シリコンバレー報告(シリコンバレーに興奮 篇)

7月末から4泊7日でシリコンバレーに行ってきた。米日カウンシル主催の知事会議だ。出発する少し前に佐賀空港の自衛隊使用などの話が出て来たので、僕が米国に行って米軍の関係者と会うのではないか、という憶測が一部にあったらしいが、全くそんなことはない(笑)。その間、何をしていたか、佐賀県庁のサイト「こちら知事室です」にほぼ毎日動画で報告をしているので、ぜひ見ていただきたい。

7月末から4泊7日でシリコンバレーに行ってきた。

米日カウンシル主催の知事会議だ。

出発する少し前に佐賀空港の自衛隊使用などの話が出て来たので、僕が米国に行って米軍の関係者と会うのではないか、という憶測が一部にあったらしいが、全くそんなことはない(笑)。

その間、何をしていたか、佐賀県庁のサイト「こちら知事室です」にほぼ毎日動画で報告をしているので、ぜひ見ていただきたい。

忙しくはあったが充実した出張だった。

恥ずかしながら、初めてのシリコンバレー訪問だった。でも、数日間そこにいるだけで新しいビジネスや技術が生まれて来るのが分かるように思った。

いろんな人たちに、なぜシリコンバレーで新しいものが生まれるのか尋ねてみたが、一つひとつ何となく理解できるものだった。

月曜日の朝に訪れたフォガティ研究所。これはフォガティカテーテルという風船付きのカテーテルを開発した循環器の医師であるフォガティ先生がNPO組織を作り、起業の支援をしておられる。

そのフォガティ先生は「世界中がここの地域のマネをしている。でもなかなかうまくいかない。それはこの地域のECOSYSTEMというものがユニークだからだ。スタンフォード大学やUCバークレーなどの大学が存在し、ベンチャーキャピタルが多数あり、しかも人々は起業に対して理解がある。」と言われていたし、そこで働く日本人のスタッフも「最後は空気感、でしょうね。インキュベーションスペースのあり方も日本とは違っていて、あまり垣根がありません。ごらんのとおり、隣が何をしているのか、手に届くような感じすらあります。なので、みんなお互いに話をして、ヒントを得たり与えたりしています。でも、知的財産権にからむような、話してはならないことは、もちろん話しません。このへんの空気感、というかバランス感は、ここにいないと分からないものですね」と言っていた。

また、ここに入居している医療器具関係の会社のスタッフ(日本人)は「ここにいると垣根が低い、というかエライ人とかそうでない人とかそういう敷居が低いのを感じます。私たちのところに手術室から医師が直行して来ることも珍しくありません。そして使ってみた器具のことについて報告やアドバイスをくれます。医師だから話しにくい、ということは全くありません。」と言う。

こうした垣根がなく敷居が低く、そして何より人々が平等で新しいものを創り出すことに対して前向きでいることができる雰囲気がある、というのも起業が成功するために必須の要素なのだということだと思う。

また、フォガティ研究所は古い病院の建物を改造して研究所のオフィスやインキュベーションスペース、工房に使っていた。コワーキングスペースのImpact Hubはサンフランシスコクロニクルという新聞社のビルを借りて、新聞社の雰囲気を色濃く残した中でやっていた。Plug and Play Tech Centerというインキュベーションセンターの入っている建物も、もともとは別の企業のオフィスだったものをそのまま使っているなど、ハードにお金をかけてないのだ。日本で何かこの手のことをやろうとすると割とハードに力を入れてしまうが、これは力の入れ先が違う、ということなのだろう。

なぜシリコンバレーなのか。

東海岸にもブランチがあるImpact Hubの責任者に、東海岸と西海岸ではどこがどうちがうのか、聞いてみたところ面白い答えが返ってきた。彼女は東海岸の出身だが、その彼女から見ても「この地域はユニークなのだ。組織的なヒエラルヒーにとらわれない、成功をめざす雰囲気がある」と言う。「そもそもその雰囲気はアメリカという国そのものが持っているのではないか」と聞いてみたが、「多少なりとも確かにそういう面があるが、東海岸は西海岸に比べて保守的で、これほど成功に対してみんながひたむきではない」と言う。

