「個人が上場できる」と話題のVALUは「マネーの虎」である。

サービスの特徴を一言で表すと「個人が上場できる」という、極めて特異なものだ。

先日から一部で話題となっているVALU(バル)というサービスがある。フィンテック=ファイナンス(金融)とテクノロジーを掛け合わせた造語が経済紙では日常的に使われるようになったが、その一種と見て良いだろう。

サービスの特徴を一言で表すと「個人が上場できる」という、極めて特異なものだ。すでにサービスを利用している人も、VALUの意味や仕組みを理解せずに使っている人も多いと思われる。せっかくなのでこのサービスの仕組みや特徴、意義を考えてみたい。

■VALUで上場して資金調達ができる......?

上場という言葉が出てくるくらいなので、VALUは株の売買を模した仕組みだ。VALUに「上場」を申請した人は、ツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどのフォロワー数で上場時の価格が決まる。

現在VALUで話題となっている人の多くがインフルエンサー(SNSで影響力のある人を指す)であり、多数のフォロワーを抱える人は時価総額が大きく、知名度が高いこともあって目に留まりやすく売買の対象となりやすい。

VALUのはじめ方はすでに多数のページで紹介されているため省略するが、フェイスブックアカウントを利用してVALUのアカウントを作成し、資金調達をしたい人はプロフィールを作成して上場を申請する。他人のVALUを買いたい人は仮想通貨のビットコインを介してVALUを買う。

ビットコインを間に挟むことから、さながら円をドルに両替して外国の株を買うような状況だ。価格はリアルタイムで変化し、売買時間も東証や大証のようにしっかり決まっており、平日の朝9時から夜9時までとなっている(8月以降は取引時間以外も売買・入出金以外の操作が出来るようになる予定とのこと)。

上場して自らのVALUを発行した人は売却することで資金調達が可能となる。VALUを売買する人は価格変動で利益を得ることも可能だ。

■VALU上場の意味。

VALUで上場するとはどういうことを意味するのか。株式市場で上場ならば、多少でも投資や経済の知識がある人ならばその意味は分かるだろう。会社が株式市場に上場して売買できるようになることは、会社の権利=株を自由に売買できることを意味する。

自分も小規模な会社を興して社長を名乗っているが、株は100%自身で保有しているため、いわゆるオーナー社長という状態だ。一方日本で一番大きい会社であるトヨタ自動車には多数の株主が居る。記事を書いている時点でトヨタの株価は6000円程度、100株単位で売買が可能だ。

つまり60万円もあれば誰でもトヨタの株主になることが出来る。では60万円を払ってトヨタの一体何を手に入れているのか。

手短に説明すると、株を買うことは利益・資産・経営(議決権)に関する権利を保有することに他ならない。逆の立場から見ると、会社の権利を部分的に渡す代わりに資金を得る、ということになる。

100株程度ではトヨタの経営に影響を与えることはまったくできないが、一定数を保有すれば各種の権利が認められる。通常51%以上の株を保有すると役員の選任を出来るため、経営権を握る事ができる。

VALUの購入画面はネット証券等で株の売買を経験したことがある人なら見慣れたものだろう。売り注文と買い注文が左右に並んでおり、そこだけを見れば株の売買そのものだ。

※かなりシンプルに説明しているため、興味のある人は株に関する書籍やHPを参照されたい。VALUをやっている人であれば投資の知識はそのままVALUに役立つ。

■VALUは株ではない?

では「VALUで個人が上場」とはどういう意味なのか。VALUの世界では、株式市場でいう株のことを「VALU」と呼ぶが、VALUを大量に保有したところでその人の人生を思い通りに操ることは一切出来ない。VALUで資金調達が出来ることは間違いないが、調達した資金で事業を行って成功しても、利益を配当することは規約で禁じられている。

優待という形で様々なおまけをVALUのホルダー(VALUER・バルアーと呼ぶ)に提供することは出来るが、上記のとおり配当は禁止されており、調達した資金での成功は直接的にホルダーの利益にはならない。

株のようで株ではない、あるいは株の仕組みを模した株ではないもの。これがVALUの特徴だ。株ならば株価の裏付けとして、その会社が稼ぐ利益がある。株価が大きく上下することは珍しくないが、その会社の実力以上に株価が下がれば買い時であり、実力以上に上がれば売り時と言える。価値と価格(実力と株価)の関係はシンプルに言えばこのように説明できる。これが極端に乖離した状況がバブルであり、バブル崩壊である。

■VALUはトレーディングカード?

