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変わらない母親像、「互助」から「公助」の時代へ

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先日5月8日は「母の日」であったが、この機会に「母親」について考えてみたい。というのも、現在の日本が抱える問題の多くが「母親」が大きく関係していると考えているからだ。具体的には、子育てや少子化、貧困、経済成長などが挙げられる。

今年最も話題になった政治的イシューの一つが待機児童問題であるが、その問題が解決しないのも「母親」が大きな理由になっていると考えている。

では、なぜ子育て支援が遅々として進まないのか、母親でありながら政治家として活躍し、国会で「保育園落ちた日本死ね」を取り上げた民主党(当時)・山尾志桜里議員に行ったインタビューを引用しながら、その背景、また解決策を考えたい。

最大の理由は(やはり)若者の投票数


度々語られているように、待機児童問題が解決しない最大の原因は「保育士の給与の低さ」であるが、原因がわかっていながらそこに予算が割かれないのは、若者の投票者数の少ないから、ということは疑いようのない事実だ。有権者の平均年齢は53歳程度で(投票者の平均年齢は57歳程度)、政治家の合理的選択としてはやはり高齢者向けの政策になる。

さらに、人間というのは最初から持っていないものは与えられなくても大きな不満は抱かないが、持っているものを奪われれば、もらえると期待していたものがもらえなければ、俄然大きな不満を持つ。その意味では、現在若者や将来世代に予算が割かれていないのは「しょうがない」とも言える。

しかし、少子化などの問題は今に始まったことではなく、20年以上、問題が続いている。生産年齢人口は1995年がピークで、それ以降毎年100万人程度減少してきている。待機児童問題も同様の時期から続いている。「合理的」な選択のもと、高齢者、現役世代の問題ばかりに注力してきたが、いよいよ限界を迎えつつある。今まで高齢者を支えてきた社会保障制度が成り立たないフェーズに入ってきており、高齢者のためにも若者や将来世代に予算を割かなければならない。

そして、政治家に「言い訳」を与えるためにも若者は選挙に行かなければならない。先日、NHKの「18歳からの質問状」という若者と政治家が対談する番組が放送され、「勝手に選挙権を与えられて、政治のこととか教えてもくれないのに、選挙に行けと言われて困る」という若者の受け身な態度、社会の一員としての自覚のなさに衝撃を受けたが、それでも今回は義務と捉えてでも若者は選挙に行かなければならない。

一人の意見で組織が変わらないのと同じように、一票で国が変わる訳がない。しかし、今回選挙に行かなければ、若者政策は確実に遅れるだろう。権利を与えられても行使しなければ、別の権利も与えられなくなる。

1票だけじゃ政治は変わらないと思われるかもしれないけど、その1票がないと政治は変わらないので、まずはやはりそこを、18歳選挙権の話も含めて、お願いしたいなというのはあります。今回の「保育園落ちた」の話で多くのメールが届いたんですが、その中に、匿名の書き込みじゃないかという声もすごくあったんですよ。でも1票だって匿名です。1票の積み上げで政治はできているじゃないですか。(中略)やっぱり1票って重いんですよ。

出典:<山尾志桜里議員インタビュー>「絶望の中から希望が生まれた」ー待機児童問題


変わらない「母親像」


だが、これだけ話題になっても子育て支援策が進まない、大きな理由がもう一つある。それは変わらない「母親像」である。
「母親像」とは何か?母親は家庭に尽くし、子どもは母親が育てるものであり、きちんと家事や子育てができて当然、というイメージである。

もちろん、父親も「サラリーマン」として大変だが、家に帰れば休めるし、休日も休める。「イクメン」がブームだが、男性が少しでも子育てを手伝えば褒められるが、母親は叱られることはあっても褒められることはない、減点方式だ。さらに現在は共働きでなければ生活できない家庭が増えており、「労働者」と「母親」という二つの仕事を掛け持ちしている。

でも「母親」は子どもが好きだし、幸せだろう、という意見もあるかもしれない。
しかし、現実的には、伝統的な、子育てを母親が行う家族では母親の生活満足度は父親に比べて低いという研究データも出ている。さらに、悲しいことに、子どもが増えると、男性の生活満足度は上がるが、女性は下がる(参考:「子どもと生活満足度」)。

