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異端的論考20:トランプ劇場の本番は如何に ~トランプ政権の多様な意味合い 後編~

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後編では、当選後から就任式直前までのトランプ陣営の人選やその伏線を分析し、1月20日以降のトランプ劇場の本番がどうなるかを考えてみたい。

そもそも、今回のトランプ氏の当選は、日本に置き換えて考えれば、日本で民主党政権(実質上小沢政権)が誕生した(地滑り的勝利であったが)のと似たようなものかもしれない。トランプ氏同様に小澤氏は外交と政治システムの大きな舵切りをしようとしたわけである。しかし、外交政策の転換は米国の、政治家主導による官僚外しは高級官僚の不興を買い、小沢氏は、結果は無実であったが政治家としての命脈は絶たれたわけである(その時点ですでに民主党政権は実質的に終わっていたわけであるのだが)。

トランプ氏の場合は、小沢氏のように海外からの神の手がないので、彼の主唱する大きな政策転換を邪魔する存在はいない。この意味でトランプ氏はかなりのフリーハンドがあろう。

筆者としては、今回のトランプ大統領の出現は、政党制度に立脚した、シンボル操作と権益の分配を生業とする職業政治家による政治運営が袋小路に入り、閉そくしている状況に加えて、技術革新と融合したグローバル化によって国家は企業や個人に対して圧倒的優位に立つ至高の存在ではもはやなく、「選ぶ」から「選ばれる」存在となりつつあり、その権威は漸次低下する方向にあり、主権を盾に安穏としてはいられず、国家間のみならず企業とも競争を余儀なくされる存在になりつつあることを思うと、国家も競争を前提に如何に経営するかというセンスが求められるので、時宜にあっており、企業経営者を国のトップに据えるのは、試みるに値すると思う。既得権益を代弁・維持する以外に芸のない世襲政治家、つまり、家業としての政治屋が跋扈する日本ではその必要性は一層高いと前々から思っていた。

その意味では、かつてEDSを創業した辣腕経営者であるロス・ペロー氏が独立候補として大統領選挙に二回立候補をした歴史がある。

今回の選挙で、もしトランプ氏が共和党の大統領候補になっていなければ、独立候補として、ブルームバーグ氏(ソロモンブラザースを経て金融情報通信企業であるブルームバーグを設立して成功を収め、2013年までニューヨーク市長を三期務めた)が立候補し、二大政党候補を敵に回して面白い選挙戦を展開したのではないであろうか。彼も、まさかトランプ氏が共和党の大統領候補になるとは思っていなかったのであろう。トランプ氏が予備選で勝利すると、その大衆迎合的な強い流れを見て、大統領選への出馬を取りやめた。

筆者としては、ブルームバーグ氏であれば、政治経験を積んだ企業経営者としての大統領として大いに期待をしたところなのであるが、ブルームバーグ氏にかわってまさかトランプ氏が大統領とは驚いた。

当選後のトランプ氏の経済政策方針は、法人税の減税、規制緩和による経済拡大によるトリクルダウン理論と言う共和党主流派の政策そのものである。市場はこれを歓迎して、株価は上昇しドル高傾向にある。この政策方針は、民主党の左派に近い政策論を述べていたこれまでのトランプ氏からみると方向転換に見える。しかし、ビジネスマンであるトランプ氏にとってこのような転換は当たり前であろう。

いずれにしてもトランプ氏は、エアコンのキャリアやフォードやトヨタなどのメキシコに工場をつくる企業を個別に非難・攻撃・恫喝して国内にとどめるか建設させ、雇用を維持し、増やす、はたまた、メキシコとの国境に壁をつくり、メキシコ政府に後で払わせると主張する(これは殆ど公共事業である)など個別対応や実現性を問わないアイディアに終始し、依然として具体的な経済政策やその詳細はない。具体的であるのは、これらの米国内への工場引きとめやアメリカ国内建設は州の補助金前提であるということである。

また、何がなんでも貿易赤字の大きい中国、日本、メキシコとの貿易はどうにかするという主張は繰り返すが具体案はない。せいぜい在日米軍の駐留費の全額日本負担くらいが具体的である。しかし、これも現在の思いやり予算を考慮にいれるとトランプ氏が期待するほどの実入りがあるかは疑問であるのだが。