VALUを例えるものとして、トレーディングカードが度々使われる。ビックリマンシールでもフィギュアでもコレクション性があれば何でもいいが、興味のない人にとってはガラクタだが、収集家にとっては極めて価値が高く、値付けもされる。

株についた価格=株価にはその裏付けとなる利益はあるが、VALUにはそれが無い。優待を見ると、相談に乗ります、似顔絵を描きます、といったものが見られる。中にはお金を払うに値するものも散見されるが、これらはあくまでおまけだ。

価値の裏付けは何も無いけど価格がついているもの......やはりこれはトレーディングカードに近いといって差し支えは無いだろう。

さらに考えると、VAULはモノではなく個人に紐付いている。したがって、自分がファンであるあの人のVALUを買おう、という人も少なくない。つまりタレントやミュージシャンのファンクラブ的な要素もある。現在VALUで人気のある人の多くは有名人であることからも、この要素なしにVALUの説明は出来ない。

ファンクラブは会費を払って会報を読んだり、優先的にチケットを買えたりイベントに参加したりといったことが可能で、これも現在VALUの優待で行われている事に近い。違いはファンクラブの権利が譲渡可能という点だ。譲渡可能な権利という点を見るとゴルフクラブの会員権的な要素もある。

トレーディングカード、ファンクラブ、ゴルフクラブの会員権......さまざまなものに例えることも出来るが、VALUの本質的な価値は一体何か? それは個人が資金調達をして目標をかなえることだ。

■VALUは「マネーの虎」である。

VALUでは公式の見解として以下のようなメッセージを利用者に伝えている。

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VALUは、夢や目標をどう実現していいかわからない方、金銭的な理由で実現できない方などが、継続的に支援者を募れる場所をつくりたいという思いで開発しました。

出典:@VALU_PR VALUツイッター公式アカウントより

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個人が夢をかなえるために資金を調達する場所......通常は起業・独立でお金がかかるのであれば、自身で貯金を貯めて準備をする以外に、親族や友人からお金を借りる、銀行から融資を受けるといったことが一般的だ。

規模が大きくなれば起業の時点で投資家からお金を募ることも出来る。上場していれば株を発行して市場から資金調達も可能だろう。

独立や起業をするとなればお金の話から逃げることは出来ない。これをバラエティ番組として成立させたのが、マネーの虎だ。放送開始が2001年と16年も前であるため、知っている人はおそらく30代以上だろうか。VALUはネットを介したマネーの虎である、と説明すればすんなり理解できる人も多いのではないかと思う。

■「マネーの虎」は資金調達がエンターテイメントになることを示した。

当時、マネーの虎は放送開始直後から異様な人気を誇った。番組の構成は極めてシンプルだ。起業・独立をしたい人が事業計画を携えて番組に応募する。殺風景な会議室を会場に、すでに事業で成功している社長=マネーの虎から厳しくその事業計画をジャッジされる。

挑戦者は虎たちから時には罵声を浴びせられ、時には絶賛されながら自らの事業計画がいかに優れたものであるかプレゼンをする。お金を出したい虎が現れればマネー成立、失敗すればノーマネーでフィニッシュ(失敗)となる。

番組を知らない人には事業計画やプレゼンと聞くと合理的・理性的なやりとりがなされていたように聞こえるかもしれないが、番組では甘い計画を持ち込んだ挑戦者には怒号や罵声が浴びせられるのは当たり前で、きわめて感情的なやり取りが頻繁になされた。バラエティ番組であることを考慮しても、視聴者が緊張を強いられるほどの内容だった。

資金調達がエンターテイメントになるとはおそらく誰も考えなかったであろうことから、極めて個性的な番組であったことは間違いない。マネーの虎はシンプルで優れた番組構成から、全く同じ仕組みの番組が海外でも放送され人気を博した(クイズミリオネアが本家のイギリスから輸出されたように、これをフォーマット販売という)。

2000年代前半には、マネーの虎以外にも「金持ち父さん・貧乏父さん」がベストセラーとなり、ホリエモンが話題となって球団買収を仕掛けたタイミングは2004年だった。その後の起業ブームにこれらは確実に影響を与えたのではないかと思う。

■VALUは世界を変えるか?