また、ここで問題にしているのはいわゆる女性活躍(職業上の待遇改善)ではない。もちろん、女性活躍も必要だが、様々な政策の効果もあってここ30年以上女性の賃金は上昇し続けている。

一方、結婚・出産による離職率は、1980年から2005年まで86.3%と、20年以上ほとんど改善していなかった。近年になってようやく改善され、2010年には62.4%まで低下している(参考:「結婚・出産と就業の両立可能性と保育所の整備」)。

だが、それでも未だに約半数が仕事を辞めており、結婚・出産と就業を両立させるのは難しくなっている。つまり、今子育て政策にとって重要なのは、結婚・出産と就業の両立、「母親」の子育てからの解放である。こうした社会を実現するためにも、子育てが当然視されていた今までの「母親像」を変える必要がある。

保育園の義務教育化


だが、急に価値観を変えろ、と言われても無理だろう。そこで、必然的に母親の負担を減らす対策が必要だと考えている。具体的な策としては、「保育園の義務教育化」が挙げられる。義務、というと誤解を生むかもしれないが、必ずしも全員預ける必要はない。預けたい人が無償で預けられるようにする、ということだ。

だが、無償化(だけ)ではなく「義務」というのが重要である。なぜなら価値観を変える必要があるからだ。現在、男性が育休を取りにくいように、それが「当たり前」にならなければ制度を使う人は増えない。母親は家庭で子育てをするのが「普通」という考え方を変えなければならない。そのためには、義務としてしまうのが最も有効だろう。

大学無償化の議論が以前から行われているが、高等教育よりも幼児教育の方が効果が大きい、というのは多くの研究結果が示している。少子化対策という意味でも子育て環境を整える方が先だろう。

山尾議員も最終的には「保育の保証まで踏み込みたい」と発言している。

自分なりに次の目標で考えているのは、保育園の義務教育化となるかは別として、今の保育は、親が働いていて子どもの面倒を見られない人を保育しますよという話ですよね。それですら現状はやれていない。一方で、親が働いて面倒を見られるかどうかではなく、子どもも、何歳かを過ぎた時には、保育士さんを含めた乳幼児の専門家の手による保育・養育・教育を受けたほうがいいんじゃないかって考えていて、徐々に広まってきているんですよね。そういう意味では、親が面倒見られるかどうかに関わらず、保育を保証するということに踏み込んでいきたいという思いが強くあります。

出典:<山尾志桜里議員インタビュー>「絶望の中から希望が生まれた」ー待機児童問題


「家族」に回帰する自民党


一方、自民党は家族に回帰しようとしている。2015年3月に閣議決定した少子化社会対策大綱に世代間の助け合いを目的とした「3世代同居・近居の促進」を盛り込み、主権者教育の推進策に「子どもがお手伝いなどで家庭生活に参加するように取り組む」を盛り込んでいる。推進策をまとめた義家弘介文部科学副大臣は「家庭を守らずに地域を守れるか。地域を守れずに日本を守れるか。教育の第一義的責任は家庭にあり、応援していく」と説明している。また、憲法改正草案でも、自民党は家族や国家といったものを重視している。

安倍首相は「ワイドナショー」に出演した際に、古市憲寿氏の「自民党の中にはまだまだお母さんが子どもは家で育てた方がいいと思っている人が多いのではないか?」という質問に「今はほとんどいない」と答えていたが、自民党の政策や発言を見ていると、まだまだその価値観は強いと感じる。

以前インタビューした自民党・野田聖子議員も下記のように言っていたが、自民党議員に限らず、男女平等均等法(1986年施行)ができる前の世代と後の世代では価値観が大きく異なるように思える。

自民党の国会議員の平均年齢が60歳ですから、それで9割は男性ですから、推して知るべしで、そもそも前の世代も私の世代もそうですけれど、男性が出産に立ち会うということも無かったと思うし、保育園の送り迎えもしたことないだろうし、子育てを妻に100%任せた世代の人たちが今自民党は主流ですから、ああいった野次が出るっていうことは無知っていうことなんです。それに尽きる。

