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1人1台のパソコンでの授業があたりまえ! 世界のデジタル教育最新事情【オーストラリア編】(前編)

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わが家にはドラえもんをこよなく愛するガマ兄(8)と、「なぜなに」攻撃真っ最中のガマ弟(5)、2人の子どもがいます。

ニュースに対する子どもの質問に、親のほうが考えさせられることって、たくさんあります。そして、子どもの「なぜ?」にうまく答えてあげられないことがとても多いです。

■教科書を学校に持って行かなくなる?


ガマ兄 「iPadが教科書代わりになるんだって!忘れ物しなくなるし、ランドセル軽くなるし、最高だなー」

「デジタル教科書」のニュースをテレビで見ていた8歳の息子が興奮気味に言いました。しょっちゅう忘れ物をして先生に注意されるガマ兄らしい喜び方です。

ガマ母 「うーん、ママは、キミが高校生になっても、教科書と参考書でパンパンのカバンを背負って学校に行ってる気がする」

ガマ兄 「そうなの? オレ、iPadだったらもう少し、勉強がんばれると思うんだけど!」

ガマ母 「・・・・・・」

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確かに、息子たちは私のパソコンやタブレットを、教えてもいないのにうまく使いこなしています。でも、本当に学校でiPad片手に勉強するそんな未来が数年後に実現すると思っている母親は少数ではないでしょうか。

そんな悲観的な思いとは裏腹に、最近、教育に関するニュースがにぎやかです。
デジタル教科書、小学校からのプログラミング教育必修化、アクティブ・ラーニング・・・・・。
特にIT×教育の技術の進歩はめざましいものがあります。
  
でも、学校で使うiPadは本当に学校が全部用意するの? 毎日宿題で出されている漢字の書き取りは本当になくなるの? プログラミング、小学校で誰がどうやって教えるんだろう・・・。

考え込む母に、息子は言いました。

ガマ兄 「なんで、iPadで勉強できるようにならないの?英語のアプリとかかけ算のアプリとか、いっぱいあるのに」

ガマ母 「教えるのが難しいから」

ガマ弟 「簡単じゃん! オレがやって見せてあげる! ママ、スマホ貸して~」

悲観してばかりでも何も変わりません。一人の母親として、子どもたちに家でどんな教育をしていくべきか、ITを教育にうまく取り入れている事例は世界にあるんじゃないか? そんな疑問に、どんぴしゃで答えてくれる方に、今回お話を聞くことができました。

上松恵理子先生。

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武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部で、准教授としてICT教育の研究と実践に取り組んでおられる方です。ICTを取り入れた教育について、今日本で最も詳しい方といっていいでしょう。2002年から、海外の小中学校を10カ国、延べ100校以上の授業現場を視察してきたIT×教育のスペシャリストです。

上松先生が教えてくれた海外の教育現場は、私の想像をはるかに超えていました。

■オーストラリアでは、パソコンなしの授業は考えられない


――今、世界ではどんな教育が行われているのか知りたいです。最も進んだ教育が行われている国は、どこなのでしょうか? 北欧は進んでいるイメージがありますが・・・

最近訪問して、興味深かったのはオーストラリアです。

――オーストラリア、ですか??

ええ。そうなんですよ。日本で言う幼稚園の年長さんから、子どもたちは1人1台のパソコンを持ち、授業で使っていました。しかも、私立の学校だけではなく、公立の学校で当たり前に取り入れられていたのです。

――日本でも、2020年には小学生~1人1台、タブレットを持たせる、という目標が掲げられていますよね。ほんとにそんなことが可能なのでしょうか。

正直、実現して欲しいですが現実は難しいでしょうね。
2人に1人くらいタブレットが整備されたとしても、まだ教材も教師教育も追いついていません。
教育用プラットフォームがようやく計画されているくらいです。

――教育用プラットフォームとは何ですか?

