WWFセミナー in 横浜「Choice! 地球温暖化にあなたはどう向き合うのか」開催報告

温暖化対策は「我慢すること」ではない。今の暮らしの豊かさをそのままに、出来る工夫がある。

2015年12月に開かれた、国連の気候変動会議「COP21」で、温暖化防止に向けた世界の新しい約束「パリ協定」が合意されました。この「パリ協定」とは何か。そして、それはこれからの未来にどのような変化をもたらすのか。WWFでは、温暖化の最新の科学と、このパリ協定について報告するセミナー「Choice! 地球温暖化にあなたはどう向き合うのか」を、2016年1月、横浜市で開催しました。

温暖化の実情と世界の新しい約束「パリ協定」について報告

2015年12月、フランスのパリで開かれた国連の気候変動会議「COP21」において、すべての国が温暖化対策に取り組む「パリ協定」が合意されました。

これは、先進国・途上国の長く深刻な対立を乗り越えて実現した、温暖化防止のための世界の新しい約束です。

こうした国際的な取り組みが求められる背景にある、地球温暖化の現状と、この「パリ協定」について、広く理解していただくため、WWFジャパンは2016年1月12日、横浜市でセミナー「Choice! 地球温暖化にあなたはどう向き合うのか」を開催しました。

このセミナーは、2015年3月にWWFと環境分野における連携協定を結んだ、横浜市との協力により実現したものです。

セミナーは第一部の講演と、第二部の参加型のワークショップで実施。

第一部では、問題の基礎である気候変動の脅威、そしてCOP21と「パリ協定」について、講演を行ない、第二部では、主に学生の皆さんを交えた参加形式の討論会が行なわれました。

220名の方が集まった会場からは、質問や発言も相次ぎ、この問題に対する関心の高さがうかがわれました。

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【第一部】

講演1:気候変動のリスクと人類の選択

国立環境研究所地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室室長 江守正多

第一部の講演では、まず気候変動に関する第一線の科学者である、国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多氏より、地球温暖化の現状についてお話をいただきました。

地球の大気は二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを含んでおり、その温室効果がまったく無いと、熱が宇宙に効率よく逃げてしまうため、地球の平均気温はマイナス19度前後にまで下がってしまうこと。

一方で、産業革命後、石炭や石油の燃焼により、大気中のCO2濃度が急増し、産業革命前に280ppm、1960年頃に310ppmだったその濃度が、現在は400ppmを越え、それに合わせて確実に地球の平均気温が上昇してきたことなどをお話しいただきました。

とりわけ、今から2100年までの間に予想される気温の上昇を、世界地図上に色分けし、その変化を映像で見せる2通りのシミュレーション(平均気温の上昇が2度と4度のもの)は、参加者の印象に強く訴えるものとなりました。

また、江守先生は、温暖化には「8つの大きなリスク」があること。そして、そのさまざまなリスクは、気温上昇のレベルや地域によって大きく異なってくることを指摘。

温暖化のリスクをどの程度防ぐべきかは、必ずしも科学だけで決まるものでは無く、貧困や経済といったさまざまな視点から見た社会的な判断によるものであることを強調されました。

COP21の「パリ協定」では、この4度のリスクを招かないために、世界が「平均気温の上昇を2度に抑える(1.5度に抑える努力も行なう)」ことを選択して、長期目標としたと説明されました。そのために「今世紀後半には温室効果ガスの排出量を実質ゼロ」をめざすことに合意したのです。

社会的な判断をふまえ、そして気候変動のリスクを全体像で捉えること。その上で、これから自分たちが目指していくべき未来をどのように考えるのか。

江守先生のお話は、気候変動の脅威をどのように捉え、その対策としてのCOP21をどう位置付ければよいのか、判断してゆく上で、非常に示唆に富んだものとなりました。

講演2:COP21報告 国際交渉パリ合意の最前線から

WWFジャパン 気候変動・エネルギー プロジェクトリーダー 小西雅子

続いて、WWFジャパンの小西雅子から、パリで行なわれたCOP21での交渉の幕内と「パリ協定」について、ご報告しました。

「今世紀後半には温室効果ガスを実質ゼロにする」という大きな目標を持つこの「パリ協定」が、実際にどのような内容で構成されているのか。

また、途上国がなぜ、温暖化対策に取り組むことに納得し、日本を含む先進国側は、どうして資金や技術支援などに大きく譲歩する決断をしたのか。

11年間にわたって困難な国際交渉の現場を追い続け、今回の歴史的な合意の瞬間にも立ち会った小西からは、そうしたパリでの交渉の裏に、合意をめぐるさまざまな駆け引きと、議長国フランスの絶妙な手腕があったことをお話ししました。

「パリ協定」が、「京都議定書」のような、先進国の削減目標の達成を義務付けたものにならならず、「達成のための手段を定めた」ものになった理由が、「厳しすぎる」ゆえに各国の離脱を招く結果を防ぐためであったこと。

また、温暖化をめぐる国際交渉が始まった1990年代と比較し、世界のパワーバランスが大きく変わり、国際交渉自体も変化を迫られてきた結果、今回のような合意が交わされ、さらに「先進国対途上国」という従来型の構図が、大きく崩れたことも小西は指摘。

