プレスセミナーを開催 2020年の東京大会を「持続可能な大会」に

東京都は、持続可能性の推進を公約の一つとして掲げましたが、多くの課題が残されており、その一例が魚やエビ、貝といった水産資源の利用です。

リオデジャネイロでのオリンピック・パラリンピックが開かれる中、WWFジャパンは2016年8月17日、東京で2020年の東京大会に向けて、持続可能な水産物認証についてのプレスセミナーを開催しました。これは、水産物調達に焦点を当て、国際的なスポーツ大会で採用されている国際的なガイドラインや個別認証制度の基準や審査の厳格性、透明性、そして 2020 年に向けた日本国内での認証の広がりの可能性について、グローバルな視点から解説するものです。セミナーには、新聞社や通信社、また水産物を扱う企業など、30名あまりの関係者が参加。持続可能な水産物の認証制度MSCやASCの仕組みや、その信頼の根拠となるFAOのガイドラインについて、たくさんのご質問をいただきました。

持続可能なオリンピック・パラリンピック大会を実現するカギ

多くの人々が集まる、オリンピック・パラリンピック大会。

世界が注目するこのスポーツの祭典は、莫大な消費を伴い、経済や社会、環境にも影響を及ぼす、大きなイベントでもあります。

また、大会を通じて、未来の社会の仕組みとして継承していく「レガシー」のあり方も注目されています。

近年は、ロンドン大会をはじめ、環境への配慮を徹底した大会運営が行なわれ、2020年の東京大会の誘致に際しても、東京都はサステナビリティ(持続可能性)の推進を公約の一つとして掲げ、当選しました。

しかし、実際にさまざまな資源の持続可能な利用を、東京大会で実現していくためには、まだ多くの課題が残されています。

その一例が、魚やエビ、貝といった水産資源(シーフード)の利用。

日本は世界屈指の水産物の生産・消費国ですが、「持続可能性」を消費する側が客観的に確認できるシーフードはまだ多くありません。

この問題を解決し、2020年の大会で、いかに世界の信頼に応えられるシーフードを提供するのか。

WWFジャパンは2016年8月17日、そのカギとなるFA0(国連食糧農業機関)のガイドラインと、持続可能な漁業の国際的な認証制度の事例としてMSCとASCについて、その概要と現状を解説するプレスセミナーを開催しました。

「持続可能な水産物」とは?

最初に、WWFジャパン海洋水産グループの山内愛子から、世界の海の環境が今、どのように悪化の一途を辿っているか。またその大きな要因の一つとして、水産資源の減少・枯渇が深刻化していることをお話ししました。

そして、この事態を食い止めるために、水産物の消費大国である日本が「持続可能な水産物」を積極的に調達することの意味について説明。

海の生態系の保全と、地域社会の暮らし、世界の食糧安全保障の改善に貢献できる未来を目指してゆかねばならないことをお伝えしました。

山内はその中で、「合法なもの」が必ずしも、「持続可能なもの」を意味するわけではないこと、また合法的な調達であっても、自然破壊や地域で社会問題につながる例がある、という点を強調。

水産物を扱う側が、自らチェックする意思と透明性を保つ努力をしないと、資源の枯渇や地域社会、消費者への説明といった、社会的な責任を果たせない点を指摘しました。

特に、オリンピック・パラリンピック大会では、調達される水産物などの追跡調査が行なわれる可能性もあります。

これらをクリアできないと、水産物のサプライチェーンにかかわる企業も、大きなリスクを背負うことになります。

では、持続可能な水産物、とは、どのように生産、供給すればよいのか?

山内は、その国際的な信頼を担保するツールとして、すでに日本でも取得例のある、MSC(海洋管理協議会)とASC(水産養殖管理協議会)による漁業・養殖業認証制度を紹介。

2020年の東京大会でも、こうした認証制度を持続可能性を確認する「手段」として積極的に利用していく必要性を訴えました。

認証制度の「信頼」その根拠は?

続いて、学習院大学の阪口功教授より、認証制度やエコラベルが、本当に持続可能性の証明となっているのか、それを確かめる上での重要なカギである、FAO(国連食糧農業機関)のガイドラインについてお話しをいただきました。

阪口教授は、まず世界で知られている複数の水産エコラベルを紹介。

それらの信頼性を確認するために、水産物エコラベルガイドライン(2005年)と、養殖認証に関する技術ガイドライン(2011年)の要求事項に照らし合わせ、各水産エコラベルが要求事項を満たしているか、ご説明くださいました。

このFAOのガイドラインはFAOが、ISOが設定した認証制度に関わる諸規格・ルールをふまえたもので、漁業については認証対象だけでなく全体の漁獲圧が持続的に管理されていることが条件となっています。

ガバナンスにおいても、

・ 認証制度を管理・運営する側が、既得権益と利害関係を絶っていること

・ 異議、苦情の処理手続きが公開されていること

・ 独立公平委員会を設置していること

・ 定期的な監査を行なっていること などがあります。

そして、こうしたFAOガイドラインの要求事項をMSCやASC等が満たしているのに対して、日本のラベルは満たせておらず、国際的な信頼を得るのが難しい点を指摘されました。

「持続可能な東京大会」は実現できるか?

セミナーではこの後、MSCとASCの認証制度について、MSC日本事務所の石井幸造代表と、ASC普及開発部長のジョン・ホワイト氏から、それぞれ組織が非営利団体として独立性を維持していることや、環境や社会に対する配慮を踏まえた原則や基準、認証の仕組み、さらに現状の世界の認証の状況について、お話をいただきました。

質疑応答では、会場から多くの質問が寄せられ、各スピーカーがそれぞれの知見から回答。特に、国内の生産現場での認証取得について、多くのやり取りがありました。

例えば、国内の生産現場でも本審査まで終了していないものの、予備審査に入っている事例が増えていること、また、コストについても色々な助成制度が活用可能であり、協業化を進めてグループとして審査を受ければ、一件当たりの単価は低く抑えられるといった例が示されました。

また、現状でガイドラインに準拠していないラベルでも、今後要件を満たすよう改善することは可能であるものの、国際的なレベルで透明性や客観性といった点を確立することは容易ではないことも指摘されました。

WWFではこれまで、国際的なスポーツの大会を、持続可能な社会の実現に向けた変革のチャンスとして位置づけ、過去のオリンピック大会でもさまざまな働きかけを行なってきました。

2020年の東京大会についても、2015年 10 月に、提言「One Planet, One Future 一つの地球、一つの未来」を発表。

この提言では、大会での選手村で提供される食材や、建造物などの産品の調達において、地球環境の保全に配慮した国際的な認証制度を受けた産品の活用を求めています。

東京大会を、ロンドンとリオデジャネイロ、2つの大会を超えるような環境に配慮した「持続可能な大会」を実現するために、WWFはこれからも環境に配慮した水産物、木材、紙、パーム油また自然エネルギーの確実な利用と拡大を求めてゆきます。

※当日の講演資料(PDF)はこちらから

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