デジタル教材をアップできたり、教員や生徒同士がコミュニケーションできる総合WEBサイトのようなものですね。実施はまだ先ですけれど。

――どうして、オーストラリアはうまくいったんですか?

■自分のパソコンを、学校に持ちこむ


まず、20年ほど前から、教室や廊下に自由に使うことのできるインターネットに接続されたパソコンを常備配置し始めまたそうです。子どもたちが、インターネットで、自由に調べ物ができるようにした。

――私の子どもは公立小学校に通っていますが、職員室か、「視聴覚室」以外でパソコンを見たことはありません・・・。20年遅れ、ということですかね・・・。

その後、パソコン教室を設置する、という段階を経て「子どもにパソコン1人1台」が実現したのは7、8年前。さらに、ここ数年で、自分のパソコンを学校に持ちこめるようになりました。学校でも家でも、小さい頃からパソコンを使うのがあたり前になっているのです。それを使ってやらなければならない宿題もありますし。

――でも、一人1台子どもにパソコンを持たせるって、正直お金がかかりますよね。

■子どもにパソコンを使わせるために、親が4日間の研修を受ける


パソコンを買う余裕がない家庭には、貸出する用の予備が教室にあったり、学校で一斉購入したりする制度があります。だから、すべての子どもたちが、自分のパソコンを持てるのです。

――手厚いんですね。
 
親の所得によって教育格差が出ないようにするためのよい方法ですよね。韓国でも資源がないので、人に投資する、よい教育をすることを国の柱にしています。

――日本も、真似したらいいのに・・・。格差がでないように。

ただ、無条件に補助を受けられるわけではありません。例えば一斉購入をした学校の場合、児童にiPadを貸与するためには「親が4日間、研修を受ける」ことが条件。

――4日間も? みんな、パソコンの使い方は知ってますよね・・・?

■ネットの怖さを、いちばん最初に教える


パソコンを手に入れて専用のIDとパスワードが発行されるまで、親が計4回、平日に仕事を休んで講習を受けます。子どもにパソコンを使わせ始めるタイミングで、インターネットの「危険」を教えるためです。

オーストラリアでは、子ども向けのネットセキュリティなども使わないケースがほとんどでした。自由に授業でもインターネットを使うことができます。

――エッチなサイトとか怪しいサイトを見そうで心配です。

子どもたちは、専用IDでログインするので、どこのサイトをいつ見たか、常に大人たちに監視されています。怪しいサイトを見るとすぐに教師が察知し、警告やペナルティがあります。SNSも同じです。
リアルないじめより証拠が残るんだ、ということを最初に伝えるのです。

――なるほど。確かに、すべて履歴が残りますからね・・・。合理的ですね。子どもたちは、どんなふうに授業でパソコンを使うんですか?

低学年から、作文はワードを使って書きます。手書きの力やスペリングを覚える力は弱まりますが、自動補正機能を使い、ネットで検索すれば正しいスペリングも意味も出てきます。全部覚える必要性はない、という考え方なのです。

――びっくりするほど合理的ですね!

でも、社会人になって、書き順を正しく覚えていなくても困らないですし、正しい語句まで行き着くネット活用力があれば十分という考え方なんです。
先生は、その解決方法を教える。先生が書いた作文を手作業でチェックするより、校正機能を使ったほうが見落としは効率的にチェックできる、という考え方なんですよね。

――なるほど・・・。日本ではまだまだ先になりそうです・・・。

子どもたちに、記憶力ではなく、「新しいものを考え出す力」「問題を解決する力」を身につけるのがあるべき教育だ、そのためにデジタルを使う、という目的がはっきりしているからこうした授業が行われるのだと思います。