COP21で誕生したヨーロッパやアフリカ、アメリカなどまでが加わって作られた「高い野心同盟」と呼ばれる、温暖化防止に積極的な国々のまとまりが、先進国、途上国を問わず、これからの世界の未来を切り開かれてゆく立場になってゆくことを報告しました。

現時点では、各国が出している削減目標は全てを足し合わせても、平均気温の上昇を「2度」に抑えるためには、不足しています。

世界が温暖化の深刻な脅威を抑える上で必要なラインとされる、この「2度(1.5度)」という目標。ここに到達するためには、各国が今後、パリ協定で交わした約束に則り、削減目標を改善し、それぞれの国内でCO2の削減努力に、より力を入れていくことが求められます。

当然、世界第5位の温室効果ガスの排出国である日本も、大きな変化が求められます。

それは、これから日本がどのようなエネルギー社会を目指していくのかを問いかけ、ひいては日常の生活にもさまざまな変化をもたらすものなるでしょう。

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【第二部】

ワークショップ:Choice! 地球温暖化にあなたはどう向き合うのか

第二部では、学生の方々をはじめ、会場の参加者の皆さまにもご参加いただいて、地球温暖化という困難な課題にどう向き合うか、さまざまな視点や立場に立った対話を行ない、自分たちの未来のためにできる取り組みやライフスタイルについて考えました。

ここでは、参加者全員に、ルビーとサファイアをイメージした赤と青のカードが渡され、国際交渉に臨むさまざまな立場に自分が置かれた場合を想像していただき、その立場から意見を表明してもらう、というアクションを実施。

たとえば、インドの立場であれば、「貧困を脱するため経済活動を優先すべきなので、義務としての排出削減はしなくてよい。やるなら先進国が資金を出すべき」(赤のカード)という意見と「国としての総排出量は多いし、気候変動の影響を受けているのだから排出削減を義務とするべき」(青のカード)という2つの意見を並べ、それぞれ赤と青で、参加者ご自身の選択(choice!)を示していただきました。

すると、回答は赤が全体の約7割。青は3割という結果でした。

さらに、それぞれの意見を選んだ方から、直接ご意見をうかがってみると、

  • 「貧困問題を考えると、やはり赤を選ぶ。排出量以前の生活レベルの人たちに求めるべき解決ではない。より出来ることがある国が、まずやるべきではないか」(赤の回答)
  • 「温暖化を伴うこのままの成長が経済格差を拡大させるのではないか。別の方法での成長、青のほうで伸びていくべきなのではないか」(青の回答)
  • 「日本の企業がインドに進出することで日本も利益を受けている。そうしたインドの経済成長によってCO2が出ているのだから、日本は資金や技術を提供するべきではないか」(赤の回答)

といった、非常に真剣かつ鋭いご意見がいくつも聞かれました。

同様に、「日本の立場」としての意見や、今後の温暖化対策を促進する上で必要なのは「技術革新」か「社会変革」か、といった質問に対しても、赤と青、2つの立場からのさまざまな意見が交わされました。

今回のセミナーでシンボル・イメージとしたルビーとサファイアは、色こそ赤と青で異なるものの、元来同じ組成を持つ鉱物です。

第二部では、こうした会場への呼びかけとその応答を通じて、たとえ立場や選択が異なっていても、温暖化のない未来を目指していくという目標が、変わらず一つであることを、参加者の皆さんと共に確認しました。

最後に、WWFジャパンの小西雅子からは、特に学生の皆さんに向けて、次のようなメッセージを贈りました。

「ここにいる参加者全員の方が、赤と青、両方の答えに真実や必要な理由があることを、よく理解していらっしゃると思います。

どのような情報に触れるかで、人の意見は変わりますから、多様な情報に触れ、多様な意見の中から、これからの未来を創っていく答えを見出していってほしいと思います。

特にグローバルな視点を得る意味で、WWFの発信や情報も活用していただければと思います」

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多くの方々の参加を得て

セミナーでは最後に、本イベントをご共催いただいた横浜市の温暖化対策統括本部・野村宜彦部長から、自治体としての環境保全の歴史と現在の取り組みについて、ご紹介をいただきました。

市がNGO(非政府組織)や企業等、多様なステークホルダーと共に協力していること。環境、経済、社会、という3つの立場からの意見を聞きながら、そのバランスを取って取り組んでいく必要があること。そして横浜では市民の力「市民力」が一番の強みであること。

セミナー会場でのポスター展示でも紹介されていたこれらの取り組みは、いずれも横浜市ならではのものであり、今後の拡大が期待されるものです。

特に、その中で語られていた、温暖化対策は「我慢すること」ではない、今の暮らしの豊かさをそのままに、出来る工夫がある。もっと賢く取り組むこと、まだまだ出来ることがあるはずだ、というメッセージは、まさにこれからの日本に求められる姿勢であり、温暖化対策を進める上でのカギになるものといえるでしょう。

「パリ協定」の先にある、温暖化の脅威のない未来。それは、さまざまな協力と理解のもとで進められる、これからの取り組みにかかっています。

開催概要

WWFジャパン 気候変動セミナー in 横浜

※この講演会の消費電力は全てエナジーグリーン(株)ご提供のグリーン電力証書で充当しました。

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