原発事故が生んだ「サテライト授業」

平成23年度は、一つの学校が数カ所に分かれると言うこともあり、生徒は離ればなれになってしまって大変だったが、教員も同様に大変であった。基本的には、一つのサテライト校に勤務する形態であるが、担当教科によっては、週に何回かいくつかのサテライト校を移動しながら授業を行っていたと聞いている。本当に掛け持ちの教員は、身体的に精神的に辛かったであろう。

東日本大震災から2年が過ぎた。平成25年4月1日からの福島第一原子力発電所付近の避難指示区域の見直しが行われたが、この公示についてほとんど知っている国民はいないであろう。福島県には、まだ、立ち入り規制の地域が依然として存在している。

福島県について一言で説明すると、南から北へつらなる阿武隈高地と奥羽山脈によって、西から、会津・中通り・浜通りの3つの地方に分けられ、特に、津波と原発事故により被害を受けた地方は、浜通りと言うことになる。

ボランティア関係で、関東圏から浜通りの北の相双地区(相馬市から双葉町の地区)に来るときに、ナビによる案内で常磐道(国道6号線)を利用しようとしたら、途中で行き止まりでした。とよく聞く。実際、図1にある通りである。

福島県の浜通りの高等学校の校舎のいくつかは、仮設校舎であったり、ある施設を間借りしたりしているが、岩手県や宮城県のそれとは、かなり状況が異なる。福島第一原発付近は立ち入りが規制されているからだ、現在は、8校が本校舎ではない他の地域でなんとか再開しているが、震災直後は、避難すべき10校(2校は、平成23年度中に本校舎で再開)は勿論のこと、受入高校も非常に困難を要したという。南相馬市原町区に所在する原町高校と相馬農業高校は、震災直後、緊急時避難準備区域に指定され、避難を余儀なくされたが、平成23年9月30日に、緊急時避難準備区域が解除され、その後、本校舎で再開した。

平成23年度の状況について、原町高校と双葉高校の2校を例に上げる。浜通りの進学校でもあり、状況の異なる2校であるからだ。

まず、原町高校の状況について、震災前には全校生徒700名程度在籍していたが、震災後、半数が転校した。300名弱の生徒は、相馬高校(相馬市)での間借り授業(サテライト授業と呼ぶ)を受け、50名程度の生徒は、福島西高校(福島市)でのサテライト授業を受けた。平成23年10月下旬以降は、相馬高校でのサテライト授業は無くなり、本校舎での授業再開となる。福島西高校のサテライト授業は平成23年度中継続されるが、平成24年度からは、本校舎に統合されての授業再開となる。

次に、双葉高校の状況について、震災前には全校生徒480名程度在籍していたが、震災後、280名程度が転校した。原町高校より複雑で、200名程度の生徒が、福島南高校(福島市)、あさか開成高校(郡山市)、葵高校(会津若松市)、磐城高校(いわき市)の4カ所でサテライト授業を受けた。平成24年度からは、いわき明星大学に集約され、現在、大学の一部施設を利用しての再開している。なお、双葉高校の他に双葉翔陽高校と富岡高校の国際コミュニケーションコースと福祉健康コースの3校が、いわき明星大学を利用してサテライト授業を行っている。現在移転してサテライト授業を行っている高校を表1に示す。

平成23年度は、一つの学校が数カ所に分かれると言うこともあり、生徒は離ればなれになってしまって大変だったが、教員も同様に大変であった。基本的には、一つのサテライト校に勤務する形態であるが、担当教科によっては、週に何回かいくつかのサテライト校を移動しながら授業を行っていたと聞いている。本当に掛け持ちの教員は、身体的に精神的に辛かったであろう。

平成24年度からは、表1に示している形で授業が行われているが、教育環境が全然整っていない。仮設校舎には必要最低限度な教室・職員室などはかろうじて設置されているが、理科実験室、音楽室、美術室などの特別教室や職員が集まる会議室、進路指導室などは、設定されていない。勿論、体育館もない。そのため、敷地内にある本校舎の施設を借りて授業を行っている。このような状況がいつまで続くのであろうか、今年で3年目である。現在の3年生は、本校舎での授業を受けたことがない。幸運にも、高校受験の際に一度、本校舎に足を踏み入れたということだけは言えるだろう。

平成25年度には、小高工業高校と小高商業高校との統合高校が開校するはずだったのだが、このような状況にあるので、全く計画が進んでいない状況である。相双地区の教育改革・政策が、この震災で全く機能していない。この震災を克服するためには、相双地区から将来の復興計画を考え実行する、強い意志を持った優秀な人材を育成しなければならないだろう。是非とも、福島の復興政策の一つに相双地区の教育改善を取り入れてもらいたい。

参考資料:平成24年度相双地区高等学校PTA連合会研修会資料(平成24年11月17日)

図1:帰還困難区域・警戒区域 迂回路情報

表1:平成24年度以降、東日本大震災に伴い移転している高校

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