今年をさらったお化けドラマ『逃げ恥』 過去の『ミタ』『半沢』との共通点

それにしてもなぜ、このドラマが老若男女を巻き込んで多方面から楽しまれたのか?

数年に一度、生まれてくる「お化けドラマ」。今年も、世の話題をさらってしまう作品が生まれました。『逃げるは恥だが役に立つ』は総合視聴率(リアルタイム視聴率と録画での視聴率の合計)30%超を記録。テレビ離れが叫ばれる昨今にこの数字。まさしく「お化けドラマ」。

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聖地巡礼、ムズキュン、恋ダンス......いくつもの現象を生み出して世の中を『逃げ恥』色に染め上げたパワーに、脱帽です。

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それにしてもなぜ、このドラマが老若男女を巻き込んで多方面から楽しまれたのか? 『逃げ恥』にはおそらく従来の「恋愛ドラマ」の枠には収まりきらない、人と人との関係についての深い問いかけが潜んでいたからでは?

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「愛情の搾取に断固反対します」

「みくりさんが閉じたシャッターは、いつか僕が閉じたものと同じかもしれない。だとしたら僕は開け方を知っている」

「自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いから、さっさと逃げてしまいなさい」

「運命の相手って言うけど、そんなのいないと思うよ。運命の相手にするの」

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数々の名セリフ。一見コメディタッチで軽やかだけれど、本質に届くような鋭く味わい深いセリフがいくつもあった。見えてくるのは、既存の「男と女」「人対人」の関係をどうやって心地よい方向へもっていけるか、再生できるか、というテーマでした。

振り返ると、2016年は「ゲス不倫」が流行語に。人と人との関係について、実に話題が沸騰した年でした。そんな社会の姿とこのドラマのテーマは、どこかで関係し合っていたと言えるのかもしれません。

あらためて、ここ数年の「お化けドラマ」と世の中との関係を振り返ってみると──。

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『家政婦のミタ 』(日本テレビ)が最高視聴率40%を記録したのは2011年。無表情でロボットのように淡々と仕事をこなす家政婦・三田(松嶋菜々子)。どんな無謀な要求にも「業務命令でしょうか」「承知しました」と機械的に実行。

しかしそんな家政婦の型破りな行動によって、バラバラだった家族は「絆」を取り戻していく──不思議な物語でした。このドラマのテーマは、「家族の再生」。その2011年、最大の出来事といえば3.11東日本大震災。この年の漢字として選ばれたのは「絆」。まさしく世の中とドラマとが響き合い、世相を映していたように感じます。

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次に生まれた「お化けドラマ」は、2013年の『半沢直樹』(TBS)。最高視聴率は42.2 %と、ミタを凌駕して世の関心を掴んだ傑作。銀行員の半沢直樹が、組織に潜む敵と対峙し格闘しながら正義をもぎとっていくストーリー。発端は、小さなねじ工場の経営者だった父が、銀行から融資を止められて自殺した出来事にありました。

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利益追求を目的にした集合体=企業という組織の中で、いかに人間らしい生き方を取り戻していけるのか。そんな問いかけが視聴者の胸に響いた。そう、このドラマのテーマは「企業・組織の再生」。

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ではその2013年の出来事を振り返ると──桜宮高バスケ部体罰自殺事件、柔道界暴力指導で選手が告発、大津いじめ自殺事件......組織の中で苦しむ個人の姿が浮き彫りになった年でもありました。

「家族の再生」(ミタ)。

「組織の再生」(半沢直樹)。

今年は「カップルの再生」(逃げ恥)へ。

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ドラマは多くの人々の思いをぎゅっと集めた娯楽。自分が果たせなかった思い、思い通りにならなかった想いも含めて物語の中に見てとり、共感したり考えたりしながら味わう娯楽です。それは、世の中を映し出す鏡の要素も持っているのでしょう。

では来年は? いったいどんなテーマをひっさげたドラマが現れてくるのか。ドラマの中にどんな社会の姿が見えてくるか?

いずれにせよスマホにSNSとコミュニケーションは細分化し個人化し、共通の話題が持ちにくい時代は続く。だからこそ、「共通テーマ」としてのドラマの存在感は高まっていく、そう言えるのかもしれません。

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