資産税で富の格差を解消するのは大変そう

今回は、前回の最後にとり挙げた資産税について見ていきます。富の格差を解消するには、富そのもの、つまり固定資産だけでなく金融資産やその他もろもろも含めた個々の資産への課税が必要という話でした。ただ、残念ながらと言いますか、案の定と言いますか、資産税にもかなり課題が多そうなんです。

前回は、所得税の累進課税で富の格差を解消するのは難しそうという話をしました。

今回は、その最後にとり挙げた資産税について見ていきます。

富の格差を解消するには、富そのもの、つまり固定資産だけでなく金融資産やその他もろもろも含めた個々の資産への課税が必要という話でした。

ただ、残念ながらと言いますか、案の定と言いますか、資産税にもかなり課題が多そうなんです。

■資産は所得よりもっと把握しにくい

突然ですが、皆さんの全財産はいくらでしょうか。1円単位で正確にお答え下さい。

・・・こう聞かれても、すぐ分かる方はほとんど居ないのではないでしょうか。

下手をすると自分の財布の中身の額さえ正確に当てられないかもしれませんね。

資産税を適応するためには資産の正確な把握が不可欠です。

しかし、実のところ私たちは自分の資産を正確に把握しながら生きてはいません。ゲームの中なんかでは主人公の所持金が「○○ゴールド」などと明確に示されているものですが、現実は自分がいくら持っているか案外知らないものなのです。

普段から財産の額を認識していないとしても、調べようと思い立った時にすぐ分かるならそこまで問題はないかもしれません。

しかし、相続などを経験された方は分かると思うのですが、資産を把握するのは非常に大変です。

資産の多い方はもちろん、資産が少ない方であっても、他の銀行に口座が残っていないか、証券・貴金属やへそくりがどこかに隠されてないかなどなど、本当に他に財産が無いかということをきっちり確認するのは一苦労です。

そう、前回私は所得は把握が難しいと言いましたが、恐らく資産の把握はそれ以上に難しい行為なんです。

所得はまだ「取引」なので、相手にもお金の動きが生じます。ですから、相手方の動きや取引の記録と照合することで、まだ追跡が可能です。

しかし、資産というのは「持っているだけ」ですから、動きがあるとは限りません。タンスの中に10年以上眠っているへそくりだって資産なのです。

本人さえ最後に見たのがいつだったか分からないものを外部から監査する税務署の人たちが見つけるのがどれだけ無理難題か想像に難くありません。

■消費額まで全部申告しないといけない?

資産税が強化されるとなると、当然のことながら資産が隠しやすいという性質を悪用して税金逃れに資産を隠す人が出て来るでしょう。

ある人が資産税がかかる直前に銀行から大金を下ろしてタンスでもどこでも奥底に隠したとします。税務署の人としては、それにも課税が必要だろうと、その大金をどこにやったか尋ねますよね。

しかし、その人は平然と「パーッと豪遊して全部使っちゃいました」と言うわけです。

本当に使ったのであれば、その人の所持金は減っているわけですから、その分資産税も安くしないといけません。

でも、どこかにお金を隠してあるとすれば、それはまさしく税金逃れです。

ですが、先程も書いた通り隠されたお金を見つけるのは至難の業です。

ここで、一つだけ解決策があります。

それは「お金を使った証拠を出させること」です。

「お金を使ったというなら証拠を出せ、さもなくば元々の大金の額で課税する!」とすれば、脱税を阻止することができますから。

でも、これってとても恐ろしいことなんですよね・・・。

「お金を使った証拠を出させる」ということは、日々の消費額や消費内容を税務署に申告する世界になるということなのですから。

何をいつどこで買ったかというのは、大変プライベートな情報です。

今晩の夕食のメニューから、どこに旅行に行ったか、どこのブランドが好きなのかなど、消費情報というのは個人の嗜好そのものと言って良いでしょう。

あまり人に言いたくない買い物だって皆さんもいくらかはあるのではないでしょうか。

しかし、「使ったという証拠をだせ」ということになれば、それを全て記録して税務署に教えて差し上げなくてはなりません。

こんな嫌なことってありませんよね。

所得税の場合に申告する消費――「経費」は、業務に関連した消費内容でしたから、私的なことを暴露するという性格は強くありませんでした。

しかし、資産税の場合には資産の増減を把握するのに全ての消費が関連してきますから、このような問題が起きてしまうというわけです。

正直、私もこのような消費申告が現実的に成り立つとは思いません。

ですが、そうなると結局のところ資産税逃れに資産を隠したもん勝ちになってしまう恐れがあります。

■評価額という幻

そして、厳密に資産に課税しようとすれば、「物」にも課税する必要があります。

なぜかと言えば、先ほどのように課税逃れでお金を下ろした人が、隠すのではなく何か換金性の高いものを購入して「お金は使っちゃいました」と宣言する場合もありえるからです。

