ドラマ『お母さん、娘をやめていいですか?』 娘を精神的に支配しようとする母に迫る問題作

結婚、出産、育児と続いていく人生の中でこの複雑な問題をどう決着させればいいのか、考えさせられてしまいます。

怖すぎる。怖いからこそ、目が離せない。「母の呪縛から逃れようとする娘。暴走していく母」。2人の姿を描き出す『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK金曜22時)。今期の冬ドラマの中で、「一番の問題作」「社会派」と言ってもよいのではないでしょうか?

ただし、女性視聴者にとっては。

男性の視聴者に感想を聞くと「ちんぷんかんぷん」「何が面白いのかポイントがわからない」と、とまどいの声も。それに対して、女性視聴者からは圧倒的な反響、数々の「驚き」「共感」コメントが。

「知人にドラマと同じような母娘がいます。ドラマの中だけの話とはとても思えない」

「母親に精神的に囲い込まれ、なかなか本当の気持ちを出せない娘の気持ちが、痛いほどよく分かる」

「仲良し母娘が周りに多いんだけど、ドラマのようなリスクを感じて見入ってしまう」

とても絵空事ではない、とリアルに感じている女性視聴者が多い。社会を映す鏡のように鑑賞している。その意味で、「社会派ドラマ」と呼びたいのです。

主要な登場人物は3人。高校教師の早瀬美月(波瑠)と、母の顕子(斉藤由貴)。そして早瀬家の新築現場で働く、工務店現場監督の松島太一(柳楽優弥)。

美月と顕子は仲の良い親子。娘は母の気持ちを推し測りながら、母の望むような人生を歩んできた。「私はママの夢を継いで教師になった」「いつだってママが応援してくれる」「困ったことがあればすぐ相談に乗ってくれる」。お互い精神的に頼っている。もっと言えば「癒着」している。

しかし、美月はママに言えないことがある──必要以上に自分に介入してくる母へのストレスから、十円ハゲができていること。

美月が松島とデートした時。母は遠くから見張るように観察し、2人の後をつけ始める。その暴走的なエネルギーが怖い。そしてとうとう、娘に「ママと松島さんとどっちが大事なの?」と迫って......。

ただのフィクション、家庭ドラマに過ぎないと笑って見過ごせない。いわば、愛情に見せかけた精神的暴力。人格破壊。洗脳。「娘を愛しているのだから」と愛情のせいにする母。無自覚な分だけ、怖い。美月の十円ハゲが示しているのは、深く複雑な親子関係の葛藤です。

周囲にもいます。娘のことを別人格と言いつつ、大学進学、就職、結婚、子育てと、こと細かに関わってしまう母が。娘を自分の思うようにしたい。どこか自分の属性としてとらえ無自覚に娘を支配していく母。娘が自分の考えと違うことを口にすると攻撃的になる母が。

ドラマを見た知人の母親は言いました。

「もしかしたら私も、同じような母親になったかもしれない。でも、私は娘の後をつけたりストーカー的な行動なんてしない」

ドラマゆえの極端で刺激的な演出に、むしろ救われていたようです。「私はあそこまでひどくはない」と。しかし、「母と娘の過剰な関係」の構図は似通っている。現実の中では一人ひとり、形は少しずつ違うけれど、支配の構図は同じ。

娘も幼い時から母に従わないといけないことを暗にすり込まれているから、時々怒りを抱えながらも母と離れることができない。「いや」と言えない。はねのける勇気がない。そもそもそうする力が備わっていない。スポイルされている。

おそらく、男性の方々がこのドラマに「ピンとこない」という理由は、母と娘の間にある「動物的」とも言える心の探りあいを実感できないからかも。女のセンサーの強烈さを、体感したことがないからかもしれません。

女の動物的な勘は、夫の浮気をすぐ見抜いてしまうことでも知られていますが、癒着した母と娘の間でもセンサーは常に働いています。ふとした娘の言葉、目つき、手振り、しぐさ、持ち物など細かな変化から心を読む母。常に目を光らせ、自分と同じことを考えるようしむけていく。娘の方も、その母の心の動きを先読みして、「よい子」になって従おうとする。

かつて「毒母」「母源病」という言葉も生まれましたが、母-娘関係の苦しさ、過酷さに悩む人々にとって、このドラマはカウンセリング的な作用を持ち、問題解決の糸口の一助になりうるのかもしれません。

「怖い」のに「見てしまう」のは見たくない現実を直視し、何らかの脱出の手がかりを探そうとしているからかもしれません。

「私だけではないんだ」。他に悩む人がいることを知ると、人は強くなる。問題に気付き、そこから外へと脱出していく道筋と勇気をドラマは視聴者と一緒に描き出そうとしているのかもしれません。

だからこそ、このドラマがどこに決着を見出すのか、非常に興味があります。娘が家を出て母と距離をとるだけでは、問題は解決しないから。結婚、出産、育児と続いていく人生の中でこの複雑な問題をどう決着させればいいのか、考えさせられてしまいます。

このドラマで特筆すべきは役者陣の力。斉藤由貴と波瑠の「母・娘」の苦しさが非常にリアル。そしてその間に入っていく、希望の存在として柳楽優弥の演技が実に清々しく、爽やかな味を出していて救われます。

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