人里に現れたシベリアトラ、自然保護区周辺に移送

極東ロシアで、家畜のウシがトラに襲われる事件が起きました。

2016年10月26日、極東ロシアのアルチョーム市で、家畜のウシがトラに襲われる事件が起きました。警察への通報を受けて、沿海地方狩猟局とWWF、アムールトラセンターのスタッフが現場に急行。その日のうちにこのトラは捕獲され保護されましたが、検査の結果、健康状態に問題がないことから、4日後にはウスリスキー自然保護区に隣接する区域で野生に放されました。新たな場所で縄張りを見つけることができるか、今も続く追跡調査が行なわれています。

ウシを襲ったオスのトラ

世界で最も北に生息するトラの亜種シベリアトラ。

その個体数はこの20年間にわたる保護活動の結果、わずかながらも着実に増加していますが、今もなお違法伐採や大規模な商業伐採による生息地の森の減少が続いており、絶滅の危機にさらされています。

この生息地の減少に伴って起こるもう1つの問題が、トラが食物を求めて人里に現れ、家畜のイヌやウシなどを襲うこと。

2016年10月26日にも、極東ロシア沿海地方のアルチョーム市で、ウシがトラに襲われる事件が起きました。

警察への通報を受けて、沿海地方狩猟局の職員とWWF、アムールトラセンターのスタッフが現場に急行すると、オスの成獣とみられる、大きなトラの足跡が残されていました。

そこで、ウシの死体をその場に残し、自動撮影カメラを仕掛けてこのトラが戻ってくるのを待つことになりました。

すると、同日の夜、トラが再びウシを食べに戻ってきたため、その場で捕獲し、リハビリテーション・センターへと移送しました。

トラに限りませんが、人や家畜、農作物に被害を及ぼす野生鳥獣への対応としては、罠や銃で駆除してしまう場合が一般に多くを占めます。

しかし極東ロシアでは現在、人とトラが共存していくため、こうした関係者の迅速な出動体制が整えられ、現場での保護活動に欠かせないものとなっています。

保護から4日後に野生復帰

リハビリセンターでこのトラの状態を検査してみると、体重170キロの4~5才のオスで、健康状態は良好であることがわかりました。

また、狩りの能力にも問題がないことから、自然の森へ戻されることが決まりました。

野生復帰の場所の決定にあたっては、関係機関や団体で協議を行ない、獲物となる草食動物が十分にいることや、人の居住区域から十分に離れていることなど、さまざまな要因を考慮。

その結果、ウスリスキー自然保護区に隣接する区域が野生復帰の場所として最適であると選定されました。

そして、捕獲から4日後の10月30日、沿海地方農業アカデミーの専門獣医の監督の下、トラは麻酔銃で鎮静され、ケージに入れられた後、3時間かけて所定の場所まで移送されました。

沿海地方狩猟局とWWFロシア、そしてアムールトラセンターのスタッフが見守る中、ケージの扉が開くと、トラは勢いよく飛び出して森の中へと消えて行きました。

野生復帰後も続く追跡調査

野生動物が人との衝突を起こした場合、このように捕獲した元の場所から少し離れた場所に移送し、野外に戻すことは、ロシア以外でもしばしば使われている手法です。

ロシアでは、これまでに人との衝突を起こした多くのトラがこのように移送され、新しい場所の自然の中で、自らの縄張りを見つけ、生き延びてきました。

そうした状況を把握するため、野生復帰の際には、トラに発信機付きの首輪が取り付けられ、その後も行動の追跡調査が行なわれています。

今回、捕獲されたトラも、野生復帰翌日の31日には、5キロ北に移動し、森の中をアルチョームやウラジオストクといった都市部と反対方向に向かっていることが確認されました。

この5キロの移動はまた、鎮静剤の影響が残っておらず、無事に意識を回復していることを示しています。

このトラが再び人里に現れることがないか、新たな場所で縄張りを見つけることができるかなど、今も追跡調査が行なわれています。

トラと人との衝突を防ぐために日本の消費者ができること

このようにトラが人里に出現する根源的な原因の一つには、生息地である森林の減少があります。

そして、極東ロシアの自然林を伐採して生産された木材は、直接または中国などを経由して、日本にも輸入され、家具や建材などとして販売されています。

こうした木材製品の中には、トラの重要な生息地である森林を破壊して作られたものが混ざっている可能性があるのです。

消費者がこうした商品を購入し、知らず知らずのうちにシベリアトラの生息地破壊に加担しないためには、持続可能な方法で生産された木材製品を選ぶことが必要です。

そのために、WWFではFSC認証のマークが付いた木材製品を購入することを推奨しています。FSCは、環境・社会・経済的に持続可能な方法で木材が生産されたことを証明するマークです。

消費者がFSCマークの付いた商品を積極的に選ぶことは、トラのすむ森を守り、トラが人里に現れるのを防止することにつながります。

WWFではこれからも、極東ロシアでトラと森林の保全に取り組むとともに、日本でも企業や消費者に対してFSC認証材の調達・購買を働きかけていきます。

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