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ドラマの可能性を考える--「MOZU~百舌の叫ぶ夜~」が与えた強烈なショックとは

2014年04月26日 22時45分 JST | 更新 2014年04月26日 22時48分 JST

いよいよスタートした春ドラマ。中でもダントツの注目作品は、警察ドラマ「MOZU~百舌の叫ぶ夜~」(TBS・WOWOW共同制作 木曜午後9時)でしょう。西島秀俊、香川照之、長谷川博己、真木よう子......とにかく、緊張感がいい。

 説明がなくても、筋なんかはっきりしなくても、ピリピリした空気と陰影ある画面に、ぐっと吸い寄せられてしまう。かたときも眼が離せない。役者の身体性も際立つ。真木よう子が思い切り殴ったり、西島秀俊が割れた筋肉を見せたり。役者から立ち上る匂いまでが漂ってきそう。

 細かい視線の動きが、次の展開を示唆する。説明的なナレーションやテロップはない。視聴者を集中させる仕組みが整っている。そして吉田鋼太郎、伊藤淳史、品川徹......これでもか、と存在感ある役者たちが、ズラリ脇に揃う。

嬉しい悲鳴。なんという贅沢な時間。さらに、物語に説得力を加えているのがロケ。あちこちに実写の風景、見覚えのある街角が。丁寧に地道に、ロケを重ねていることがリアルを作り出す。香川照之がふと口にした言葉が、その秘密を物語っていました。

「半沢直樹」の撮影中に、すでに「MOZU」の撮影が始まっていた--番宣で出た番組で、ぽろっとそう口にしたのです。

 えっ、半年以上も前から? ドラマ一つに、いかに時間をかけて作っているのかが伝わってくるエピソードです。

 時間が功を奏しているのは、役作りも同じ。西島秀俊の中には、愛していた妻を爆弾事件で失った公安警察官・倉木尚武という人物が、たしかに結晶している。黙ってタバコを吸う背中に、哀しみが滲み出ている。

 じっくりと腰を据えて一つのキャラクターを造形し、自分の中に役を育てあげる時間があったからでしょう。と、久しぶりにドラマ世界にどっぷり引き込まれる醍醐味。

では、「MOZU」以外のドラマはどうなのか? 見回してみると......?

「かつてない復讐ドラマの扉が開く!! 日本のドラマでは見たこともない、痛快で破天荒なダーク・ヒロイン」と派手な宣伝文句が躍る「アリスの棘」(TBS系金曜午後10時)。

 復讐を誓う医師役・上野樹里は眼の強さが印象的。たしかに復讐に燃える人物の眼をしている。大河ドラマの「江」とは別人と思えるくらい、ガラリと雰囲気を変えている。役者としてあっぱれ。才能と可能性を感じます。

 それなのに。「アリスの棘」のストーリーの方はなんとも陳腐。見なくてもわかってしまう展開。安っぽい仕掛けや作り。上野樹里の役者力が空回りしないかと心配です。

あるいは、「リバースエッジ大川端探偵社」(テレビ東京 金曜深夜)の主演オダギリジョーにも、「ロング・グッドバイ」(NHK土曜午後9時)の浅野忠信にも、似たようなとまどいを感じてしまうのです。いずれの役者もいい味を持っていて雰囲気がある。けれど残念ながら、役者の魅力がじわっと画面全体に滲み出てこないのはなぜ? 

もう一度考えてみたい。「MOZU」が、他のドラマと比べてここまで面白く感じられるのはなぜ?

「時」がヒントではないでしょうか? 時間の厚みが、ドラマを発酵させているからではないでしょうか?

西島秀俊は細マッチョ肉体が話題ですが、むしろ、あのげっそりと落ちた頬や無精髭に、「愛する妻を失った男」の緊張が宿っている。役作りにしっかり時間をかけてきたことが伝わってくる。時の厚みが、確実に、画面から匂いたち、視聴者に届いてくる。

 才能がある俳優も、演じる役を自分の中で醸造させるのには時間がかかる。良いブドウも、ただ素材が良いだけでは美味しいワインにならないように。

 お手軽に作ったドラマは深みも味わいもない。発酵するためには時間が必要。

そんな紛れもない現実を見せてしまったのが、「MOZU」ショックであり、一つの教訓ではないでしょうか。

出典「NEWSポストセブン」2014.04.26

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