「失敗を悪いものととらえない」というのはこの地域の考え方としてよく言われているが、この地域のある企業はこんなモットーを持っているという。「Fail quickly」。

確かに「早く失敗して、そこから学ぶものを学んで、さらに成功に向けて挑戦する」ということなのだろう。「Failure is the road to success」(失敗は成功への近道)という言葉もあるという。このように失敗に悪いイメージがない地域、というのは簡単には作れないのだろう。

この地域には、この手の言葉が溢れていた。その分、そういうスピリットも溢れているということだろう。

Plag and Playでの、モバイルをテーマにしたプレゼンテーションの会には、佐賀県からスマホ関連のソフトウェア技術を持った企業も参加した。

5分という短い時間(だいたいどこでも5分らしい)でその企業はすばらしいピッチ(プレゼンテーションのことをこう呼ぶらしい)を行った。質問のコーナーになると会場から何人もの手が挙がり、ひっきりなしに質問が続いた。すべての企業のピッチが終わった後はネットワーキングタイムになったが、どの企業にもどっと質問者の輪ができ、何か一緒にできないか、という提案や相談が繰り広げられていた。ああ、こうやって新しいビジネスや製品が出来上がっていくのか、というその瞬間を見たような気がした。

書き出すときりがないくらい今回の出張は得るものが多かった。

なんとヤフーの創始者のジェリー・ヤン氏にも会うことができた。僕は彼にこういう質問をした。「I'm wondering what you are doing everyday」(いったい毎日何をしておいでなのか知りたいのですが)。司会のダニエル・オキモト氏(スタンフォード大学名誉教授)が茶々を入れた。「彼の奥さんも同じことを思っているよ」(笑)。

ジェリーはいま投資家への支援をしているのだと言う。たとえば、として教えてくれたのが卵の味のする植物の開発、ということだった。

卵の味のする植物!? EGGPLANT(なす)とかと思ったが、それはカタチが卵に似ているだけ。味が卵に似ている植物なのだ、と言う。それが成功すれば卵を取るためだけに鶏を飼う必要がなくなる、マヨネーズも植物性のものだけで作ることができるようになる、そんな話だった。

このほかスティーブ・ジョブズと一緒に長くアップルで仕事をしてきたジェームズ・ヒガ氏のこれからのITの行方についてのお話も刺激的だった。たとえば「Internet of Things」という言葉がこれからキーワードになる、とのこと。

これは、これまでインターネットというのは通信関係のものをつないでいたのだが、これからはモノをつなぐようになる、ということ。車もネットにつながるし、家電もそうなる。そういう「モノのインターネット」がこれから主流になっていく、という意味だった。

この言葉はどこに行っても耳にした。次の時代にはこの言葉が広がっていくのだろう。

僕は土曜日の朝に佐賀に戻ってきた。湿潤な雨が僕を迎えてくれた。

Plag and Playに入居しているある日本企業のスタッフが、こう言ったことを思い出した。

「なぜシリコンバレーなのか。気候だ、という人もいるんですよね。一年中雨がほとんど降りません。人が暮らしていくのにとても適した気候です。冬場どんより、というのもありません。こういう気候のほうがものを前向きに感じられる、ということがあるというのは確かかも、ですね。」

それともう一つ。「日本企業で働いている人が会社からの派遣でこちらに来ている、というのは多いですよ。みなさん優秀で、こちらのものをすぐに吸収されているようです。でも、そういう優秀な方は帰国する飛行機に乗って日付変更線を越えるとそれまでのことを忘れて日本企業の一員として働かれる、という話もよく聞きます。」

僕も日付変更線を越えて帰ってきたが、それでもなお若干の興奮状態にいる。この気持ちをできるだけ忘れずにいたい。幸いなことに、今回は何人もの職員や佐賀県企業の方々ともご一緒した。ときどき、その気持ちを忘れていないか確かめるようにしたい。

ふるかわ 拝

(2014年8月5日「週刊yasushi」より転載)

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