第17回ワシントン条約(CITES)締約国会議はじまる

多くの野生動植物の国際取引やそれにまつわる課題について、2週間の熱い議論がはじまります。

2016年9月24日から10月5日まで、南アフリカ共和国のヨハネスブルグでワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する法律:CITES)の第17回締約国会議(COP17)が開催されます。サイ、アフリカゾウ、センザンコウ、サメやエイなど多くの野生動植物の国際取引やそれにまつわる課題について、2週間の熱い議論がはじまります。

ワシントン条約(CITES)とは?

ワシントン条約は、絶滅の危機にある野生動植物が、国際取引によって過度に利用されることを防ぐため、国際社会が協力して取引の規制やルールを定め、野生生物を保護することを目的とした条約です。

1973年にアメリカのワシントンで採択され、1975年に発効。日本は、1980年に締約国として加盟しました。

この条約では、対象とする野生動植物を附属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのいずれかに掲載し、附属書ごとの規制を行なっています。

生きている個体はもちろん、ワニ革のベルトのように、野生動植物を材料に作られた製品も対象となります。

現在掲載されている動植物は、35,000種以上です。附属書Ⅰに掲載されているジャイアントパンダやノコギリエイなどは、商業目的の国際取引が禁止されています。

附属書Ⅱには、カバやマホガニーなど最も多くの種が載せられています。

附属書Ⅲは、その動植物が生息/生育する国が、保全のための国際的な協力を求めている場合に使われます。

附属書Ⅱ・Ⅲに載せられている種の輸出入には輸出国の許可証が必要になります。

締約国会議(COP)とは

条約の意思決定は、182の締約国とEUの政府代表が参加する会議(締約国会議:Conference of the parties / COP)によってなされます。

締約国会議は、2~3年に一度開催され、条約の施行を改善するための議題や附属書改正提案を議論します。どちらも締約国(一部は条約事務局や科学委員会)から提案されます。

前者は、予算・人事など運営上の案件、種の識別や需要削減、特定の種の取引調査など多岐にわたります。

後者は、取引の増加によって大きく個体数が減ってきた種を新たに附属書に載せる提案や附属書Ⅰに載っていた種の生息状況や取引上の問題が改善し附属書Ⅱへ移すといった提案など附属書の内容に関わるものです。

第17回締約国会議の開催

今回開催される第17回締約国会議は、ケニアで2000年に開催された第11回会議以来、16年ぶりとなるアフリカでの会議です。

前回の締約国会議から3年半以上経過していることもあり、多くの議案が提出されています。

附属書改正に関する提案は62件あり、その他に90近くもの議題が予定されています。

WWFと、WWFとIUCN(国際自然保護連合)の共同プログラムで、世界の野生生物取引を監視する国際NGOトラフィックも、この会議には世界各地からスタッフを送り、議論の進展を見守りながら、各国の政府代表への働きかけや情報提供を行なっています。

今回の会議で、特に注目される野生生物の一部をご紹介します。

【サイ】

トラフィックとIUCNが作成した状況に関するレポートの中で、2015年にアフリカで密猟されたサイが1,342頭に上り、過去最悪ものであったことが明らかになりました。

「世界的な密猟危機に歯止めをかけるため、この重要なワシントン条約締約国会議を、国際社会がサイの生息国を支援するための契機としなければなりません」と、トラフィックのポリシーダイレクターであるサブリ・ザイン(Sabri Zain)と語っています。

必要な取り組みには、モザンビークとベトナムというサイの密猟危機に最も深く関与している2つの国におけるサイの製品の違法取引撲滅のために改定された法規制を効果的に施行することなどがあります。

サイの角の主な消費国であるベトナムには、消費行動を変えるための努力も求められています。

【ゾウ】

もう一つのアフリカの象徴的な哺乳類で、密猟の大きな圧力を受けている種であるアフリカゾウも、主要議題です。

象牙のために毎年約20,000頭から30,000頭が密猟されており、主にアジアの国々に向けて密輸されています。

アフリカゾウに関する附属書を改正するための相反する提案(将来的に合法的な象牙取引を行なうための提案と、それを阻止し国際取引を禁止しようとする提案)が議題に上っています。

しかし、トラフィックは、密猟および象牙の違法取引の問題に関する取り組み、特にワシントン条約が主導している国内象牙行動計画(NIAP)プロセスを通じた取り組みに、締約国の主要な焦点や注目が向けられることを期待しています。

「NIAPプロセスは、幅広い関係国による多くの積極的な行動につながったが、施行は依然として初期段階にあります。

NIAPが持続的な効果を持つためには、さまざまな計画がその目的に合致したものであるよう、改めて精査、再検討しなければなりません」と、ザインは述べています。

タイは、象牙のあらゆる国内取引を規制するために、ワシントン条約で課せられた義務を果たす中で、称賛に値する進捗がありました。

しかし、他の重要な国の多くは、積極的な法執行を支援し、違反者に対して抑止効果のある罰則を科すための基本的な法令を制定するという出発点にすら達していません。

さらに、法執行における国際的な協力についても、改善が求められています。

【センザンコウ】

アフリカとアジアに生息するこの動物は、食肉とウロコを目的とした違法な捕獲により個体群が急激に減少していると考えられています。

このセンザンコウの窮状も、今回の締約国会議で注目を集めるでしょう。今回、全8種(アジア産4種、アフリカ産4種)について、附属書Ⅱから附属書Iへの移行が提案されています。

これは、アジアに生息する種の急激な減少により、現在は、アフリカに生息する種も同様に取引の標的とされるようになったためです。

トラフィックは、全種の附属書Iへの掲載を支持していますが、各関係国が商業取引禁止の措置をとるための法整備や法の施行がきちんと行なわれなければ意味がないと考えています。

【サメとエイ】

2013年3月に開催された前回のワシントン条約締約国会議において、商業的な漁業の対象となっている多くのサメおよびエイの種が初めて附属書に掲載されました。

今回の締約国会議では、どのように取引規制を効果的に行なうのか、特に、サメ製品が合法的に漁獲されたサメ由来であるか、および流通過程でトレーサビリティ(追跡可能性)をどのように確保するのか、ということが再検討されます。

トラフィックは、合法的な漁業やトレーサビリティについて参考となる文書を提供しています。

また、今回もサメおよびエイの附属書掲載が提案されています。締約国は、この提案に対して投票する機会が与えられます。

その他の議題

その他の重要な議題には、野生生物の違法な取引を助長する、大きな要因となっている、各国における汚職の問題にどう対処するのか。

また、野生から捕獲された標本を「飼育下繁殖」のものと偽って取引する、ロンダリングへの対処などがあります。

また、ワシントン条約の措置を施行するために、各国内で求められる、適切な国内法の制定と施行についても、締約国から進捗が報告される予定です。

ザインは以下のように語っています。「今後2週間は、ワシントン条約締約国がどのように野生生物犯罪に対処しつつ、合法で持続可能な野生生物取引を後押ししていくかを形作るための重要な時間となるでしょう」

「何よりも、我々は、締約国が用いることができる最良の科学的根拠を十分考慮して、決定を行なうことを期待しています」。

締約国会議で決められた附属書の改正やさまざまな合意は、危機にある野生生物が分布している生息国と、それを消費している遠く離れた国々をつなげ、取引をめぐる問題を解決していくための、重要な前提になります。

ここでの議論が、危機にある世界の野生生物の保全に確かに貢献するようになるよう、WWFとトラフィックはその推移を見守りながら、提言を行なっていきます。

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