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異端的論考16:政府機関の地方移転と地方創生  ~政府関連機関の移転よりも県庁所在地を再考すべきでは~

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この3月の文化庁の京都への全面移転決定で弾みがついたかに見える、安倍首相が勢いよくぶち上げた東京一極集中の政府機関の地方への移転※1であるが、文化庁の全面移転は、東京一極集中の是正の象徴的行為であるという点では評価できるであろう。

昨年の民間大企業の賃上げの時と同様に、安倍政権がお得意とする「企業への圧力」をかけたいところであろうが、さすがの厚顔無恥の菅・安倍政権といえども、企業に本社機能の地方移転の強制はできないので、まずは、政府機関が率先垂範してみましたので「宜しく」というところであろう。

好意的にとれば、命令・指導はするが、自らはなかなか変わらない霞が関(官僚には変われというが本人は変わらない自民党に多い家業政治家の永田町の方々が、実は最も性質が悪いのだが)としては、文化庁だけといえども良く全面移転に合意したといえるであろう。

ここで、今回の政府関係機関の地方移転の経緯を簡単に振り返ってみたい。

2014年9月に設置された「まち・ひと・しごと創生本部」は2015年12月に「まち・ひと・しごと創生会議」を開き、政府機関の地方移転へ向けた対応方針として、42道府県から移転提案があった69機関のうち、検討対象を34機関に絞り込み、2016年3月末までに移転する機関を最終決定するとした。そこで地方移転の検討対象に残った34の政府機関の内訳は次の通りである。

● 中央省庁は以下の7機関。文化庁、消費者庁、中小企業庁、特許庁、気象庁、観光庁、総務省統計局
● 中央省庁の関連機関は6機関※2
● 研究機関・研修機関などは21機関※3

この検討結果として、「まち・ひと・しごと創生本部」は、今年の3月22日に「政府関係機関移転基本方針」を発表した。

その検討結果では、今回の地方への移転の目玉ともいえる中央省庁機関の7つの移転候補に関しては、全面移転決定は、文化庁のみ。消費者庁と総務省統計局については、全面移転は後退し実証実験で8月末まで結論は先送りするとお茶を濁している。そもそも、文化庁はその名が示す通り、日本の歴史的文化を司るというのであれば、東京ではなく、京都にあってしかるべきなのであって、地方への全面機能移転という意味でのインパクトはそれほどなかろう。

また、中央省庁の6つの関連機関と研究機関・研修機関などの21機関については、「政府関係機関移転基本方針」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/about/chihouiten/h28-03-22-kihonhoushin.pdf)の5ページ以下の別紙1にあるように機関の機能の一部を日本全国の都道府県にまんべんなく振り分けることの検討が記されている。目玉であった医薬基盤・健康・栄養研究所傘下の国立健康・栄養研究所(東京・新宿)の大阪府への全面移転も2016年度中を目途に成案を得ると決定は先送りされている。

この「政府関係機関移転基本方針」を読んだ読者諸兄の感想は、おそらく、一言でいえば、大山鳴動鼠一匹とまではいかないまでも、竜頭蛇尾であろう。

この発表にあたって、安倍首相は、「政府機関の移転は、地域に仕事と人の好循環を作り出すことで東京一極集中を是正し、地方創生を進めていくための重要な施策だ」と威勢の良いことを言っているが、そう言うには大分お寒い結果であろう。また、民間企業に本社機能の地方分散を求める為「国が範を示す」というには、実効性というよりも「とりあえずやりました」といった体裁を整えたといったところなので、全くの迫力不足といえよう。

そもそも、世界市場で戦っていく優良な民間企業に求められるのは、世界的に見た本社機能の分散なのであって、日本という国の中での本社機能の地方分散(その出自が東京でない大企業にあっては、一部の本社機能を地方に残している企業はすでに多い)などではない。

それを真顔でもとめる地方への利益誘導しか念頭にない自民党の家業政治家の時代錯誤の発想は全くいただけない。そもそも、政治家が、競争という概念のない政府関係機関と異なり、競争を前提とする民間企業に軽々しく本社機能の地方分散などを要請すべきではなかろう。

今回の政府決定が示しているものは、依然として霞が関の力の減衰につながる中央省庁の地方への機能移転に対する抵抗は頑強であると言うことと、研究機関・研修機関等の地方への機能移転は、実効性というよりも、相変わらずの再配分という名の中央政府と地方自治体との間での地方均等「ばらまき」のばらまき手と受け手の構造は変わっていなということである。

高齢者の地方移住(「高齢者を送ってください」「ついでにその世話をする若者をください」「できればお金もつけて下さい」)と同様に、今回の政府関係機関の地方移転も「仕事をください」「それも人(質)をつけて」「ついでにお金もください」という構図であろう。

