熱帯林破壊による生息地の減少は、スマトラサイにとっても、密猟に次ぐ大きな脅威となっています。

とりわけ今回、新たにスマトラサイが確認された場所は、既存の国立公園からも遠く、法的な保護がなされていない地域であることが明らかになっています。

そのため、推定される個体数や、その生息範囲を調査する一方で、その地域でどのような保護を行なっていくのか、施策や方針の検討も重ねてゆかねばなりません。

その上で、一つの重要なカギとなるのが、地域住民との協力関係の構築です。

森の地理に明るい地元の人々の協力を得られれば、密猟を防ぐパトロールの円滑化や、密猟者を見かけた際の通報体制の整備が期待できます。また、サイを狙う密猟者が、道案内役として現地の人々を雇おうとした場合の抑止策ともなります。

地域住民による森の利用の在り方にも、注目する必要があります。

インドネシアでは、多くの森林の所有権は国に帰属する国有林とされています。しかし実際は、それぞれの森林では、以前から住んでいた人々による慣習的な利用も行われています。

こうした森林利用には、主食のコメの栽培や建築に必要な木材の調達、あるいは収入を得るための農地の開発など、さまざまな用途が含まれており、人々の暮らしを支えている一方で、森の自然にも何らかの影響を及ぼす可能性があります。

なによりも、何をもって「慣習的」とするか、正当に証明することが困難な場合もあります。

そのため、新たに移り住んできた入植者が「ここは自分たちが古くから利用してきた森だ」と主張した場合でも、周囲がそれを受け入れざるをえないケースもあるといいます。

また近年は、地域の住民が自分たちの土地の権利をアブラヤシのプランテーションを手がける企業などに売り、現金収入を得ようとする動きも多く見られます。

そんな森でサイの生存が確認されれば、地域の人たちにとっての「厄介事」にもなりかねません。

保護のため森の利用や売却が制限されることになれば、収入を得ることはかなわず、かといって地方政府などの公的機関が何かしらの補償をしてくれるわけでもないからです。

サイのすむ森を長期的に守ってゆくことは、地域の人たちの生活に直結する、現実的な課題を解決してゆくことでもあるのです。

そこでWWFインドネシアは、村々を訪問する専任のスタッフを配置。

森から享受している多面的な恩恵について話し合ったり、代替収入源を提案したり、村で不足しがちな教育や健康などの社会的サービスの拡充に貢献する取り組みを通じて、地域の人々との長期にわたる関係構築に努めています。

サイを共に守ってゆくためには、森林やその辺縁を利用して生計を立てている、こうした地域住民を活動のパートナーとしてゆくことが、欠かせないのです。

寄せられた心温まる励ましの声

現場で精力的に活動するWWFインドネシアスタッフの奮闘をねぎらいたいと、WWFジャパンは今回、日本から応援メッセージを集めました。

同時に、メッセージを通じて彼らの仕事を少しでも多くの方に知ってほしいと考えました。

後日、日本のサポーターからは、「動物大好きの小学3年生と2歳の息子達と一緒に、熱帯雨林を守るため、動物達を絶滅から守り、この地球で共存していくため(中略)考え続ける日々です。」「森の奥深くの調査は、私が思っていたよりもずっと大変なのですね。過酷な環境下で動物のために力を尽くす皆さんを、心から尊敬します。」など、たくさんの温かい励ましが寄せられました。

また2014年11~12月には、横浜市立金沢動物園および二子玉川ライズショッピングセンターでイベントを実施。

来場した約220名の子どもたちにサイの絵を描いていただき、森の写真を背景としたボードに貼っていただくことで、保護活動を通して森にサイを増やしていきたい、というメッセージを込めました。

応援メッセージとサイの森のボードは、ボランティアの皆さんのご協力を得て翻訳された後、2014年11月、WWFジャパンのスタッフによってインドネシアに届けられました。

総勢10名を超える現地スタッフは、嬉しそうな顔で日本から贈られたボードやメッセージと記念撮影をした後、ひとつひとつのメッセージに目を通していました。

スマトラサイの足跡の第一発見者であり、森での調査を一手に引き受けるサルジュニは、「スマトラサイの再発見は、それ自体への喜びだけでなく、この森の素晴らしさを改めて教えてくれ、仕事へのやりがいや日本の皆さまとのつながり、未来への希望などたくさんのものを与えてくれました。」と返事を寄せました。

また、プロジェクトリーダーのユユンは「古くからこの地球に存在し、今なお生きる貴重なスマトラサイを未来の子どもたちに残せるよう、私たちは努力し続けます」と継続的な取り組みへの決意を述べています。

皆さまへの感謝と、これからの取り組みに向けて

日本のサポーターからの温かい声援は、現地スタッフに大きな喜びと励ましを与えてくださいました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。

さらに、2014年10月末からお願いしているご支援の呼びかけに対し、2015年1月現在、延べ1,800名の皆さまから総額1,000万円を超えるご支援をお寄せいただきました。

短い期間にも関わらず、たくさんの方にご理解とご支援をいただき、心より感謝申し上げます。

皆さまからお預かりした貴重なご寄付は、スマトラサイ保護のための活動に、大切に活用させていただきます。

そして、それらの活動は、スマトラサイだけでなく、オランウータンやアジアゾウ、ウンピョウやマレーグマといった大型の哺乳動物が生息する、世界有数の豊かなボルネオの森を守ることにも繋がっていきます。

2015年以降もこの取り組みは続きますので、引き続きのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

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