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町の再出発のために。司法書士事務所から福島県大熊町に転身した職員の思い

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大熊町職員 木内潤司さんの証言

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東北復興に自分の知識が役立てばと、復興庁が募集していた被災地への司法書士派遣に手を挙げ、2014年11月に大熊町の応援職員となりました。2016年4月からは町職員となり、復興事業課に勤務しています。

宮城県生まれの横浜育ちで、子どもの頃から長期休暇のたびに仙台市の祖父母のところを訪れていました。それだけに、東日本大震災は私にとってもショッキングな出来事でした。しかし、前年の11月に司法書士の試験に合格したばかりで、震災当時は新人研修中でした。被災地でのボランティア活動などには参加できず、その後、司法書士事務所勤務を経て独立しました。司法書士としての人生を歩み始めた慌ただしい時期でした。でもいつかは被災地のために、そんな思いが心のどこかにあったのかもしれません。

派遣が決まるまで大熊町のことをほとんど何も知りませんでした。ただ、自分が受け持つだろう業務内容は、事前に想像していたものと大きな違いはありませんでした。

復興に必要な用地の登記簿を法務局で取得し、地権者を調べ、ご存命かどうか確認し、相続が発生している場合は戸籍謄本等で相続関係を確定させるというものです。相続登記をしていなかったり、一つの土地を複数人が持ち合っていたりするなど困難なケースも多々あります。

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特例宿泊により自宅で夜の団らんの時間を過ごす町民、2016年8月撮影

司法書士事務所で実務経験を積んだ2年間は、一個人の相続について調査し、その相続登記をすることが仕事でしたが、大熊町では一事業に関わるすべての地権者を確定する必要があります。このため、司法書士事務所時代と比べて業務量は大きく増え、私自身の相続登記に関する経験値も相当上がりました。

復興庁との契約は最長3年間で、私も3年で横浜に帰るつもりでした。

しかし大熊町に勤務して半年ほど過ぎた時、この町で最も司法書士が必要とされる時期は、私の任期終了後に訪れることに気付きました。国からの応援職員では制約が多く、町職員と同等の働きができない難点も気掛かりでした。そこで、職員として司法書士の役割を担いたいと考え、復興庁の応援職員を1年前倒しして終了し、町職員になるという選択をしました。

遠い将来のことまでは考えていませんが、司法書士としてお役に立てることがある限りは職員を続けたいと考えています。福島第一原発の廃炉作業が進み、あの場所が更地になってから始まる仕事もあるでしょう。

大熊町はかつて、原発の誘致により町を発展させてきました。しかし今、町はその原発のため苦境に立たされています。「ゼロ」からの出発ではなく「マイナス」からの出発にならざるを得ません。そうした現状に目を伏せることなく、前を向いて町の発展の一翼を担えるよう尽力し、日々努力していきたいと思います。

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復興拠点としての整備を待つ大熊町大川原地区、2016年11月撮影

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大熊町は今も全町に避難指示が出され、町中心部を含め、町民の96%が住んでいた地域が避難指示区域の中でも放射線量が高い「帰還困難区域」に指定されるなど、避難指示がでた自治体の中でも復興へのハードルが高い町です。

町は比較的線量が低い地域に復興拠点を定め、農地だった場所に役場庁舎や復興公営住宅などを整備していく方針です。2019年3月には新しい役場庁舎が完成予定。前例のないまちづくりに着手しています。

今年の大型連休。町は町内でも線量の低い地域に限り、期間限定で宿泊を認める「特例宿泊」を実施しました。一時的に帰宅した町民の1人は、庭の草を一つ一つ手で抜いていました。家庭菜園の土もきれいにならされていました。自宅に住めなくなったこの6年、機会を見つけては家に帰り、手入れを続けてきたのだろうと思います。

木内さんは「マイナスからの出発」と言いましたが、そもそも厳しい状況下の町を再整備すること自体に疑問を持つ方もいると思います。町や町民の置かれた状況は複雑です。「帰る」という人が少ないのも、再建に利用できる町土が限られるのも事実。ただ、帰還を待つ人や懐かしく思う人に対し、もう一度「おかえりなさい」「いらっしゃい」といえる環境を大熊に作るのは、町の仕事だと思っています。

「この現状から復活した町は世界中どこを探してありません。世界一の町を作れるのがこの町のおもしろさですし、様々な課題も新しいことに挑戦するからこそ」。町出身の若手職員の言葉です。転職してきた木内さんも私も、同じように感じています。
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(震災記録誌は町民以外にも配布している。ウェブ版はこちら(http://www.town.okuma.fukushima.jp/fukkou/kirokushi)。冊子版の取り寄せ依頼は、大熊町役場企画調整課 kikakuchosei@town.okuma.fukushima.jpまで。)

(記録誌をまとめた福島県大熊町企画調整課・喜浦遊)