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室橋祐貴 Headshot

全米支持率で上回ってもトランプがヒラリーに勝てないワケ

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7月と8月に失策を繰り返し(参考記事:終焉に近づくトランプ現象とその先)、全米を対象とした世論調査で一時はヒラリー・クリントン民主党候補に10ポイント近くつけられたドナルド・トランプ共和党候補が数ポイント差まで追い上げている。

だがそれでも、トランプ氏が大統領になるにはまだ遠い。

民主党候補が勝ちやすい本戦

それは、米大統領選は、有権者からの総獲得票数ではなく、各候補が全米50州とワシントンDCで獲得する「選挙人」の数で勝敗が決まるからだ。

州ごとの集計は「勝者総勝ち取り方式」となっており(メーン州とネブラスカ州を除く)、1%の差しかなくても、得票数1位の候補者がその州の選挙人全てを獲得することになっている。

選挙人の合計は538人。過半数の270人を獲得した候補者が大統領に選出される。

選挙人の数は人口に応じて割り当てられ、最も多いカリフォルニア州では55人、モンタナ州やアラスカ州など小さい州では3人と大きな開きがある。

こうしたことから、有権者からの総獲得票数で勝っても、「選挙人」の獲得数で上回ることができなければ、大統領になることはできない。

実際、2000年の大統領選では、民主党のアル・ゴア候補が5099万票、共和党のジョージ・W・ブッシュ候補が5045万票だったにも関わらず、選挙人獲得数ではブッシュ候補が271人と過半数を獲得し、大統領に就任した。

そして、過去6回の大統領選ですべて民主党が勝った州(19州)の選挙人を足すと242人となり、共和党は102人(13州)。この時点で、民主党候補は28人の選挙人を獲得すれば勝つことになる。

つまり、共和党候補が勝つには民主党が今まで勝っている上記19州以外のほぼ全てに勝たなければならない。

もちろん、共和党のジョージ・W・ブッシュ候補が勝ったように、必ず民主党候補が勝つわけではないが、共和党候補は民主党支持の多い州を切り崩さなければならず、難易度は高い。

まだまだ差は大きい

では、各州の最新動向はどうなっているのか。主な激戦州(スイング・ステート)である5州を中心に見ていきたい。

フロリダ州(29選挙人)ーClinton 41:Trump 40(100に達していないのは第3政党の存在と未定と回答した者がいるため)

ペンシルベニア州(20)ーClinton 40:Trump 32

オハイオ州(18)ーClinton 39:Trump 42

ミシガン州(16)ーClinton 38:Trump 35

バージニア州(13)ーClinton 40:Trump 37

参考:RealClearPolitics

また、過去6回中5回共和党が勝っているノースカロライナ州(15)は42対42で並んでおり、トランプ氏はこれらの州で全て勝つ必要がある。

確かに徐々に差は縮まっているが、全米支持率を見て追いついた/逆転したと見るのは早合点だろう。

ヒラリーの懸念材料

こうした州ごとの集計方式では、幅広い層から支持を得る必要があり、そこで重要になってくるのは、地元の有権者に働きかける選挙事務所、ボランティアスタッフだが、ヒラリー陣営とトランプ陣営ではその差が大きい。

トランプ陣営の有給スタッフは70人だが、ヒラリー陣営のスタッフは約700人と10分の1となっている。資金面でも、昨年1月から今年4月までにトランプ氏が集めた選挙資金は約60億円で、ヒラリー氏は約290億円と、大きく離されている。

また、共和党主流派からの支持は得られておらず、共和党主流派は共倒れしないよう、議会選挙の方に注力しようとしている。

だが、それでもヒラリー氏が勝つとは言い切れない。

それは失点する可能性がヒラリー氏の方が高いからだ。トランプ氏は今まで何度も"失言"しており、今さら"失言"しても支持が大きく離れることはない。

それにトランプ氏の支持者は、トランプ氏が発言をコロコロと変えるOpportunistだということは理解している。彼らは現状に大きな不満を抱えており、変化を与えてくれる人物を求めている。

例えば、下記のデータでは、ヒラリー氏の支持者が「50年前に比べて、米国での生活は良くなった、これからも良くなる」と考えているのに対し、トランプ氏の支持者は「50年前に比べて、米国での生活は悪くなった、今後も悪くなる」と考えているのがわかる。

