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お母さんの愛情不足ではありません

2014年06月28日 18時40分 JST | 更新 2014年08月27日 18時12分 JST
森戸やすみ

 先日、ある講演会に出席しました。いろいろな分野のエキスパートの話を小児科医が集まって聞くという講演会です。演題の一つが乳幼児健診についてで、専門的な話の後に、医者がお母さんに言ってはいけないことというスライドが出て来ました。「でもね、おかあさん...」、「それじゃだめだよ」「気にしすぎだよ」、「愛情不足」というのがありました。お母さん達へ否定的な言葉を言ってはいけないということですが、最後の1つはなにそれ、全否定ではないのと思い驚きました。私は、そんなことを本当に言う医者がいるのかなと思ったのですが、フェイスブックやツイッターで聞いたところ実際にいるそうです。身近な人も歯科医師もお母さんに対して「あなたは子どもに対して愛情不足だ」と言うことがあるらしいのです。例えば歯が痛いと子どもが言ったので歯医者に連れて行ったところ、歯はなんともないので「下の子が生まれて親の気を引きたいために歯が痛いと言ったんでしょう。もっと愛情をかけなければダメだよ。」というように。ツイッターでは、あるお子さんが健診で発語が少なかったため、「コミュニケーション不足」と言われたそうです。そのお母さんが帰ってから旦那さんに報告したところ、旦那さんからも「君は子どもに対して笑顔不足だし、愛情不足」と言われたそうです。ふぁっ?驚愕です。私が疑問に思ったことを整理すると、①そのお母さんは本当に愛情が不足しているのか、②不足だと感じているならお父さんが代わりに愛情を補うことはしなかったのか、③そのお父さんは妻が笑顔不足で愛情不足になっていることを感じていながら、その話を聞かなければ何か言ったり何かやったりする気はなかったのか、④子どもが小さいうち、父の重要な役割は母を支えることだという話を聞いたことがないのかということでした。

 小児科医をして十数年経ちますが、乳児健診にお子さんを連れてくる人に、親御さんの愛情が本当に不足していると感じたことは一度もありません。市区町村から乳児健診が無料になる用紙をもらっても行かない人もいる中で、わざわざ平日に連れてくるような人達です。集団健診でない場合は、自分で医療機関への予約が必要です。愛情がなければできません。母子手帳の予防接種の欄はきちんと埋まっていて、お子さんに対しての細やかで医療的な質問をされるか、全く心配なことはありませんと言われるお母さんが多いです。最近はお父さんが一緒の方も、お父さん一人で連れて来る方も増えました。お子さん達が大切に愛情を持って育てられていることを感じます。

 そもそも愛情って、測れませんね。どこまでが不足で、どこからが過剰なんでしょう?検証不可能なことを言って母親を責めることになんの意味があるのでしょう?母としての愛情が発揮できていないと判断したら、身近な人や医療者はその原因を調べて支援するべきです。また、お母さんご本人が病気だったら、精神的に追い詰められていたら、経済的に困窮していたら、人間関係で悩んでいたら子どもへの愛情どころではないという状況もあるかもしれません。愛情の発揮の仕方がわからないようなら、まだ話すことができない子どもでも話しかけや絵本の読み聞かせが大事なこと、視線を交わすだけでも安心感につながることなどを話し合うのもいいと思います。困っている人をあなたが悪いと糾弾して、いいことは一つもないように思います。

 「愛情不足なのかもしれないと自分で悩む人がいるかもしれない」と私のママ友が言っていました。しかし、自分でそんなことを悩む人が愛情不足であるはずがないと思うのです。子どもに愛情を感じていなければ、出てくるはずのない疑問だから。

 残念ながら無責任な言葉で母親を傷つける人というのは、います。でも、気にするのはやめましょう。その人はよく知らないから、私にそんなことを言ったのねとスルーする力というのが育児では大事です。自分で「愛情不足かしら」と悩む人は、もう充分愛情を持っています。