この政策の空洞状況は、今月11日の当選後初の記者会見でも依然変わっていない。メキシコに行く企業は高い国境税を払え、といったような脅し文句で雇用を守り、増やすと言うのを政策と言うのであれば別であるが。

そもそも米国内に工場をあらたにつくるとすれば、相当程度の自動化が前提であり、雇用はさほど増えないであろう。たとえ増えるとしても高度の技術を有する技術者であろうから、トランプ氏を支持したブルーカラーの面々には関係のない仕事である。支持者にとっては、トリクルダウンにすがるしかないのが、現実的と言うのがトランプ氏の経済政策の本質なのであろう。

このように現在のところでは、トランプ氏自身には、明確な経済政策はなさそうである。メキシコでの生産をここまで攻撃するのであれば、自由貿易圏を形成するNAFTAの再交渉か解消を真っ先に取り組むべきであるが、しかし、現在のところは、まだできてもいないTPPからの離脱を最優先の通商アジェンダに挙げている。

選挙キャンペーンで繰り返したので、トランプ氏の支持者にたいしての優先事項と言うかもしれないが、現実は、まだできていないので離脱を言うのは簡単なので優先順位が高いのであろう。どう考えてもこれも、経済政策ではない。

外交政策方針もかなり単純である。簡単に言えば、中国が嫌いなだけであろう。一つの中国を否定するのは簡単だが、国際政治・国際秩序という認識はなさそうなので、それが何を意味するのかは、わかっていないのではなかろうか。

70歳というトランプ氏の年齢を思えば理解できるのだが、米国が相互依存し相互連関している新興の中国とともにジョイント・ヘゲモニーを形成していくのがたとえ現実的であっても、偉大な米国が中国と同列になるのが単に耐えられないのであろう。

そうであるならば、昔懐かしいソ連の残滓のロシア(極端な言い方をすれば、核兵器は依然有するが、軍需はおろか競争力のある製造産業はなく、情報通信産業やゲノム産業の基盤もなく、もはや天然資源(とハッカー集団)に依存するのみで、最後の恫喝は軍事力・核兵器という国である)の方がまだ耐えられると言うことではないであろうか。これも外交政策とは到底言えまい。国威が低下し、国際舞台で存在感が薄いプーチンが喜ぶのは当然である。


しかし、数度の破産を経験して復活してきたトランプ氏は凡百ではない。そのような政策の空洞は百も承知なのであろう。それが、今回のトランプ人事配置である。

まず、経済関係は、主たる関係閣僚を見ると

・国会経済会議(NEC)委員長は、ゴールドマン・サックスの最高執行責任者のゲーリー・コーン氏
・財務長官は、ゴールドマン・サックス元パートナーのスティーブン・ムニューチン氏
・商務長官は、著名投資家で再建王とも呼ばれるウィルバー・ロス氏
・労働長官は、CKEレストラン最高経営責任者のアンドリュー・バスター氏

明らかに、餅は餅屋で、ゴールドマン・サックスや著名投資家や企業のCEOで固めており、経済労働関係は彼らにお任せである。当然であるが、基本的に彼らは通商政策に関しては保護主義者である。通商政策のみならず、トランプ氏が、共和党最右派で、超保守的と言われる南部アラバマ州の上院議員であるセッションズ氏(トランプ氏と同年齢)を司法長官に任命しようとしていることからも明白であるが、トランプ体制は従来の共和党政権に比しても極めて保守色が強い。

しかし、彼らは、巨万の富と名声を得たビジネス界のエリート中のエリートであり、トランプを支持した没落する「忘れ去られた」低位ミドルクラスの労働者とは無縁の人々である。それを言えばスーパーリッチのトランプ氏も彼らとは無縁の人ではあるのだが。

閣僚に加えて、トランプ氏は、大統領への助言組織として「大統領戦略・政策フォーラム」を設置し、前GE会長のジャック・ウエルチ氏、ボーイング前会長のジム・マックナーニ氏、IBM会長のジニ・ロメッティ氏等、経済界の重鎮をメンバーに迎えている。

このような経済人の政府への巻き込みは、日本では当たり前のことと思うかもしれないが、米国では、1960年代の一国閉鎖経済(国境を高くして、競争を排除し、国家と企業と労働者の利害が一致して、経済が成り立った時代)で黄金時代を謳歌した1960年代の米国の再来を夢想するトランプ氏の考えが良く分かる行動である。トランプ氏にとって、この1960年代こそ、偉大なアメリカなのであろう。その意味で、彼の発想は時間の巻き戻しである。

