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安倍首相へ。育児に専念する私の生活は輝いていますか?

育児や家事に専念する人に対して、社会には恐ろしいレベルの偏見があります。

2017年11月09日 18時28分 JST | 更新 2017年11月09日 18時28分 JST

安倍首相へ

首相はこれまで「すべての女性が輝く社会づくり」をモットーに女性の社会進出を進めようとしてきたにも関わらず、先日、男女平等の度合いを競う世界ランキングで、日本は144カ国中114位となり、過去最低を更新しましたね。

私は昨年9月、長男誕生後に妻が亡くなり、これまで貯蓄を削りながら長男の育児に専念してきました。そして、首相が掲げられる「女性が輝く社会づくり」を耳にするたび、吐き気に襲われてきました。

このモットーは、これまで女性が輝いていなかったという前提がなければ成り立たないもので、まるで育児や家事に専念する私の様な人間は輝けないかの様に思えてしまうからです。

長男が生まれて2週間後くらいだったでしょうか。おむつを替えても、ミルクをあげても、抱っこしても、何をしても、長男が泣き続けることがありました。

そんな長男を両腕に抱えながら、私はそれまで経験したことのない無力感に襲われました。これまで学んだどんな論理や身に付けた技術を使っても、対応できない難問にぶつかったことはありました。

しかし、今回の難問には、これまでの難問にはない一つの特徴がありました。「逃げることができない」ということです。

入りたい学校に入れなかったら、別の学校に逃げればよかった。試験が難しすぎたら、受験しなければよかった。部活が大変だったら、辞めればよかった。嫌いな人に出会ったら、関係を辞めたらよかった。

でも、今回は違います。長男を捨てることはできません。

泣き続ける長男を抱え、外に出てみたり、音楽を聞かせてみたり、服を着替えさせてみたり、色々試行錯誤していくうち、1時間くらいしたら私の腕の中で寝始めました。

私は、その時、実感しました。自分は生まれて初めて、誰かの命を託されているのだと。

経験したことのない無力感は、経験したことのない達成感に変わりました。

毎日新聞記者として一面トップの特ダネを書いた時よりも、国連職員として、2015年の仙台での国連防世界災会議の開会式に首相と一緒に参加させていただいた時よりも、何倍もの達成感を味わい、自分は「輝いている」と思うことができました。

私は現在、新潟県南魚沼市に暮らしています。先週、長男を連れて、小学校時代の同級生5人と夕飯を一緒にしました。5人とも男性で、新潟から出たことがない人がほとんどで、育児や家事にあまり携わることがない人たちです。

そこで同級生の一人から、「ようこうは毎日どんな日々を過ごしているの?」と聞かれました。

私は「最近子どもが保育園に行きだしたから、仕事を探そうと思っているのだけど、朝8時半に子どもを預けて、家で掃除、洗濯して、昼ご飯作って、食べて、後片付けして、夕飯の買い物行って、1時間くらい昼寝でもしたら、もう午後4時くらいになって、保育園にお迎えに行かなくてはならなくなっちゃって、就職活動どころじゃないんだよね笑」と返すと、その同級生は「いいなーー。一度でいいからそんな楽な生活送ってみたい。夢の様な生活だねー」と言いました。

私は、「いやいや、『楽な生活』とか言うなら、午後4時半から午前8時半までの私のスケジュールを聞いてから言ってよ。それから、夕飯作り、離乳食作り、ご飯、お風呂入れ、寝かしつけ、午前1時とか午前4時とか、不定期に夜泣きに起こされ、午前5時から6時に起床。ゴミ出し、朝ご飯の準備、保育園の準備。新聞記者の仕事は大変って言うけど、子育ての方がよっぽど大変だよ」と少し苛立ちました。

さらに、別の同級生の勤務シフトが不規則で金曜日が休みになることが多くあることを知った私が「じゃあ、今度、金曜にランチでも行こうよ」と言うと、「ようこうって暇だねー」と言われました。

育児をしていると、息子と家に二人きりでいる時間が多くなり、精神的に行き詰ります。

だから、できるだけ人に会って、ストレスを軽減したいのですが、こんな片田舎で平日昼間にママ友とランチをすれば、どんな噂をされるかわかりません。

平日昼間にランチに行ける男性の友人というのはとても貴重なのですが、「暇人」扱いされて、ランチに行く気も失せてしまいました。

こんな感じで、育児や家事に専念する人に対して、社会には恐ろしいレベルの偏見があります。

そして、首相の「すべての女性が輝く社会」というモットーこそ、この偏見を助長させている一因だと思います。女性はすでに十分輝いていました。

そのことを私たち全員が認めない限り、家事、育児に専念しようという男性も増えてこないのではないでしょうか。

さらに、2013年に首相は育休を3年取れるようにすると言い、「3年間抱っこし放題での職場復帰」を目指すと仰いましたね。

この言葉には、まるで私たちがたくさん抱っこすることを喜んでいるかのようなニュアンスが含まれているように聞こえます。

しかし、実際は、育児に四六時中専念している人たちの大部分は、できるだけ抱っこをしないように心がけます。

理由は簡単です。重いし、家事などの他の作業ができなくなるからです。

毎日ジムに通っている私でさえ、長男誕生後1か月で腰が痛くなりました。あまり運動をしない女性にとったら、大変な肉体労働です。

もし、腱鞘炎にでもなったらその後の育児に響くので、過度の抱っこは死活問題になりうるのです。

首相はまず子育ての現場を知ることから始めたらどうですか?私の息子でよければいつでも抱っこしに来てください。

3年はさすがに無理でしょうから、3時間、いや30分でいいので、抱っこし続けてみてください。10キロを30分持ち続けることが、肉体的にどれだけ大変かわかっていただけるかもしれません。

改めて首相に尋ねます。今の私の生活は輝いていますか?

もし、輝いていると思うのでしたら、まるで、これまで育児や家事に専念してきた人が輝いていなかったかのようなモットーを掲げるのはやめていただけませんか?

これこそが、日本の男女平等の推進に弊害になっているとしか私には思えません