この当事者意識が感じられない地方自治体(多くはないが、当事者意識のもと鋭意自助努力をしている地方自治体があることは承知しているが)の態度では、政府が地域創生といくら叫んでも、政府の行為は、マキのない暖炉に着火剤をいくらつぎ込んでも暖炉には火がつかないのと同じ状況である。中央からの支援という着火剤が燃え尽きえれば火は消えるわけである。

今回は政府関係機関の機能移転という名のもとで人質がいるので、着火剤が燃え尽きるまでの時間は長そうであるが、構造はこれまでの地方均等「ばらまき」という中央政府と地方自治体の構図と同じであろう。再配分という美名のもとで、東京から「金」「モノ」(最近は、人口減少なので「人」も加わっている)をもらうという、政治家への陳情に代表される中央に「どうにかして」という「ぶら下がり意識」ともいえる他力本願意識を早急に改める必要があろう。

地方消滅と言われるが、地方はなかなか消滅しない。消滅するのは実は地方自治体であることは強く認識しておく必要がある。地方自治体関係者は、地方と地方自治体を同一と思いたいようだが、実は、地方と地方自治体は同一ではないはずである。

地方が中央にぶら下がることなく、強い当事者意識を持って生き抜いていく決意を持つことが、本当の地方創生であり、何かと理屈をつけて中央から予算を振り分けることが地方創生ではない。中央集権を強化した明治の廃藩置県以来、強い当事者意識を持って自治をしたことがない地方自治体(市民も例外ではないが、自治体よりは強い当事者意識があるのではないかと思う)は如何に強い当事者意識≒マキを持てるかを考えなければいけない。

この当事者意識のもっとも欠落しているのが、国と末端の市町村の間に設置された県であろう。地方創生を真剣に考えるのであれば、中央から末端の地方自治体への橋渡し機能であり、中央からの情報と予算を楯にとり末端自治体への優位性を確保しようとする、まさにピラミッド組織の中の責任のない中間管理職のような存在の県に強い当事者意識を持たせる必要があろう。

技術と深く融合したグローバル化の加速的な進展によって、「境界の曖昧化」「加速化」「梃の原理」がキーワードとなるネットワーク化された世界の環境は、変化の速度と程度の激しい予測のつかないものであり、企業同様に、国家は国家、地方自治体は地方自治体(メガ都市はメガ都市、中小都市は中小都市)、個人は個人、それぞれのレベルで世界を見て生き残りを模索していかなければならない。

正解は各々で異なり、共通の正解などはない。国は、なにかと護送船団を好むのだが、国との「おんぶにだっこ」の関係に頼るのはリスクが大きすぎるであろう。

この意味で、メガ都市の代表である東京は世界をみて東京の生き残りを模索すべきであり、東京一極集中といって東京の力をそぐことは愚策であろう。いかにも平等分配にこだわる(等しくないよりは皆で貧しい方が良い)日本の社会主義的メンタリティである。政治の意味での一極集中は悪というのであれば、いっそのこと原発事故の責任をとって福島に永田町と霞が関を全面移転させれば良いのではないか。

また、皇居を本来の場所であった京都に戻せばよいのではないか。それを除いてもメガ都市としての東京の存在力は衰えないのではないだろうか。政府によるプロパガンダ的な大都市への人口集中を弊害と捉える東京の人口分散の議論が進められているのに対して実証的な反論を試みた中川雅之日本大学経済学部教授の「第4章 東京は「日本の結婚」に貢献―人口分散は過剰介入(https://www.jcer.or.jp/report/research_paper/detail4909.html)」は一読の価値がある。

東京一極集中を将来につながる発展的な意味で是正したいのであれば、世界と競争する東京以外のメガ都市を強化することであろう。世界を見据えた第二・第三の東京を作ることである。大阪のように東京と競争したいというのはまさに時代錯誤であり、ゆえに、地盤沈下をしていくのであろう。この点で、東京ではなく、アジアを見据えた福岡市とは対照的である。

この意味で、東京は世界のメガ都市との競争を生き抜くうえで必要であれば今以上に巨大化するであろう。繰り返しになるが、重要なことは、東京の力をそぐのではなく、メガシティとしての第二第三の東京が育っていくことである。これからは、国家同様に、メガ都市は世界のメガ都市と競争するのであり、国を超えた視座が必要になる。世界に向けた特徴がなければ生きていけないはずである。これは、中小の自治体も同じであろう。

県に強い当事者意識を持たせるという話に戻るが、県という存在の意味合い(存在意義)を問いなおし、県に管理者意識でなく、強い当事者意識を持たせる必要があろう。政令指定都市からの県庁移転を、その端緒とするのはどうであろうか。中央官庁の地方移転よりも、中央官庁の事務業務の地方移転よりもインパクトも意味もあるのではないか。県の権威を支えていると思われる政令指定都市という後ろ盾もなくなるので、県は当事者意識(危機意識と言っても良い)を持たざるをえないのではないか。そして、都道府県内での資源の移動であるので、中央官庁の移転よりもよりはるかに現実的であろう。