2016-09-20-1474415241-3956271-chartoftheday_5812_clinton_and_trump_supporters_see_the_world_very_differentl_n.jpg

出典:https://www.statista.com/chart/5812/clinton-trump-supporters-see-the-world-very-differentl/

また、激戦州13のうち、半分以上は所得の増加が全米平均を下回っており、その中でも全米で最低クラスにあるネバダ州、ジョージア州、アリゾナ州はいずれもトランプ氏が優位になっている。

問題は、トランプ氏にその変化の担い手を任せる有権者がどれだけいるのかという話だが、現状ではまだそこまで振り切れていないようだ。

確かに、米国は格差が拡大しており、中間層の所得も伸びていないが、それでもさすがに理性的にトランプ氏を信じられないという中道派は多い。

しかし、「まだマシ」だと思われているヒラリー氏が失言を繰り返せば、一気にトランプ氏に票は動くだろう。

「トランプに政権運営は無理」だというイメージを植え付けるため、ヒラリー氏は必死にネガティブキャンペーンを行い、トランプ氏を強く罵倒しているが、その中でトランプ氏の支持者を「嘆かわしい人」と発言するなど、裏目に出ている感は否めない。

本来は、トランプ氏のことなど"シカト"して、いかに自分が優れた政策を考えているのかにフォーカスすべきであったが、完全に戦略ミスであろう。

度々問題視されている私用メール問題もまだ終わっておらず、新たに見つかった約1万5千通の一部が10月に公開されるとみられている。

また、失言をしなくても、先日NYのマンハッタンで起きたような"テロ"事件が何度も起これば、その恐怖からトランプ氏に流れるかもしれない。"あの"ジョージ・ W・ブッシュ元大統領が9.11後に90%の支持率を得たほどだ。それぐらい恐怖というものは人を動かす。

そして、9月26日から始まるテレビ討論会でも懸念材料はある。一般的に政策論争はヒラリー氏を利することになると見られているが、ヒラリー氏のタカ派的な安保政策、中東への関与強化は今の国民感情に反しており、支持が離れる可能性もある。

トランプの勝機

一方、8月に選対が変わってから、ある程度うまくコントロールしながら選挙戦を進められているトランプ氏は経済政策でも支持を集められる可能性が高い。

9月15日にNY経済クラブで行った講演で、GDP成長率4%を目標に掲げ、個人所得税の税率区分を7段階から12%、25%、33%の3段階に減らし、法人税率を35%から15%への引き下げを提案した。このいかにも共和党らしい政策はWSJや金融関係者、企業幹部から賞賛の声が上がっている。

これらの政策は共和党支持層(特に富裕層)に加え、第3政党であるリバタリアン党に流れている票を取るためだろう。仮に、今流れているリバタリアン党の票を取れれば、激戦州のほとんどで逆転できる可能性が高い。

現在8ポイント差もついているペンシルベニア州だが、リバタリアン党のゲイリー・ジョンソン元ニューメキシコ州知事が14ポイントも持っており、リバタリアン党の存在は決して小さくない。

そしてトランプ氏らしいのは、民主党的な政策も取り入れる点である。

13日、トランプ氏は新たな子育て支援策として、課税所得控除、低所得世帯を対象とした税還付、税が優遇される貯蓄口座の新設などを提案した。こうした政策は民主党支持/無党派の低所得者~中間層の支持を得られる可能性が高い。

全ての激戦州で勝つのは難しいか

ただ、ヒラリー氏の優位は中々揺るがないだろう。経済状況が今後悪化すれば「変化」を求める声も強まりそうだが、雇用情勢も順調に改善しており、その可能性も低い。

9月26日、10月9日、10月19日と3回にわたって行われるテレビ討論会でトランプ氏が成功すれば逆転する可能性は当然ある。だが、経験豊富なヒラリー氏がそんな失態を犯すとも思えない。

昨日NYで安倍首相がヒラリー氏と対談したのも、ヒラリー氏が大統領になると予想してのことだろう。

ただ何れにしても、誰が選ばれるかによって、日本、そして世界がどのような影響を受けるのか。現在はほとんど政策討論が行われていないが、来週から始まるテレビ討論会を通して、各候補者のより具体的な考えが見えてくることを期待したい。