一方日本では、100年前から同じ手法、ほぼ同じ内容で、効率を重視した一斉教育をし続けています。

――「一斉教育」って、先生が黒板に漢字や計算式を書いて、それを子どもたちみんなでノートに書き写す、みたいな授業のことですか。

そうですね。暗記している=学力が高い、という時代は終わったので、「考える力」がつく教え方ではありません。

――たしかに。書き写したり暗記するのは作業、であって、「考える」の真逆ですよね。

まだまだデジタルを取り入れた教育方法もネット環境などの整備も、世界標準からはかけ離れている。それを私は非常に危惧しています。最近は少しずつ「アクティブ・ラーニング」も取り入れてきましたけれど・・・。


――「アクティブ・ラーニング」も最近よく耳にしますね。つまり、先生が一方的にしゃべるの授業ではなくて、子どもたちも自分の意見を言ったり、コミュニケーションしながら能動的に学んだりする、ということですよね? 

とてもシンプルに言うと、そういうことです。

――生徒参加型の授業にして、これから必要なデジタル力も授業中に身につけちゃおう、という考え方は一石三鳥くらいでとてもいいと思うんですけれど、ともかく先生たちが大変そうです。オーストラリアでは、その壁をどうやって乗り越えたんですか?

日本と違うのは、デジタル教育のための「IT支援員」が学校にいて、教師とのコミュニケーションを重視した研修が行われます。ウェブ上にはデジタル教材のプラットフォームが整備され、教材制作は国が行います。

――難しくなってきましたが・・・、つまり、専門で教材を作るスタッフがいるということですか?
教材を作る人、それを使って教える人、と役割が分かれているんでしょうか。

そうです。先生たちは、教科書に対応したデジタル教材を、ネットから自由にダウンロードできるので、授業の準備もとても簡単なのです。

――それはいいですね! 確かに、今ですら「日本の先生たちは忙しい」と言われているのに、さらにタブレット用の教材を先生一人一人が作る、なんて、先生が過労死しそう・・・。

国が、教育に多額の投資をしている証拠です。オーストラリアでは、選抜された約50人の教員が教材内容を作成し、それをもとに約150人以上の一流のWebクリエーターがデジタル教材を作っているのです。量もすごいですし、そのクオリティ、本当に高くて驚きますよ。

――日本では、方針は国が決めても、授業で使う教材は民間企業がつくったものを買うか、先生たちが自分でつくるか、ですものね。全然違いますね。

The Learning Placeというデジタル教材のプラットフォームがあります。日本のように企業がばらばらに教材を作って販売するのではなく、クイーンズランド州がサイトを運営しています。どんな教材を作っているのか、日本からでも無料で見ることができます。

■授業で3Dプリンタ、作曲マシンを当たり前に使いこなす中学生たち


ワードで作文を書く、というのは小学校低学年の話。私が視察した、シドニー近くにある「Engadine high school」という中高一貫校での授業を紹介しましょう。

これは、音楽の授業です。

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――パソコンを使うんですか?

作曲しているんです。作曲用ソフトが2種類用意されていて、デジタルに強い子や音楽が好きな子は、ゼロから作曲できるソフトを、それらが苦手な子にはあらかじめ様々なメロディが入っている初心者向けのソフトを使います。

――先生が教壇に立って合唱する、といういわゆる「音楽」の授業ではない。

基本的に、先生が一律で教壇から生徒に教える、というスタイルではありません。うろうろ教室を見回っている。わからない子には教えたりもしますが、生徒同士で教えあうのです。日本と同じで、若い子のほうがデジタルは得意ですから。マンツーマンや友達が教えて、みんな作曲できるようになるのです。そして、できた曲を、みんなで発表し合う。

――友達と教えあって、しかも楽しく学べるっていですね。

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その隣のクラスで行われていた技術家庭 (木工)の授業風景です。3Dプリンターを使っていました。国語数学理科社会英語の授業はもちろんのことそれ以外の授業でさえもこうしたデジタル機器が、特に積極的に活用されていました。

――話を聞いていると、少し落ち込んできました。日本の教育がかけ離れ過ぎていて。でも、いきなりこうした最先端の教育をできるわけでもない。どうすればいいんでしょう、先生。

(以上、前編。後編に続く)