少子化対策を真剣に考える――異端的論考(3)

女性に産めよ、育てよ、そして、働け、しかし、母性は重要だ、という矛盾というよりも支離滅裂なことを平気で連呼する程度の政府自民党と御用有識者の秘策に期待が出来ないのは考えれば当たり前かもしれない。

総務省の住民基本台帳に基づく人口動態調査(各年1月1日現在)によれば、日本の総人口の減少は5年前から始まっている。日本の総人口は2009年を頂点に5年連続で減少し、人口減少数も毎年拡大している。2014年1月1日現在の総人口は、前年比24万3684人減の1億2643万4964人で、14歳以下の「年少人口」と15~64歳の「生産年齢人口」の割合は過去最低を、65歳以上の「老年人口」の割合は過去最高を記録している。日本は、高齢化の進む人口減少局面に入ったと言える。

最近、人口減少問題がマスコミで取り上げられることが目立って多くなってきている。マスコミが一過的な人手不足感(外食産業などの若者アルバイトの奪い合いは、毎年若者の人口が減少するので、安価な若者の労働供給が奪い合いになるのは確かである)を取り上げるせいか、安倍政権が「50年後に人口1億人を維持」というかなり荒唐無稽な目標(出元は、政府の財政諮問会議がおいた(政府に都合の良い)有識者委員会である「選択する未来」である)を掲げたせいか、はたまた、増田元岩手県知事が主催する日本創成会議が、このまま少子化が続くと896の自治体が消滅の恐れがあると言うショッキングな報告書を出したせいかもしれない。

その中で、議論の中心になるのは、少子化対策である。なんといっても、50年後に人口1億人を維持するには、2030年を目処に合計特殊出生率を人口置換水準である2.07まで引き上げなければならない。合計特殊出生率は、1984年の1.81から2005年の1.26まで急激に低下し、それ以降、1.4前後にある。この30年の低下傾向を15年でどうやって戻すのであろうか?安倍首相を始め、有識者の方々には秘策があるに違いない。まさか、育児休暇期間の3年間への延長、学童保育の受け入れ枠の拡大、男性の育児休業取得推進や子育て参加支援、俗に言う育メンの育成と支援、第三子以降の出産・育児の(これまで同様の中途半端な)重点支援、積極的な婚活支援、働く母親のために家事を担う外国人労働者の雇用の解禁(住み込みではないでしょから、いくらお払いするんでしょうかね)などが秘策とはおっしゃるまい。しかし、6月24日に発表された成長戦略を見る限り、どうも、これらが秘策のようである。

考えてみれば、女性に産めよ、育てよ、そして、働け、しかし、母性は重要だ、という矛盾というよりも支離滅裂なことを平気で連呼する程度の政府自民党と御用有識者(年齢と保守的価値観から察して、おそらく、多くは、育児もしていない方々ではないか)の秘策に期待が出来ないのは考えれば当たり前かもしれない。世界中でひんしゅくをかった、自民都議の議会でのセクハラまがいの女性蔑視ヤジ問題とスケープゴートは一匹にしようと言う都議会の大人の対応的幕引きを見るに、この国の多くの政治家さん(内実は自民党さんですが)は、本音では、女は専業主婦になって一杯子供を産めと思っているふしがある。このような政治家がまともに、少子化問題を解決できるとは到底思えない。

実際、人口減少に歯止めをかけようとすると、問題は、合計特殊出生率の問題だけではなく、出産時期にある女性の人口減少の問題も大きいといえる。これが、前述の日本創成会議の自治体の消滅の議論につながる。合計特殊出生率の2013年の値は1.43で、2011年の1.39、2012年の1.41から、回復しているが、2013年の出生数は年間102万9800人で、過去最少である。来年、100万人を下回るのではないか。社会保障・人口問題研究所の精度の高い予測では、合計特殊出生率は今後大きく回復はしないとされている。

超高齢化で高齢者の人口が多いので、今後は死亡者の数が増加する一方で出生者の数は減っていくので、人口減少のペースは一挙に高まる。社会保障・人口問題研究所の中位人口推計によれば、2020年の東京オリンピック終了後には、毎年60万人レベル(現在の鳥取県の人口)で人口は減少し、その減少数は増加の一途をたどり、20年後の2040年には、100万人レベルで毎年人口が減少していく。毎年、政令指定都市が一つ、県でいえば秋田県か富山県が無くなっていく計算である。このままいくと、1200年もすれば日本人はいなくなる計算となる。