年齢を考えればわからなくもなくはないのだが、経営学の観点で、シュンペーター的な予見性が低下する現在の開放モデルの経営の環境を1960年代のロビンソン型と言われる安定的な事業構造が企業の行動とパフォーマンスを決定するという閉鎖モデルの前提に戻すことは殆ど不可能であろうと筆者思う。偉大なる試みである。これは、ある意味でアメリカ的なチャレンジであるとも言えよう。
 
次に、国家安全保障関係の主要閣僚を見てみよう。

・国防長官は、元アメリカ中央軍司令官、海兵隊出身のジェームズ・マティス氏
・国土安全保障長官は、海兵隊退役将校のジョン・ケリー氏
・国家安全保障担当の大統領補佐官は、国防情報局の長官を務めた軍人出身のマイケル・フリン氏
・国務長官は、アメリカ最大手のエネルギー会社「エクソンモービル」の前CEOのレックス・ティラーソン氏

基本、軍人経験者に任せており、ロシア関係は重要と思ったのかエネルギー資源関係でロシアとのパイプの太い企業経営者を配している。

上記の閣僚就任は上院の承認を必要とするので、実際にどうなるかは、上院次第であるので、共和党が多数の上院の動向を注視したい。

大統領側近のスタッフを見てみよう。基本的には、論功行賞色が強い人事であるが、その配置は深謀遠慮ともいえる。まず、重要な主席補佐官には、共和党全国委員会委員長のラインス・ブリバース氏を指名している。彼は、保守色の強いウィスコンシン州出身で同郷の再任された下院議長のポール・ライアン氏とも近い。共和党とのラインをつなぐ人物である。しかし、ライアン氏に近い筋からの話によると今のところトランプ氏にこの共和党ラインからのインプットが十分に通じているかは不確かだそうである。

一方、今回の当選の重要な功績者の1人であるスティーブン・バノン氏には首席戦略官・上級顧問という彼の為の新設のポジションを用意した。特別な待遇とも取れるが、大統領就任後に強烈な人種差別主義者と呼ばれているバノン氏がその発言で問題を起こした時に、いつでも切れるポジションにおいたと捉えることもできる。

これも論功行賞ではあるが、大統領顧問に任命された、選挙対策本部長を務め、「トランプを動かす女性」と言われるケーリアン・コーンウェー氏は、女性支持者に対する重要な意味合いがありそうである。

最後に、大統領顧問に娘婿で今回の当選への貢献の高いクシュナー氏を任命している。トランプ氏は彼を閣僚にしたかったのであろうが、上院の承認が必要となる閣僚に任命するのはハードルが高いので苦肉の策であろう。閣僚ではないので上院の承認は必要がないが、1967年に成立した反縁故法によって問題視される可能性は否定できない。

その一方で、政権移行チーム責任者であったクリスティ元ニュージャージー州知事は、婿のクシュナー氏の父親を州知事時代に訴追したことが影響したのか、副責任者に降格となりその後は名前を聞かなくなる。これもクシュナー氏の力を示すのだろう。

最後に、トランプ氏は、支持者の労働者受けも忘れてはいない。中小企業庁(SBA)長官にプロレス団体「ワールド・レスリング・エンターテイメント」(WWE)の元CEOリンダ・マクマホン氏を指名している。マクホマン氏は実績もあり、優秀なのであろうが、彼女の経歴はトランプ支持者の労働者にとって意味を持つと言えよう。

その意味で、実現はしなかったが、一時期、駐日大使の候補に、元ロッテ監督のボビー・バレンタイン氏の名前が挙がっていたが、プロレスよりも裾野は広い野球も、アメリカの大衆にとって大きな意味を持つ。これは、うがちすぎた解釈であろうか。蓋を開ければ、駐日大使は、世界的なコンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループ出身のハガーティ氏というビジネスエリートが任命された。

