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仲間由紀恵が魅せる「不機嫌の美しさ」。 ドラマ『美女と男子』は視聴率5~6%の秀作

2015年08月09日 23時23分 JST | 更新 2016年08月09日 18時12分 JST

酷暑枯れ? 夏期のドラマは勢いがいま一つ。

数字がすべてではないけれど、連ドラで視聴率2ケタ台が続いているのは『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ水曜午後10時)のみ。そんな状況下、失速しないどころか回を追うごとに私の中で燦然と輝きを放つドラマがある。『美女と男子』(NHK火曜午後10時)だ。

タイトルからして、軽い。一見コメディタッチの恋愛ものを連想する。NHK「ドラマ10」の枠は番宣もあまりしないから、多くの人はきっかけがなければ一度も見ないだろう。地味なポジション。視聴率も5~6%台をウロウロ。しかしこのドラマ、ただものではない。その「質」は並大抵のものではない。

先の『天皇の料理番』とはまたひと味違った、ドラマ作りの「お手本」と言える秀作。以下の3つの視点から、このドラマの何が魅力なのかを考えてみたい。

●建物のようなしっかりとした構造

主人公は、芸能プロダクションを経営することになった沢渡一子(仲間由紀恵)。新人の向坂遼(町田啓太)を、スターに育て上げていくというストーリー。と聞くと凡庸だが、その物語を幹にして、さまざまな形の枝が伸び、葉が繁る。

一発屋歌手、声優、アイドル、手タレなど多様な所属タレント。放送局のプロデューサー、映画監督、大女優、IT企業の社長、一子の家族などが絡んでくる。全体が建物のように精密に構築されていて、それぞれの部屋の中で物語が進行しつつ、必ず沢渡一子という大黒柱のある大広間へと物語は戻ってくる。

散乱していく各エピソードは、きちんと回収されていく。それが視聴者にとって、爽快だ。気持ちいいのだ。ドラマを見る楽しさとは、散乱ぶりと回収ぶり、その両方の「技」を見るところに潜んでいる。

凝った構造がもう一つ。「芸能人が、芸能界を演じる」という入れ子構造だ。仲間由紀恵の役は、マネージメント、つまり芸能界の裏方の仕事。新人にアドバイスを与え、励ましたり、局の対応に怒ったりする仲間自身が、現実ではスポットライトを浴びる側の女優。こうした「入れ子構造」が、視聴者の想像力をくすぐる。

「仲間さんもあんな風にセリフの稽古をするのかな」「演出家と役者の関係とは」「撮影現場ってこうなっているのか」......と、芸能界の表と裏を覗き込むような楽しさがある。物語の外側に、もう一つの大きな物語の部屋がある、そんな凝った構造が光る。

●各回に設定されたテーマが深淵

中心軸は、「新人役者が成長していくストーリー」だが、それぞれの回に仕込まれた小テーマの設定が、またいい。例えば前回第17回は「絶望とは何か」。

絶望する人物を演じなければならなくなった新人役者・向坂遼。上手く演じることができない葛藤。遼にアドバイスをする一子自身も、自分の「絶望のありか」に気付く。そうやって登場人物の一人一人が、それぞれの「絶望と向き合う」展開に。

奇妙な味わいを見せるのが、高橋ジョージ演じる、たどころ晋也。「妻と子どもに逃げられた一発屋の歌手」という妙にリアルな設定で、自身の絶望に向き合う姿は健気そのもの。と、パロディの中に「絶望」が見え隠れする高度なエンタテインメント。軽やかさと深さの往き来が、ドラマに味わいを加えている。

●ドラマの社会的役割を存分に果たす

登場人物に感情を重ねあわせ、「もし私だったらどうするだろう」と他人の生き様や葛藤を見ながら想像する。「そうそう、そういう迷いってあるよね」と共感する。

「この一言を言ってもらえたらどんなに嬉しいだろう」と願望を抱く。他人の物語の中に、自分の断片を見つけて、自分の生き方を探る。視聴者にとってドラマを見る大きな楽しみはそのあたり。感情移入、共感といったドラマの基本的な役割を、この『美女と男子』は果たしている。

その象徴的存在が、主人公・沢渡一子だ。

簡単には笑わない。媚びない。歯を食いしばる。粘る。諦めない。見えない壁と格闘する。不機嫌な主人公だが、しかし見ていてちっとも不快でなく、清々しい。「頑張れ」と応援したくなる。ドラマを見て「明日も頑張ろう」と勇気が湧いてくる。

一言で表せば、「不機嫌の美しさ」。

仲間由紀恵の格闘する演技が、働く女性たちにとって共感できる人物像を作り出している。

緻密な計算の上に練られた脚本、台詞だけに頼ることなく感情を伝える細やかな演出、そして仲間由紀恵をはじめとする役者たちの演技力。このドラマの秀逸さは、本・演出・役者の三位一体がなせる技だ。

実は日本のドラマでは珍しい全20回の長丁場。全体を3部に分け、第1部「試練編(1 - 8話)」、第2部「ステップアップ編(9 - 14話)」、第3部「サクセス編(15 - 20話)」で構成されている。海外ドラマに見られるような長編の物語作りの工夫が随所に生きている。

4か月前、ドラマがスタートした時、コラムの中で私は「笑わない仲間由紀恵の芝居に傑作の予感」と書いた。残りはあと3回、実に的確な予感だったなと自画自賛したくなような、優れた幕切れを期待したい。

出典「NEWSポストセブン」2015.08.08