「アベノミクスの果実」は取らぬタヌキの皮算用なのか

「アベノミクスの果実」とは何を指しているのか、国会で何度か質問したが明確な答えがない。役人に聞いても答えられない...

保育と介護の受け皿それぞれ50万人、保育士や介護従事者の処遇改善、そして、社会保障と税の一体改革で約束した低所得年金者への年金加算、介護保険料や国民健康保険の保険料の減免など、充実を図らなければならない社会保障のメニューは目白押しだ。

しかし、来年4月からの消費税増税ができない環境になって、財源は大丈夫なのか?と心配する声が多い。

これに対して、安倍総理は「アベノミクスの果実」を活用するから大丈夫という。しかし「アベノミクスの果実」とは何を指しているのか、国会で何度か質問したが明確な答えがない。役人に聞いても答えられない。

安倍総理は、平成24年度(2012年度)の税収と平成28年度(2016年度)の税収を比べて、「21兆円税収が増えたから、これらも活用して」というが、この21兆円のうち消費税を5%から8%に引き上げた増収分8.3兆円を除けば、やっとリーマンショック前の平成19年度(2007年度)の税収の水準に戻ったに過ぎない。すごく増えたとの印象を与えているが、実態はそうでもないのだ。

しかも、この間、高齢化の進展で社会保障費は10兆円増え、一般歳出は11兆円増加している。つまり、税収が同じ水準に戻っただけなのに歳出がそれ以上に増えていて、むしろ財政は悪化している。

さらに、政府が前提とする高い成長率が実現してもなお、2020年のプライマリーバランス(基礎的財政収支)は6.5兆円の赤字になる計算だ。こうした財政の現実を正しく理解していれば、税収がリーマンショック前の水準に戻った程度で、「『果実』を活用して新しい政策を!」などと軽々しく言えないはずである。

それに、28年度(2016年度)の税収は、あくまで「見積り」であって、実際にそれだけの税収が確定しているものではない。年度の途中で景気が悪くなったりすると、予定していた額の税収が入ってこなくなる。その意味で、英国のEU離脱の影響はとても気になる。

ただ、英国のEU離脱の前から、日本経済にはかなり悲観的な傾向が現れてきていた。例えば、昨年度(平成27年度)の実質GDP成長率は、政府の当初見通しでは1.2%だったが、実際には0.8%で目標に届いていない。また、本年度(平成28年度)の成長率も、政府の見通しは1.2%になっているが、先日IMFはその見通しを0.5%に下方修正した。そうなると当然、税収も見積りより減るかもしれない。

「アベノミクスの果実」の話に戻ろう。

安倍総理は、社会保障の充実財源については、21兆円の税収増の活用も含めてと言うが、そもそも、この21兆円はあくまで「過去の税収」の話であって、毎年の予算の中で既に使われている。使ってしまった税収を未来の歳出に充てることはできない。

では、これからも同じ様な税収の上振れが続くかと言えば、それもかなり難しい。英国のEU離脱が、それをさらに困難にするだろう。

安倍政権の計画では、GDP600兆円達成に向けた高めの成長率を前提にしているため、上振れどころか、逆に予定した税収すら確保できない可能性が高い。

なお、7月1日に財務省から発表された昨年度(平成27年度)の税収は、リーマンショックがあった平成20年度以来、7年ぶりに見積もりを下回った。毎年、税収の「上振れ」が続くようなことはあり得ないのだ。

要は、社会保障の充実に回せるような「アベノミクスの果実」21兆円など、もはや存在しないし、これから、新たな「果実」が出てくる目途もないのだ。

安倍総理におかれては、「取らぬタヌキの税収増」に頼るのではなく、現実的な財源の話を語っていただきたいと思う。選挙になると甘い話ばかり、そんなことは与野党を問わずやめるべきだ。

注目記事