VALUが生み出す世界は極めて新しく、そしてこれまでの常識を壊しかねないほどの破壊力がある。

通常、起業・独立には自身でお金を貯めたり、融資を受けたりという一定のハードルがある。アイドルや歌手になりたい、漫画家になりたいといった直接的にはさほどお金のかからない目標であっても、成功するまでは収入が極端に低いため、収入を得られるようになるまでの生活費は実質的に起業資金に等しい。

現状で何億円もの資金調達がVALUで出来る状況ではないが、スモールビジネスや上記にあげたようなクリエイターであればVALUで数十万円、数百万円の資金調達が出来れば創作活動や芸能活動で確実にプラスとなる。当初VALUが話題になった時も、とあるブロガーが1000万円を調達したという話がきっかけだった。

ちょうど本日、カリスマプログラマー、伝説のプログラマーとまで評される小飼弾(こがいだん)氏がVALUへの参画を表明した。自身のブログでは取引先に対して他の業務も当然継続するとしながら、競合条件が生じた際にはVALUの業務を最優先すると宣言している(小飼弾公式ブログ・404 Blog Not Found If you can't beat them, join them 2017/07/20 より)

また、外資系金融機関を渡り歩き、株式上場・証券発行にも携わってきたベテラン金融マンであり、アメリカのドットコムバブル(ITバブル)をリアルタイムに現場で体験した広瀬隆雄氏はVALUの登場はネットスケープの上場以来、最も重要なイベントであると言い切る。

※ネットスケープはインターネット黎明期にブラウザのシェアをマイクロソフトのインターネットエクスプローラーと争い、ネットの普及に強い影響を与えた。

現在ベータ版の状態で始まって2カ月たらずのVALUではあるが、小飼弾氏の参加により怪しいサービス、うさんくさい仕組みと見られていた面が解消されるきっかけになるように思う。

■VALUは夢の仕組みか? 危険なサービスか?

かなえたい目標を持つ人にとってはまるで夢のような仕組みに見えるVALUではあるが、一方で、多数の問題も抱えている。VALUが株を模したサービスであることはすでに説明したが、資産運用の世界であれば完全に違法な行動がまかり通っており、それを公言する人も後を絶たない。

資産運用に多少なりともかかわるFPの自分から見ると、やって良い事と悪い事の判断が出来ない人が多数派の状況で、極めて異常で気持ちの悪い状況がある。株式市場で様々な規制があるその根拠を考えれば、それらの行動は法律の有無とは関係なく問題行動であり、VALUは株ではないのだから問題はないとは決して言い切れない。

現在、VALUには日々変更が加えられ改善・進化を遂げているが、それに追いつかないほどの広がりを見せている。すでに上場したVALU主は1万人を超え、やり取りされる金額もきわめて大きくなっている。時価総額が円換算で1億円を超える人もすでに70人ほどに達しているようだ。

先日、「CASH」という質屋アプリで買い取りの申し込みが7000件以上、金額で3億円以上も殺到して開始翌日にサービスの一時停止を余儀なくされた。お金が絡むと人の行動は一気に変わる。平常心ではいられない人も多い。すでにパチンコ中毒ならぬVALU中毒になっているような人も散見される状況だ。

株やFXで人生を棒に振る人が珍しくない金融業界を知る自分からすると、お馴染みの状況ではある。しかしそういった知識が全くない人はおそらく自分が何をやっているかも分からないまま、熱にうなされるようにVALUへハマっているのだろう。

マネーの虎があっという間に人気番組になったように、人とお金が絡む事は極めて面白く、中毒性が高い。これはVALUにとってはメリットとデメリット、両方の側面を持つもろ刃の剣といえる。

まずはVALUの概要を解説したが、VALUの問題点や改善点、そして欠点があるにしても(まだ始まったばかりなので欠点があるのは当然)VALUの持つ可能性については改めて次回の記事で言及したい。

※筆者はVALUを運営する株式会社VALUと融資・投資・雇用等の直接的な利害関係は一切無いが、自らVALUに上場しサービスを利用しているため、一参加者として利害関係があることは明記しておく。

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中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー

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