現在、北は北海道の札幌市から九州の熊本市まで20の政令指定都市がある。

札幌市、仙台市、新潟市、千葉市、さいたま市、横浜市、川崎市、相模原市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市である。

人口が最も多いのは、横浜市の370万人、最も少ないのは、70万人の静岡市である。各県における政令指定都市の人口集中度を見てみると、2015年で札幌市が36%(2030の推定では39%)、仙台市が46%(49%)、千葉市が16%(16%)、さいたま市が17%(18%)、横浜市(41%)、川崎市(16%)、相模原市(8%)合計で65%(66%)、静岡市(19%)、浜松市(21%)合計で40%(40%)、新潟市が35%(36%)、名古屋市が31%(31%)、京都市が56%(57%)、大阪市(30%)、堺市(10%)合計で40%(40%)、神戸市が28%(29%)、岡山市が37%(39%)、広島市が42%(44%)、北九州市(19%)、福岡市(30%)合計で49%(50%)、熊本市が41%(44%)となる(詳細は、日本の地域別将来推計人口(http://diamond.jp/articles/-/90187?display=b)を参照)。

埼玉と千葉は東京都との県境の関係で集中度が20%を切るが、他の政令指定都市への人口集中度は3割から6割ときわめて高い。そもそも地方自治体としての自由度が高いのが政令指定都市であり、そこに県庁が存在するのは二重行政も含めて無駄であろう。県の資源は、政令指定都市以外に振り向けるべきではないか。

その意味で、例えば、北海道の道庁は旭川市、宮城県庁は石巻市、新潟県庁は長岡市、千葉県庁は木更津市、埼玉県庁は熊谷市、神奈川県庁は小田原市、静岡県庁は三島市、愛知県庁は豊橋市、京都府庁は亀岡市、兵庫県庁は姫路市、広島県庁は福山市、福岡県庁は久留米市などに移転してはどうであろうか。

このような県庁移転に加えて、道州制(その是非は置くが)を真剣に考えるのであれば、県を発展的に解消することもあるであろうが、その前段階として、県庁の移転を機会に政令指定都市を都道府県から独立させてはどうであろうか。

読者諸兄はどのように考えるであろうか。

【関連語句】

※1
安倍内閣が勢いよくぶち上げた「東京一極集中の政府関係機関の地方への移転」の端緒は、2014年7月の「まち・ひと・しごと創生本部設立準備室」の内閣官房への設置、9月の内閣改造の折の地方創生担当大臣(石破茂国務大臣)の新設と同時の内閣総理大臣を本部長として全閣僚で構成される「まち・ひと・しごと創生本部」の設置である。それを受けて、内閣官房は、2014年10月22日に「まち・ひと・しごと創生に関する政策を検討するに当たっての原則」という記者配布資料を公表している(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/about/pdf/siryou_h261022.pdf)。その内容は、下記の通りである。

まち・ひと・しごとの創生に向けては、人々が安心して生活を営み、子供を産み育てられる社会環境を作り出すことによって、活力にあふれた地方の創生を目指すことが急務の課題である。このため、地方において、「しごと」が「ひと」を呼び、「ひと」が「しごと」を呼び込む「好循環」を確立することで、地方への新たな人の流れを生み出すとともに、その「好循環」を支える「まち」に活力を取り戻すことに取り組むこととしている。この観点から、今後の検討にあたっては、以下の原則に即した政策を整備するよう徹底をはかる。

(1) 自立性(自立を支援する施策):地方・地域・企業・個人の自立に資するものであること。この中で、外部人材の活用や人づくりにつながる施策を優先課題とする。
(2) 将来性(夢を持つ前向きな施策):地方が主体となり行う、夢を持つ前向きな取り組みに対する支援に重点をおくこと。
(3) 地域性(地域の実情等を踏まえた施策):国の施策の「縦割り」を排除し、客観的なデータにより各地域の実情や将来性を十分に踏まえた、持続可能な施策を支援するものであること。
(4) 直接性(直接の支援効果のある施策):ひと・しごとの移転・創出を図り、これを支えるまちづくりを直接的に支援するものであること
(5) 結果重視(結果を追求する施策):プロセスよりも結果を重視する支援であること。このため、目指すべき成果が具体的に想定され、検証等がなされるものであること。

※2
国民生活センター、統計センター、日本芸術文化振興会、国立文化財機構、国立美術館、工業所有権情報・研修館

※3
情報通信研究機構、宇宙航空研究開発機構、理化学研究所、海洋研究開発機構、医薬基盤・健康・栄養研究所、国立がん研究センター、水産総合研究センター、農業・食品産業技術総合研究機構、産業技術総合研究所、新エネルギー・産業技術総合開発機構、海上技術安全研究所、国立環境研究所、国際協力機構、国際交流基金、教員研修センター、高齢・障害・求職者雇用支援機構、森林技術総合研修所、環境調査研修所、自衛隊体育学校、防衛装備庁艦艇装備研究所、医薬品医療機器総合機構