このような適材適所といえる思い切った人事配置は、経営者としてのトランプ氏ならではであろう。しかし、経済政策が上手くいかず、トリクルダウンが期待通りに機能しなければ、トランプ支持者は早々に裏切られたと感じることであろう。故にトランプ氏は自分の役割も自覚しているように思う。自分の仕事とは、既存メディアは自分をいじめる悪人であり、自分は彼らと徹底的に戦うのでサポートしてほしい、というメッセージである。

これは今回の記者会見で明白に示されている。アメリカ社会のみならず、世界で定着しつつある「聡明な黒人大統領から粗暴な白人大統領へという」イメージ・セッティングを、アメリカの理念に忠実であると自負し、このようにフレーミングする既存メディアと実利を優先し、粗暴なのではなく支持者を代表してふるまっているとするトランプ氏との戦いと捉えるか、白人社会であったアメリカが、白人社会から非白人社会へ移行することが明白な中でのアメリカ社会の基底の変化を示しているのかは判断のわかれるところである。

自分流のメディア操作を通して、支持者のご機嫌を取りながら、彼らの敵をつくり続ける一方で、トランプ氏一流のプレゼンテーションで彼らを扇情するのであろう。大衆の既存メディアから引き離すのは、ポピュリスト・アプローチをとるトランプ氏にとっては非常に重要なことである。しかし、メディア・コントロールが比較的容易であった時代とは話が違うのであり、トランプ氏がSNSなどの新メディアをコントロールできると思っているとすると大きな怪我をすることになろう。

かたや共和党幹部は、政権移行チームはトランプ氏のやり放題にさせたが、その背後で、共和党としては、脇は安定のペンス副大統領(ペンス氏はトランプ氏の盟友ではなく、トランプ氏と共和党主流との懸け橋とも保険とも言えよう)を配し、上・下院は共和党がっちりと固めているので、トランプ氏がすべってもやっていける体制を整えているといえる。これが政治というものかもしれない。

そして、トランプ氏の個人的な夢は、ケネディ家に次ぐ、トランプ一族をアメリカの貴族にすることであろうか。企業家には夢が必要なのである。
 
今回のトランプ大統領の出現は、グローバル化と技術革新を牽引し、それと一体であったと思われたアメリカさえも通らなければならない、足踏み/退歩の道なのであろう。この足踏み/退歩を乗り越えなければ、次なる前進はなさそうである。もし、乗り越えられない時には、Calexitが現実味をおびるのかもしれない。

今回のトランプ氏の当選に至る大統領選挙を思うに、クリントン氏のみならず、サンダース氏、ヒラリー・クリントン氏、トランプ体制の閣僚の多くの面々が、高齢であることは、変革とチャレンジと同意の「若いこと」を尊ぶ意識が非常に強いアメリカ社会ですら、先進国共通である、変革への適応に積極的ではなく、郷愁的に過去を振り返る傾向が強くなる社会の高齢化を現しているのかもしれない。

1月20日の大統領就任演説とその後100日間を注意深く見守りたい。典型的なポピュリストであるトランプ氏であるが、ポピュリスト政治家は単純な二分法で、敵を攻撃し現状を壊すのは得意だが、新たに何かを作るのは下手である。それを知ってかイギリスのジョンソン前ロンドン市長は党首選に出馬しなかった。離脱を煽りに煽ったイギリス独立党のファラージ党首も早々に辞任した。しかし、大統領に当選したトランプ氏に降りると言う選択肢はなく、経営責任を取るとはいえ、国家は企業とは違い何度も破たんさせることはできない。

その意味で、オバマ大統領の言う「言うのは簡単だが実行は難しい」は、政治を知らないポピュリストのトランプ氏には重い言葉である。100日で、現状を否定したうえで新しい何かをつくれることを示さなければならない。就任式をまじかに控えて、米国をこれから経営していく者として「公人としての器」が問われるときに、相も変わらずTwitterで、トランプ氏への献金で不買運動を受けているL.L.Bean(アウトドア用品大手)の商品を買おうと呼びかけている暇はないのではないか。


最初の注目点は、TPPへのスタンスをどの程度明確に表明するか、つまり、後戻りできない明確な離脱の明言か、現時点では参加しないという様子見かである。また、メキシコを攻撃するのであれば、TPPよりも、トランプが目の敵にする自由貿易圏であるNAFTAの解体に本当に手をつけられるかであろう。

読者諸兄とともに、政策の何が実体を帯びるのか、1月20日の就任演説に着目したい。