医療現場から変える 長時間労働をしなくてすむ社会へ

医療現場の長時間労働は、医療の効率性を低下させているだけでなく、患者さんの満足度を低下させる主たる要因になっています。

沖縄県で発行される地方紙が次のような記事を載せていました。まさに私の職場についてのトピックスなので、現場からコメントさせてください。

記事では、昨年11月に沖縄県内の県立病院に勤務する医師ら職員の残業代未払いが労働基準監督署に指摘され、その額が億単位に上るかもしれないと伝えています。そして、「業務量が多くて毎日のように4~5時間は残業をしないと仕事が終わらず、休憩時間は15分しかなかった」との看護師の証言を紹介していました。

締めくくりは、「病院事業局は職員を大切にし、労働の対価はしっかり払うべきだ」との論調。まあ、その通りなんですが・・・、ほんとの意味で職員を大切にするってのは、できるだけ残業しないですむ職場づくりのはず。救急医療への影響を懸念するなら、それは住民にも責任の一端があることを伝えていただきたかった・・・。

グラフは、都道府県別にみる時間外で受診される患者さんの割合です。沖縄県では、とりわけ健診異常が放置され、定期受診は怠りがちとなり、ついに体調が悪くなって救急病院を時間外に受診しています。あるいは、風邪を引いていても日中は仕事をしていて、夜になってから救急外来を受診する人も少なくありません。医療がコンビニ化している沖縄では、さらに多くの医療従事者が残業するしかないのです。

実際、沖縄県に限らず、医療従事者の多くが慢性的な睡眠不足の状態にあります。眠気を抱えた私たちは、どうしても対話や配慮を後回しにして、ミスをしないことに集中しがちになります。医療現場の長時間労働は、医療の効率性を低下させているだけでなく、患者さんの満足度を低下させる主たる要因になっています。

まず、病院管理者は、職員の業務行程を徹底してチェックして、労働集約型の業務形態からの脱却を目指すべきです。また、他の医療機関や介護事業者などと効率的に連携するべく、その議論を地域全体に広げてゆくことも必要でしょう。これは、医療従事者のプロフェッショナリズムを尊重することでもあります。

もちろん、緊急事態への24時間の瞬発力は温存しつつ、という意味ではあります。土日であっても患者さんは病気ですから、休日に回診することは必要ですし、帰宅する直前に患者さんの状態変化に気づくことはあるものです。私たちに残業ゼロはありえません。でも、ダラダラ仕事をする(させる)こととは話が別です。

とくに、女性の医療従事者が、安心して働ける環境を作ること。それを男性へと横展開してゆくこと。高齢化の進む地方では、医療と介護が主力産業となりつつあります。どんな公共事業を突っ込むことより、ここで働く人たちのワークスタイルを見直すことこそが、地方に労働力を定着させ、かつ出生率を上昇させることにもなるはずです。

病院管理者だけの問題ではありません。遅くまで働くのが当然という中堅職員の意識が、新人を極限まで働かせながら負の連鎖を引き起こしています。「自分(あるいは患者さん)が納得できるまで仕事をする」のではなく、「有限な時間をいかにマネージメントするかが仕事だ」と率先して若手に示さなければなりません。有限の生命のマネージメントを支援する医療従事者だからこそ、これを自らも実践すべきはずなんです。

とはいえ、そもそも仕事がたくさんある限り、やっぱり私たちは遅くまで仕事せざるをえないのです。私たちが「断らない救急医療」を堅持しつつも、「無制限のサービス医療」とならないためには、住民の地域医療への理解が不可欠です。

体調が悪くても、あえて休日や時間外になってから受診する方が少なくありません。入院している親の病状説明について、自分の仕事が終わってからの「夜7時以降で」と平然と指定する方もいます。

その背景には、「自分や自分の家族が病気になっても、仕事を休むことができない」という日本社会の悪循環があります。親の介護と子育て、そして仕事の両立が困難となり、病気がちな年寄りは病院にあずけっぱなしになり、さらに医療への負荷が増してゆくのです。

地域全体で長時間労働をしなくてすむ社会を作ってゆかなれば、働く人だけでなく、支えが必要な人たちも辛いばかりです。

その打開に向けて仕掛けるのが、医療現場であっても良いのではないかと私は思ってます。そもそも長時間労働は健康に悪いのです。医療現場では従事者の健康を守る。それは患者さんを守ることであり、医療の質を向上させることでもあると、率直に住民へ説明できるリーダーが求められているように思います。

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