こうすれば、お金として使いたい時だけその「物」を換金しながら投資や消費をすることで、資産税から逃れることができます。

ですので、「物」についての課税も必要になってきます。

しかし、「物」への課税というのはこれまた非常に大変です。

既に現実になされている土地や家屋などを対象としている固定資産税では路線価といった評価額で課税をしています。

評価額に課税をしようとすれば適宜適切な評価額を定める必要がありますし、実際に路線価も随時見直されています。

しかし、これも対象となっている資産が限られているからできることです。

「物」全般となると種類が多すぎるのです。

分かりやすいところで貴金属なんかでは、相場があるのはあるので、それを参考に評価額を決めることはできるでしょう。

しかし、かなり変動もするものですので、いつの時点の額を使うかというので大きく評価額が変わってしまいます。一瞬だけ高くなった瞬間の評価額で課税されたら納税者としてはたまったものではありませんよね。

そして、そもそも相場があるのか無いのか分からない物品はどうでしょう。

一見価値が無さそうだけれど、その筋の人にとっては貴重なものでヤフオクに出せばすぐ高値で売れる。そんなものだってあるかもしれません。

それらについても全て税務署が調べて評価額を公正に決めようとすると、その労力は計り知れません。

所得税の場合では、取引が行われたその時のその額が対象でしたから、一意に固定された値で変動することはありませんでした。

しかし、資産税の場合に必要となる物の評価額というのは常に揺れ動く幻のようなものです。

これを見定める必要がある点で、資産税は所得税より大変な重荷を背負っているんです。

■ビットコインの恐怖

また、資産税には天敵が存在します。

それが一時騒動になったビットコインなどの仮想通貨です。

国からは通貨として認められていないのですが、ビットコインで決済するサービスが存在するなど、ほとんど通貨として使える「物」となっています。

現時点ではそれほど流行ってはいないですが、もし資産税を強化しようという流れが強まった場合、これらの仮想通貨への人気が高まることが予想されます。

そのシステム上、取引の内容や所持額を他者に把握されにくく、課税から逃れることが容易になるからです。

通貨として使えるのであれば、税金がかかる「円」で持つより、「ビットコイン」で持とうかなと誰しも思うことでしょう。

「円」に課税したら、「円」を持つ人がいなくなってしまった。

こうなってしまうと、何のために資産税を強化したのか分からなくなってしまいますよね。

既にマイナンバー制度導入で国としても各個人の預金の把握に乗り出したところですが、把握しようとしたらしたで、スルリとウナギのように逃げられてしまう恐れがあるのです。

■みんな嫌がる資産税

そして何より資産税は人々の心理的な抵抗が強いのが問題です。

以前、キプロスという国は預金税を導入しようとしましたが、あっさりと取り付け騒ぎとなってしまいました。

これを見ると、人々の元本保証へのこだわりというのは強いのだなと感じます。

やっぱり、儲かった分から少し減るならまだ我慢できても、持っているお金が勝手に減っていくなんてみんな嫌なんですよ。

そもそも、お金というものが便利で人気があったのは、腐ることも減ることもないその保存性の高さが一因にあります。

しかし、資産税はそんなお金の特長にメスを入れる行為です。

私的財産権の感覚に慣れた私達にとってはそれは耐え難い痛みなのかもしれません。

■富の格差の解消ってとにかく大変

以上、私なりに考えた資産税を強化しようとした時の問題点を挙げてみました。

所得税の累進課税強化の難しさもなかなかでしたが、資産税もかなりのものですよね。

他にも海外への資産逃しなど色んな課題があるでしょうし、富の格差を税金で解消するのは一筋縄ではいかなさそうです。

ほんともう、富の格差を解消しようとしても、抜け道が次から次へと発見されて、とにかく大変です。

こうなってくると、富の格差というのは必然的なもので、私達の社会はこれと付き合っていくしか無い、そんな気にもなってしまいます。

もし他に良い方法があれば、どなたか是非教えてください。。。

P.S

なお、タンスの中にしまってあるへそくりは配当も出ていませんし、格差の元凶となっている「お金がお金を呼ぶシステム」のメリットを享受できていないので、格差の拡大を抑える効果はあるかもしれません。

しかし、お金持ちの子がお金持ちになり、貧しい家庭の子が貧困層となるという、格差の再生産はこれではなかなか止められないですよね。

ほんと難しいです。

(2015年1月31日「雪見、月見、花見。」より転載)

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