「私の第3の矢は日本経済の悪魔を倒す」とおっしゃる安倍首相(このひとは本当に大丈夫なのだろうか)の成長戦略のなかの少子化対策程度で、急速に合計特殊出生率が高まり、出生数が急激に増えるくらいであれば苦労はなかろう。それを真剣に信じている方がいればお目にかかりたい。かといって、安倍首相が強く反対する赤ちゃんポストが爆発的に増えることもありえないであろう。さりとて、シングルマザーの多くが生活保護にある現状に何も手を打たない石頭の日本の保守的政治家にフランス型の伝統的家族観の否定(イタリア・ドイツ・日本という3大少子化国家の共通点は三国同盟ではなく、伝統的な家族観の強い社会であることである。この社会的抑制(これを日本の伝統・美徳とおっしゃるのが自民党の政治家さんと高齢者である)によって結婚をしないと子供を作らない傾向が強く、女性の社会進出による晩婚化・非婚化は出生数の低下を導く)は到底許容できないであろう。

出来もしない、フランスやスウェーデン(両国ともに婚外子の比率が半数を超える)の事例を良く引き合いに出す役人と政治家の神経がわからない。フランス型の根本的な原理を理解していないか、日本には参考にならないことを知りながら引用しているかのどちらかなのであろう。移民を少子化と結び付ける議論など、そのための受け入れ移民の数や人口増の時間軸を考えると現実的な議論とは到底言えない。

ここで、少子化を改善するための非現実的な現実的議論を展開したい。現実的に考えて、合計特殊出生率の改善に期待をもてない以上、現実を見て考える必要がある。現在の人口妊娠中絶(刑法には堕胎罪なるものがあるのだが、都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師が母体保護法第14条に基づいて行う堕胎(妊娠22週未満)は罰せられない)の数は、厚生労働省の衛生行政報告例の概況によると2012年度で年間196,639件で、約20万人である。

これは、厚労省による公の人口妊娠中絶数であるので、これに水面下の人口妊娠中絶を入れると一説には年間30万人とも言われている。

人工妊娠中絶された命はすでに存在している命である。婚活やら育児支援などという、誕生につながるかどうかわからない話とは比べ物にならないのではないか。この救済、つまり、人工中絶児の出生と育児に国家として乗りだすのはいかがだろうか(18歳未満の中絶は約8000人と4%程度で、アメリカの様に多くはないようである。現実的に、人工中絶児を出生に結びつけるのは色々と難しいのだが、埼玉の産婦人科医のさめじまボンディングクリニックが、これに近いことを実践している)。これが成功すれば、合計特殊出生率は、1.43から3割増しになるので、30万人のケースで1.83、20万のケースで1.68となり、少子化問題は、急激に改善することになる。どのみち、何もしなければ日本人は消滅するので、SFのようだが、技術革新が進めば、人工子宮を利用して人口を維持することになるのは必然なので、人工中絶児の救済に真剣に乗り出してみてはどうだろうか。

多数の人工中絶児を出生に結びつける制度を定めるのは国の仕事であり、親権を放棄することを前提に置く必要がある。国家が育児をするというのは現実的ではない(もし、したとしても、ロクなことがないのは明白であるが)ので、国が、子供一人に年間一定金額の養育費、例えば年間100万円を保障することとし、子供を育ててくれる人であれば1人であっても歓迎し、今のような厳格な特別養子縁組制度の審査は改めるべきである。これを進めるにあたって、伝統的な家族・結婚観は弊害になるであろう。DNA的に確実に違っていても、実父であることを否定しない硬直的な日本のイエ的婚姻意識(血統ではなく、養子をとるなどのイエ制度の柔軟な意識は良いのだが)はすでに時代遅れであり、これまでの伝統と美徳と言う名のもとでかろうじて維持されてきた家族・結婚観は清算した方が良い。政治家とはことなり、変化には極めて保守的である法律の番人である裁判官の方が、頭が良いので、内縁関係や婚外子に同等の権利を認めるなど社会の変化を十分に理解している。

現実的にLGBT(レズ・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)が20人に1人と言われる潜在率を考えると硬直的な家族観や結婚観は改めざるを得ないだろう。実際、同姓婚の承認には、まず、憲法改正が必要である。第24条 [家庭生活における個人の尊厳と両性の平等]には、① 婚姻(こんいん)は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持(いじ)されなければならない。とある。戦前の当事者を抜きにした見合い結婚を念頭に置いた条文であるが、今となってはこの条文が同性婚を法的に認めるための足かせとなる。憲法を変えるより結婚観を変えた方が早道であろう。今後は、イエでもなく、家族でもなく、家庭を中心に考えるべきであろう。家庭であれば、片親でもLGBTでも、固定的でないパートナーとでも家庭は持てる。

結婚とはそもそも女性が生活を支える経済手段を持たなかった時に生み出された知恵としての社会保障制度である。故に結婚をするのが社会の規範になり、結婚に興味のない人も結婚したくない人も皆結婚させられたわけである。しかし、女性が経済手段を手に入れることが可能になった今、結婚に興味のない人や結婚したくない人が、そのまま結婚しないのは普通の状態であろう。

少子化への歯止めを優先するというのであれば、人工中絶児に目を向け、こうした価値観・法制度の転換を進めることが合理的で現実的な選択であると考えられるが、読者諸兄は、やはり「非現実的」と思われるであろうか。

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