出典:<野田聖子議員インタビュー>「子どもの二次災害を防ぎたい」ー特別養子縁組普及に向けて


「互助」から「公助」の時代へ


もちろん「3世代同居」や家庭、地域は重要だ。しかし、地方ならまだしも、首都圏で3世代が住めるほどの家は限られるだろうし、シングルマザーの貧困率が圧倒的に高いように、子育て環境は各家庭に大きく依存する。経済的に困難な家庭が増えつつある今の日本で家庭に依存するのは危険ではないかと思う。また家庭での子育てが難しい理由がもう一つある。それはフルタイムの女性労働者の賃金の上昇だ。それ自体は喜ばしいことだが、パートタイム労働者との賃金格差は広がる一方で、家庭で子育て(≒出産)することの機会費用は上がり続けている。

実際、生涯未婚率も上がり続け、2010年は男性が20.1%、女性が10.6%だったが、2035年には男性が29%、女性が19.2%に上昇すると言われており、今後は家庭がない人も多くなる(この未婚率が少子化の大きな原因になっているが、その詳細は別の記事で書くとする)。結果的に、自助や互助だけに頼っていては子どもを産む女性がどんどん減り、当たり前に子どもを育てられる社会を作るためには、社会で助け合う「公助」が重要になるだろう。

もちろん、「公助」を行えるようにするためには予算が必要になってくるが、中長期的な予算を確保するためにも、経済成長、少子化対策が欠かせず、その一環として待機児童問題の解決は喫緊である。

そして、こうした政策を実現するには、すでに述べたように、若者の投票数、「母親」への価値観の転換、また山尾議員や野田議員が言うように、女性議員を増やしルールを作る側の価値観を変える必要があるだろう。

少子化対策の成功例としてよく挙げられるフランス同様の政策を日本でも行おうとすれば、現在の約3倍、年間13兆円の財源が必要だと言われている(日本経済研究センター試算)。家族政策への財政支出は対GDP費で、日本は1%台だが、フランスは3%近い。この財源を確保するには、消費税率を5%上げてその増収分を全て子育てに回すか、社会保障費のうち、高齢者向けの割合を8割台から7割台に減らす必要がある。

いきなり日本でこれを実現するのは現実的ではないが、子育て政策、少子化対策に重点を置かなければ今後日本は衰退する一方である。現在特に問題視されている保育サービスの無償化や保育士の待遇改善などを行うのに必要なお金は約3.6兆円だ。これも多額であることは確かだが、配偶者基礎控除を1000万円にした上で、相続税を一律20%課税にすれば、3.9兆~9.0兆円の財源確保が可能だと言われており、十分実現可能な範囲だろう(参考:「相続税の課税方式に関する理論的考察 ―取得税方式への回帰に向けて―」)。

今度の参院選は18歳選挙権が始まる、ということでいつになく若者に目が向けられている。そろそろ各党がマニフェストを発表するだろうが、若者政策も多い。しかし、今回投票率が低いようでは若者政策の実現は遅れてしまうだろう。「政治がよくわからない」という声は当然ながらあるだろうが、極端なことを言えば「なんとなく」でいいので投票には行って欲しい。仮に、今回10代、20代の投票率が70%以上になれば、この国は大きく変わる(平成26年12月衆院選で最も高かったのは60代の68.28%、平成24年12月衆院選は74.93%)。

野党が「立憲主義」や「安保」などのイデオロギー論争を行うのは一部の人しか選挙に行かないからだ。ほとんどの国民が選挙に行けば、最も関心の高い経済政策や社会保障政策に目が向けられる(参考:「18歳・19歳が政治で最も関心のあるテーマは?ーNHK世論調査」)。

そして、子育て支援策が行われることで新しい「母親像」が広がり、経済成長に繋がるだけではなく、母親の幸福度も大きく上がるだろう。政治家もようやく目を向け始めている。足りないのはそうした政策を実現してほしいという国民の声(票)だけだ。