キミたちはいつ日本人になるチャンスを失うのだろうか?

「今、帰っておいて中高を日本で過ごせば日本人らしさは身につくでしょ」

辻仁成さんの「息子よ」で始まるツイートにはまっています(@TsujiHitonari)。

いつも美味しそうな手料理と共に息子さんへの愛がドーバー海峡の向こうから伝わってきて、「ああ、親業って大変だけど、どの親も精一杯に親やってるんだなー」とほっこりします。

(「残り物」のクオリティが高すぎ!)

少し前にYahooニュースでこの記事を読んで、思わず「やっぱり!」と叫びそうになりました。

林:すごいな、日本の子どもとは次元が違う感じがする。辻さんが日本に帰ってこないわけがわかります。文化的な刺激が多いですもんね。

辻:いや、僕は正直言って帰りたいんです。だけど、息子はいま帰ると中途半端になっちゃう。言語や文化はどちらかに軸足を置かないと、文章も書けなくなるじゃないですか。彼はフランス語で育ってきたので、アイデンティティーを確立してから次の言語を、と思っています。

息子さんは2004年生まれだそうなので、中山美穂さんとの離婚時に10歳、現在13歳なんですね。

最近、ロンドンで親しい人が2人、日本に帰国する決意をされました。

ひとりは在英25年、娘さんが2歳の時に日本から渡英。両親ともに日本人の娘さんは小学校こそ日本人学校に通いますが、そのままロンドンに住み続けることになり中学校からは現地校、大学も出て現在27歳。

娘さんは日本語は流暢ですが英語が第一言語、中身は完全にこっちの人。ご両親が帰国されても独立した娘さんは生活基盤も交友関係も全部イギリス、イギリスに残っています。

もうひとりは在英7年、双子の兄妹が2歳の時に日本から渡英。3つ下の弟はロンドンで産まれ、みな現地校に通っている現在9歳と6歳。 日本語は流暢ですが、やはり学校で使う英語が圧倒的に強いです。

いつかは帰ると言っていた彼女が、今帰国を決めた理由のひとつとしてこう言っていました。

うちの子どもは両親ともに日本人だし、日本人は姿形が日本人の子にはやっぱり日本人的な振る舞いを求める。

今、帰っておいて中高を日本で過ごせば日本人らしさは身につくでしょ。

辻仁成さんの話とも前回の記事で書いた本(*1)の内容とも見事につながります。

人の考え方や行動規範は社会的な'Groupness'(集団性)でつくられます。「自分の周り」とか「居場所」とも言います。

Group(集団)というのは最低4、5人以上の構成員からなる社会的な集団のことで個人は帰属意識を持ち他の集団と区分するために用いられます。

集団が形成される社会的コンテクストに応じた区分(性別や年齢・人種・ガリ勉か不良か、など)で分かれ、構成メンバーが多すぎると更に細分化されます。

5歳頃から10代後半まではGroupnessへの同化・一体化・迎合が絶対的なサバイバルスキルとなり、とりわけ男子でその傾向が強いそうです('Groupnessへの圧力'を全て「同調圧力」と読み替えるとかなりすっきり読めます)。

とりわけ10歳から17歳あたり、つまり小学校高学年から高校生くらいまでがアイデンティティーや考え方・行動規範の確立にクリティカルな時期なのかな、と思います。私の友人は上の子たち(現在9歳)を日本人にするなら今がラストチャンスと考えたのでしょう。

私自身、親の転勤で10歳、12歳、15歳と3回転校し、地域も変わったので(方言が変わるのは子どもにとってオオゴト)、この年齢の時に自分の居場所を一からつくらなければいけない大変さは身を持って知ってます。その後、年齢を重ねるたびに地域や国をかえるショックはどんどん小さくなっていきました。

子どもが10歳でフランスに残られた辻仁成さん、10歳を前に日本に帰ることにした友人。

我が家の長男にも刻々とその10歳が近づいている日々の中、昨日こんなことがありました。

(バックグラウンド情報として『Google翻訳イヤホンが投げかける答えのない問い』を読んで頂けると、よく下の会話の背景がよくわかります。)

私:「1月からの3学期、日本語教室のお金払う時期が来たんだけど、まだ行くよね?」

長男:「ママ、ぼくサッカーに行きたい。」

私:「・・・・・」

ここで彼が言っているのは、家から徒歩2分の緑地で毎週土曜の朝練習している地元のサッカークラブのこと。学年別に分かれているこのクラブは誰でも自由参加で、コーチはボランティアのパパたち。

ボランティアといっても本格的で、ヘッドコーチは彼のクラスメイトのパパ、息子のサッカークラブのコーチを本格的にするために平日夕方と週末を使ってFA(イングランドサッカー協会)コーチのライセンスを取得しました。あとの2人のコーチも彼のクラスメイトのパパたち。

今のエリアに引っ越してくる前、実は土曜の朝の練習風景を見て地元密着型のこの少年クラブのコーチたちが全員パパで構成されていることを知ったのも、ここに住むことを決めた決め手のひとつでした。

しっかりした地元コミュニティがあること、父親が子育てにコミットしていることをよく現していると思ったので。

Yoko Kloeden

(土曜の朝はここがサッカーキッズたちで埋まります)

その後、日本語教室の授業はどこも土曜の朝であることを知り、小学生になってからどんどんサッカーにはまっていく長男を見ながら胸が痛い思いをしていました。

土曜日にある友達の誕生パーティーに行けない時も泣き言を言わず、日本語教室に通っていた長男。学年があがるにつれて、このサッカークラブの活動がどんどん本格的になり対外試合をしたり、クラブメンバーだけのバーベキューなどイベントがあったりしたことをずっと学校で聞いていたのでしょう。

私:「そっかー、そのクラブ入りたいんだね。 誰がいるの?(知ってるけど)」

長男:「ボクとAくん(ギリシャ語学校に通っているのでクラブに行けない子)とBくん(プレミアリーグ下部の本格的なクラブに通っている子)以外のサッカーする子は全員。」

私:「うん、わかった。 今までよく日本語がんばったね。 でも3月の終わりまで行ったら小学2年生の終わりで区切りがいいから3月までがんばろっか?」

長男:「うん、いいよ。」

あと2年くらいで土曜日はスポーツの対外試合や遠征があるようなので、その時にそちらを優先したいと言えば、「今までよく頑張ったね」と行かせてあげようと思っています。

と書いていた未来は、2年ではなく1ヵ月でやってきました。

昨日は何だか鼻の奥がツーンとなってよく眠れなかったなー。