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アニメやkawaiiだけがクールジャパンじゃない――総合力、そして伝えること

2013年07月09日 19時06分 JST | 更新 2013年09月08日 18時12分 JST

経済力Gross National Product(国民総生産)ではなく、日本特有のGross National Coolという文化的クールさに脚光が当てられてから10年以上になります※1。これが起爆剤になって表舞台に引っ張り出されたのはアニメ、漫画に代表される多分にオタク系、アキバ系のサブカルがほとんどでした。本来は、そうではないのですが。

なぜなら、こうしたサブカルとは無縁か無関係の日本人の日常の生活・文化そのものがクールなのです。まさに、日本のGross=総合力(と訳してもいいと思う)がクールなわけで、語弊があるけれど「クールジャパンをオタクだけに任せておくわけにはいかない」のです。

もちろん日本のアニメ漫画などのサブカルは、私は大好きですし、世界に誇るものだと断言できます。「選挙の争点」としてクールジャパンを考えると、中村伊知哉教授の提言通りで、文化省の新設や(特に!)著作権制度の見直しなど政策的なことになるでしょう。

ただ、確かにサブカルはクールジャパンの牽引役として最適でしょうが、総合力としては決定力になれないと思います。なぜなら総合力というのは、「日常」だからです。世界中の人がパリに憧れ訪れる理由は、(いくら通りが犬の糞だらけで地下鉄が小便臭くて人は不親切でも)あの都市の日常(街角のカフェ、ビストロ、あふれるファインアート、街並み)に惹きつけられるわけでしょう。

「日常のクール」さが、世界中の人々の頭の中に刻まれているのです。

日本の場合はどうでしょう。(私の場合は主として欧米系に偏っていますが)外国人と話をすると、日本の文化の話題はオタク系コンテンツ、食の話はsushiでピリオド。最近はramenの話ができる人も増えましたが、こうした極めて限定的な話題で盛り上がって、最後は「行きたいけど、日本は物価が高いから」っていう話になってしまう。

冗談じゃない、です。

まず「食」。寿司って日本の多種多様多美多彩な料理のひとつにすぎません。そして、求道的な料理人の多い日本の「食の日常」は、多彩な料理のそれぞれが超ハイレベルだということを知らない(日本人もそんなに恵まれていると知らないのですが)。『ホットペッパー』にクーポン付きで出ている洒落た居酒屋やレストランだったら、どこの国に出店しても間違いなく味も雰囲気も(サービスは言わずもがな)口コミで大評判になります。ミシュランの星がついていなくても日本の居酒屋割烹のみならずフレンチやイタリアンなど世界の料理を出すレストランのレベルは突出しています。

今ホノルルに住んでいるので、ここの例をひとつ。食べ物系から医療機関など生活に関するほぼあらゆる情報を網羅した全米人気SNSサイトYelp。このサイトのホノルルの全レストラン総合評価で、日本の丸亀製麺(Marukame Udon)が4位です(ちなみに、1位と2位は日本人板さんの寿司屋)。

「グルメ」とはちょっと呼べないような地方都市ならどこにでもある外食チェーンなら(牛丼チェーンでさえ)、世界的基準からすれば既に十分グルメです。パンやケーキ、そして最近はベーグルにしても、日本のいいお店は、本場の最高の店と遜色がない、「それどころか」です。しかも、そこかしこにある!

そして「値段」。外国人の多くは、いまだにバブル期の猫の額ほどの土地の値段が100万ドルだとかいう時代錯誤なニュース、メロン1個が3万円するという酔狂なニュースを「日常」だと信じているわけです。

バブル崩壊後の日本ではデフレとグルメが同時進行しました。1000円出せばファンシーなランチや懐石風昼定食が食べられる大都市が世界中のどこにあるのでしょう。ホテルにしても東京でさえ(他都市と比較すると異常なぐらい)安くて清潔(ただし、狭い)。

この他にも伝統工芸や温泉はもちろん、「無形の」安全、安心、信頼、約束は守る...挙げ続ければきりがありません。

日本人の『普通』が中国人の『劣等感』を刺激する」という記事にもありましたが、日本の「普通」は中国人以外の多くの外国人の「あこがれ」を刺激することは確かです。

ただ、知らないのです。人びとが認識して魅力的だと感じてくれない限り「クール」には昇華しない。つまり、伝えなければいけないのです。国家戦略として政治家の取り組むべき第1の点でしょう。

もちろん、クールでないところはいっぱいあります。サブカルは突出していても大人のエンタメは発展途上(例えばミュージカルやショー)。世界を席巻した電化製品は凋落気味で、デフレとはいっても多くの都市のバス代は高いままだし、一部の輸入品の値段はぼったくり的レベルのままです(例えば薪ストーブの値段)。社会に目を向けると少子高齢化、極端なコンプライアンス、冤罪の危険度、異常な著作権、(以下は個人的なもの)教育に対する支出のみじめさと教員の忙しさ等々。

マイナス部分も枚挙にいとまがありません。つまり、市民と寄り添って一つずつ「つぶして」いくことのできる政治家が必要なのです。

「争点」というお題で書くにはあまりにも包括的になりましたが、クールジャパンは日本の日常的総合力に磨きをかけ、それを外国人だけではなく日本人にも認知してもらう、このための政策実現だと思います。

※1 政治経済誌であるForeign PolicyにDouglas McGray氏のJapan's Gross National Coolが掲載され国内外で話題を呼び、国の文化力を伝える外交戦略であるパブリック・ディプロマシーの重要性が再認識された。