就活後ろ倒し後にやってくる過酷な就活地獄社会

就活後ろ倒し論は、突き詰めると単なる人気とりである。愚策だとはいえ、決まってしまったものはしょうがない。ただ、この中で、学生と企業の出会い方をどうデザインするのか。議論はこれからである。

いま、就活関連の話題と言えば、「就活後ろ倒し」である。政府の「若者・女性フォーラム」で検討され、4月に安倍晋三首相が経済団体首脳に要望し、容認したことから確定的になった。2016年度(つまり、現在の大学2年生)の代から、就活は後ろ倒しになり、大学3年の3月(4年生になる前)に採用広報活動がスタートし、夏頃に選考という流れになる。

この問題については、これまで、何度も批判記事を書いてきた。いったん紹介する(なお、WEBRONZAの記事は途中まで無料で、それ以降は有料である)。

これらの記事のポイントを、かなり端折って説明すると、私の「就活倒し」に関する批判のポイントをお伝えしよう。

1. 経団連の倫理憲章など、経済団体の就活の時期に関する申し合わせは法的拘束力がない。解釈も各社に委ねられている。すべての企業が賛同しているわけではない。実際、選考も内々定出しも水面下で行われている。日本の就活の歴史は、時期論争の歴史であり、ルール破りの歴史である。

2. 就活の時期をしばるのは時代錯誤である。採用は企業活動の一つであり、それを規制するのか。また、「昔は遅い時期に就活が始まっていた、今は早すぎるから昔に戻す」というのはもっともらしい論でありつつも、20年前と比較して大学ごと、学部ごとの進路が多様化してきており、時期をしばると逆に学生は困るようになっている。例えば、後ろ倒しをすると、理系(特に院生)はますます研究を阻害される。単位の数および取得スケジュールも大学、学部ごとに違うので、一律にしばることはできない。

3. 教育実習、公務員試験などとの兼ね合いをどうするか。特に教育実習は、教育学部、文学部の学生を中心に、民間企業への就職を希望する学生も一定の参加者はいる。

4. あくまで採用広報活動と選考の後ろ倒しなので、インターンシップなどの手段により早期接触が行われる可能性大。

5. 学生の業界・企業理解などが進まないおそれがある。これは倫理憲章後ろ倒しがおきた2013年卒あたりから起きている問題(ただし、これにもちろん、学生に何でも押し付けるのかという批判はあるし、企業による情報開示のレベルによる)。

6. 後ろ倒しをしても、別に就職先は保証されない。現在も起こっている問題ではあるが、学生たちは勝手に動き出す。

7. 後ろ倒しをしても、学生は勉強するとは限らない。やや暴論ではあるが、勉強させるための仕組みがないのが日本の課題。大学の成績が、就職、進学などで問われることはほぼないし、一部にはこれを質問する企業があるものの、そもそも成績の判定基準、難易度が揃っていないので、厳密には参考にならない。

要約と言いつつ、長文になってしまった。今回は、それを踏まえて、企業の採用担当者、大学教職員などの声を紹介する。

結論から言うと、ますます就活地獄社会がやってこないか、と私は懸念してしまった。

■マイナスシナリオ1:大学はますます「就活をするために、何かする」場に

政府、および経済団体が、このたび就活を後ろ倒しする意図について「学生生活で存分に成長してもらいたい」というものがある。聞こえはいいが、ややうがった見方をすると、企業が人材を育成する余裕がない中、またこれが新卒の採用要件が高度化するのにもつながっている中、「大学時代に就活のために、何かやってこい」という話にもなりえないか。

実際、大学ではキャリア教育、就職支援を強化中である(私はこれを必要悪だと捉えている)。また、学生たちは低学年の頃から勝手に就活を始める層がいる。

採用広報活動、選考時期は後ろ倒しになったものの、大学はますます、就活のために何かやる場所になるのではないか。

■マイナスシナリオ2:就活を意識しない層がますます苦しむ

これも大学教職員から出ている懸念点である。マイナスシナリオ1はどちらかというと、就活のことが気になって仕方ない、よく言えば危機感を持っている層の話である。これは低偏差値大学(という言い方は申し訳ないが)の教職員からよくいただく声なのだが、これらの大学の学生は就活に対して一生懸命に取り組むかというと、そうではない。就活時期がきてもなかなか始めないのである。気づけば行きたい企業の選考が終わってしまったという状況はますます生まれるだろう。

■マイナスシナリオ3:カタチをかえた就活が始まる

一部は前述したとおりだが、インターンシップ、キャリア支援のためのセミナーなど、かたちをかえた早期接触は盛り上がりを見せるだろう。既に人材ビジネス会社は、この部分をいかに換金化するか企画中である。

要するに時期の問題というのは不毛で、学生と企業の出会い方をどうするか、選び方をどうするかという議論こそ必要なのである。もちろん、自民党では、中堅・中小企業と出会うためのセーフティーネット作り、キャリア教育の充実、若者応援企業のバックアップなどの施策が検討されているようなのだが。これもまた、中堅・中小企業に学生を押し込むものになってはしょうがない。

就活後ろ倒し論は、突き詰めると単なる人気とりである。愚策だとはいえ、決まってしまったものはしょうがない。ただ、この中で、学生と企業の出会い方をどうデザインするのか。議論はこれからである。

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