児童虐待を減らすために必要なこととは何か?

3日に約1人、虐待によって子どもが亡くなっている。こうした状況に対して、今までどのような対策が取られてきたのだろうか。

ここ数年、毎日のように児童虐待の事件が報道されている。実際、24年連続で児童虐待件数は増えており、全国207カ所の児童相談所(児相)が2014年度に対応した児童虐待の件数は、前年度比1万5129件(20.4%)増の8万8931件に上っている。だが、児童虐待死亡事件件数は平成20年頃からほぼ横ばいで推移しており、「発見」「相談」が増えているのであって、死亡件数自体は増えているわけではないことに留意が必要だ(おそらく予防できていると言えるだろう)。

しかし、それでも3日に1人程度児童が虐待によって亡くなっている。

こうした状況に対して、今までどのような対策が取られてきたのだろうか。

2000年に児童虐待防止法が成立

1990年代からメディアの報道などにより、児童虐待に対する社会的関心は高まったものの、児童虐待対応は児童福祉法や民法、刑法等を根拠に行われ、虐待独自の法律が存在しなかった。

そこで2000年に「児童虐待の防止等に関する法律」(児童虐待防止法)が成立し、児童虐待の定義がはじめて定められ、虐待の禁止や虐待を受けた児童の保護措置、児童虐待防止に関する施策の促進を目的として制定された。

2003年に改正

2000年に成立した児童虐待防止法に施行3年後に法改正を行うことが明記されていたこともあり、2003年に改正。この改正では、法の目的が以下のように見直された。

「児童虐待が児童の人権を著しく侵害するものであり、我が国の将来の世代の育成にも懸念を及ぼすこと」、「児童虐待の予防及び早期発見その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務を定めること」、「児童虐待を受けた児童の保護及び自立支援のための措置を定めること」。

具体的には、同居人による虐待や児童の前でDVを行うことも児童虐待に含まれ、児童虐待を受けたと「思われる」児童も通告義務の対象に、児童相談所長・都道府県知事の必要に応じた適切な警察署長への援助要請等を義務とする、などが定められた。

2007年にも改正

虐待の早期発見・対応が中心で、虐待予防、虐待を行った保護者への指導などが不十分だったことから、2007年、1)児童虐待のおそれのある保護者に対する都道府県知事による出頭要請の制度化、2)一定の手順を踏み裁判所の許可を得た上での強制立入を認める、3)児童相談所長等による保護者に対する面接・通信等の制限強化、4)都道府県知事による児童への接近禁止命令制度の創設等、行政の取組を強化した改正法が成立した。

また、2012年から、虐待する親への措置として、親権を無期限に剥奪する「親権喪失」に加え、2年以内という期限つきで親権を停止させる親権停止制度も新設された。

関係機関内での情報共有不足

だが、現状でも課題は多い。児童虐待防止法の10条では、児相の警察への援助要請について規定されているが、実際には児相と警察の連携は進んでいない。行政内部でも情報共有が進んでおらず、2012年に愛知県で起きた児童虐待事件では、両親が4歳の女児を衰弱死させ、7歳の男児は就学させないまま軟禁状態に置いていた。男児が入学するはずだった小学校では「居所不明児童」として不就学扱いにしたが、実際には同じ市内で生活し、父親は役所の子育て支援課窓口で子ども2人分の児童手当を受け取っていた。この時、学校と市内の行政各部署が情報共有していれば、事件を防ぐことができたかもしれない。

また、児相が警察に情報共有することが現在は規定されておらず、児童相談所や学校、警察等が虐待が疑われる情報を入手した場合には必ず他の関係機関に対して情報共有することを義務付ける必要があるだろう。

親権の過度な保護

夫婦別姓問題でもそうだが、日本は過度に親権が保護されているように感じる。日本は諸外国に比べ親権停止を求める件数がかなり少ない。2014年に児相所長が家庭裁判所に親権停止を申し立てた事案は15自治体で23件、うち17件で親権停止が認められた。これは諸外国と比べるとかなり少なく、イギリスでは年間約5万件、他の欧米諸国でも数千〜数万件ある国が多い。もちろん、国によって制度や文化は異なるが、過度な親権保護によって生まれている問題があるなら解決すべきであろう。

児童虐待死のうち、約40%が生まれてすぐに虐待死で亡くなっている。つまり、望まれずに産まれた子どもが虐待死にあっている場合が多い。一方で、子どもが産まれずに困っている夫婦もいる。

また、虐待する親の中には、親の権利を主張し、「しつけをしただけ」と虐待を認めなかったり、児相が一時保護した子どもを強引に連れ帰ろうとしたりする親もいる。「親を悪く言うのはいけない」などと、親至上主義的な考え方も残っている。

こうした現状に対して、親権停止や特別養子縁組の普及が求められる。特別養子縁組とは、6歳未満の小さな子どもと、その実の親の「法律上の親子関係」をなくして、別の大人と新たに法律上の親子関係を作り出す制度だ。今は児童養護施設に送られる場合がほとんどだが、(法律上の)親と一緒に暮らせるに越したことはない。仮に児童養護施設に入所しても18歳までしかいれず、未成年者だと住居の契約に親権者の同意が必要など、親権が重要になってくる機会は多い。

また、児相が(親権よりも)子どもの安全を最優先として一時保護を行うことを義務づけるよう、児童虐待防止法を改正する必要もある。

2012年4月に施行された、民法の「親権制限制度」、「未成年後見制度」の改正では、民法の親権の規定の中に、「子の利益のために」という文言が追加され、親権の濫用による児童虐待をなくす方向に向かっている。さらに、未成年後見人選任の選択肢を広げるため、個人だけでなく、社会福祉法人などの法人も未成年後見人として選任できるようになっている。

日本は核家族化が進み、子育て環境は昔より厳しい状況にある。そのため、社会制度もそれに合わせて今後さらに変えていく必要があるだろう。

(2016年2月1日「Platnews」より転載)

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