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日本の政治家はトランプ大統領から講義を受けたほうがいい

2017年10月16日 12時15分 JST | 更新 2017年10月16日 12時15分 JST
Kim Kyung Hoon / Reuters

衆院選の党首討論について、主要メディアは誰がどんな主張をしたかを報じるが、私は、どの党首が一番説得力のあるスピーチをしていたかに注目する。読売新聞を見れば、安倍首相が財源を示さない小池氏を批判したとあり、朝日新聞を見れば、安倍首相が50議席失っても退陣しないと言ったとか、それぞれの政治主張に合わせた評価しかしてくれない。一度、頭の中を真っ白にして、「どの人の言っていることが一番しっくりくる」のか考えてみよう。

 私はアメリカの大学でコミュニケーション学を学び、人前での話し方や討論の仕方について講義を受けたが、それを基準にすると、日本の党首討論のレベルは恐ろしく低い。司会者が、「それでは〇〇党の〇〇さん、1分で最も訴えたいことを話して下さい」と各党首に振ったら、8人いる党首のうち、4党首が「〇〇党の〇〇です」と自己紹介から始めた。スピーチは最初の数秒が勝負だ。その大事な数秒を、すでに司会者が話したことをそのままリピートするなんてありえない。

 私は以下の三つの点に注意し、各党の党首に点数を付けてみた。

1.他の党首と明確な対峙点を示せているか。

 当たり前のことかと思うかもしれないが、これを明確にできない党首が多い。与党なら、野党に任せたらなぜだめなのか。野党なら、与党はこんなことをしたが、私ならこうしたいと、はっきり言えなくてはいけない。

2.誰でもわかる言葉を選び、根拠となるデータを示しているか

 難しい言葉を使いたがる人が多いが、有権者のバックグラウンドは様々。中学生でもわかるような言葉使いとデータに基づいた主張が大切だ。

3.時間内にスピーチを終えているか

 討論は事前準備が必須。制限時間内に話し終えれるよう、想定質問集を用意し、何度も練習しなければならない。想定質問を作れるということは、有権者により寄り添っているという証でもある。

立憲民主党、枝野代表50

「まっとうな政治」とか「草の根」とか抽象的な言葉を多用するが、なぜ、自分たちがまっとうな草の根で、安倍首相が違うのかの理由がわかりにくい。

主要政策が安保法制の廃止だということは明確に伝わった。しかし、廃止理由が「違憲」の部分があるから、まず廃止にしてから、新しく作り直すというのがわかりにくい。安保法制自体は賛成ということ?だったら、どの部分がなぜ違憲で、どう作り直すのか具体的に説明してほしい。

「格差」や「貧困」の問題を指摘するが根拠のデータを示さないため、少しわかりにくい。

希望の党、小池代表30

時間通りに答えられないことが多く、短時間に情報公開制度から高齢者の大学進学から一院制まで、たくさんの政策を話しすぎて、何が一番大事なのかわかりづらい。「リアルな政治」とか「エッジをきかせた」など、抽象的な表現も多い。

一番深刻だったのは、少し前まで安倍首相と一緒に自民党の中枢にいたわけだから、首相との差別化は必須なのに、そこが弱い。共産党の志位氏に「自民と同じじゃないのか」と問われた際、類似点が多いことの説明から話し始めた。最初から「いや、私と安倍さんはここが違うんだ!」とはっきり言えないことは致命傷だ。

モリカケを念頭に、安倍政権はしがらみだらけで、情報公開がなってないというが、少し前まで政権の中枢におられたのだから、あなたにも少しは責任があるのじゃないかと思ってしまうのは私だけだろうか。

共産党、志位委員長 0

野党の中では一番、明確な対峙点を示せていた。

安倍首相に対して、「北朝鮮に対し、米国はすべてのオプションがあると言っているが、先制攻撃をする場合は、やめるよう説得すべきだと思うが、どうされるのか?」と質問し、首相は「米国を支持する」と答えた。つまり、米国による先制攻撃を支持するなら首相に、支持しないなら志位氏に投票すべきという明確な対峙点ができた。

ただ、共産党が自衛隊は「違憲」と主張していることについて、他党の党首から「政権を取ったら自衛隊を廃止するのか」と問われ、「ただちには廃止できない。その時の国際情勢による」と答え、主張と現実に乖離があるように思えた。

公明党 山口代表 80

最初、原稿を棒読みする場面があったが、概ね自信に満ち溢れた表情で、野党の党首の政権担当能力に疑問を呈していた。小池氏に対しては、希望の党は安保法賛成なのに、なぜ安保法に反対した議員をたくさん公認させているのかを尋ね、枝野氏には、自衛隊と日米安保を違憲としている共産党や社民党とどうやって連携していくのかなど、わかりやすく尋ねていた。

自民党、安倍総裁 90点

「北朝鮮からの脅威がある中、選挙目当てに新しくできたばかりの政党に国は守れない」というメッセージはとてもわかりやすい。経済については様々なデータを引用して実績を強調。小池氏が財源について説明がないことや、志位氏が自衛隊を違憲と言うなら、どうやって国を守るのか尋ねるなど、野党の政権担当能力に疑問を呈した。

というわけで、党首討論を見る限り与党有利だと言わざるを得ない。今後、野党が攻める点があるとすれば、志位氏が突いた米国の北朝鮮への先制攻撃を支持するかどうか。イラクやアフガニスタンのように、米国の先制攻撃から周辺国を巻き込んだ泥沼の紛争となれば、日本にも計り知れない影響が及ぶ。私が難民支援の現場で働き、先制攻撃が周辺国の人々の生活を根こそぎ奪ってしまう現実を見てきただけに、これには慎重になってしまう。

安倍首相が唯一、答えに詰まった場面はモリカケ疑惑を追及された時。昭恵夫人を国会へ招致すべきじゃないかという質問には、最初、答えようとしなかった。ただ、今回の選挙の特色は、外交問題への有権者の関心が高いことだ。中には、経済政策よりも外交への関心が高いという世論調査もある。モリカケ疑惑は納得できないけど、この有事に寄せ集めの新しい党に政権を任せるよりはましだと、有権者が思った場合、モリカケ疑惑の追及が果たしてどこまで選挙結果に影響を与えるのかは疑問が残る。むしろ、志位氏がやったように、北朝鮮が脅威だからこそ、米国の先制攻撃を支持する安倍さんに政権は任せられないと、野党は一貫して主張すれば、もっとわかりやすい選挙構図ができあがるのかもしれない。

最後に昨年の米国の大統領選の討論会でのトランプ大統領のスピーチを見てほしい。

雇用の機会が他国へ流れていることが一番の問題だと最初の数秒で問題提起し、法人税を下げることで企業誘致をして雇用創出につなげると論じている。中学生でも彼のやろうとしていることが理解できそうだ。一度も原稿に目をやらず、一度も「ええ」とか「ああ」などと言葉に詰まったりしない。トランプ大統領は好きじゃないけど、スピーチのやり方はピカ一。オバマ前大統領とは正反対の大統領だが、スピーチの上手さでは二人は共通している。日本の政治家はもっとオバマ氏やトランプ氏から学んでほしい。