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日本のもてなしを形に −「ホテル椿山荘東京」の挑戦−

2013年09月12日 23時08分 JST | 更新 2013年11月12日 19時12分 JST

世界中のセレブが熱狂するというホテル「アマンリゾーツ」。シンガポールに拠点を置き世界各地で高級リゾートホテルを展開するアマンが、いよいよ来年2014年、東京・大手町に日本第一号のホテルを開業する、というニュースを耳にしました。

そのアマンリゾーツの秘密に迫るノンフィクション作品『アマン伝説』(山口由美著 文藝春秋)を読んだ時、私は驚かずにはいられませんでした。

なぜなら、世界中のセレブが熱狂するリゾートの原点には日本がある、と書いてあったからです。

アマンの創業者であるエイドリアン・ゼッカ氏は1950年代、日本に滞在しました。その時に体験した「ライフスタイル」が、後のアマンのコンセプトに決定的な影響を与えたようです。特に海と溶け合うようにたたずむ木造建築「ミサキハウス」。そして、京都の名旅館のもてなし......。

 

日本経済新聞紙上に執筆した『アマン伝説』の書評を、私はこう締めくくりました。

「...本書は『旅館』というキーワードを提示して終わる。日本人が育んできた『旅館』文化の中に、アマンの未来が潜んでいるからだろうか。とすれば、世界最高峰のもてなしを、身近な旅の中で享受している私たちは格別に幸せな民族と言えるのかもしれない」(日本経済新聞2013年5月19日)

そのように、「日本のもてなし」は今、世界中から注目を集めています。

ご承知のように、オリンピック招致のスピーチで「おもてなし」は大注目のキーワードとなりました。

ではなぜ、日本の「もてなし」が海外の人たちに格別な魅力的作法として映るのでしょうか?

グローバルなサービスと、和の「もてなし」とはどのように違うのでしょう。あるいはどこが共通するのでしょう。

いったいどこに、日本の「もてなし」の固有性があるのでしょうか?

そうした問いについて考える、格好の場所が都心にあります。

ホテル椿山荘東京(文京区関口2丁目)。

古くは「つばきやま」と呼ばれた目白の景勝地に、明治の元勲・山縣有朋が庭園「椿山荘」を築いて130年余り。戦後は藤田観光が庭園を活かした婚礼・レストラン事業に着手し、約60年の歴史が経過しました。

さながら森のような敷地に、日本庭園と湧水を誇る都会のオアシス。

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広大な敷地の中に約100種類1000本の椿が花を咲かせる、都会のオアシス「ホテル椿山荘東京」(写真・五感生活研究所)

今から20年程前、世界的ホテルチェーン、フォーシーズンズホテルズ&リゾーツと提携し「フォーシーズンズホテル椿山荘 東京」が誕生した時は、熱い注目を集めました。外資系高級ホテルが東京に進出する、先駆けとなったからです。

そして時は流れ、両社は提携を解消しました。

今年2013年1月1日。いよいよ、グローバルなサービスと日本のもてなしを融合させた唯一無二のホテルを目指し、「ホテル椿山荘東京」が新たな一歩を踏み出したのです。

「日本の和や粋を存分に引き出したい」(日経産業新聞)と森本昌憲・藤田観光会長(現顧問)は述べました。

「世界をもてなす、日本がある」。

 ホテル椿山荘東京のコンセプトです。

「フォーシーズンズ時代に学びとったグローバルなホテルサービスをわきまえながら、さらにその上に『日本のもてなし』という独自の表現をしていく段階に入りました」と浦嶋幸一総支配人は言います。

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浦嶋幸一総支配人 「もてなしというのは、挨拶とは少し違うのではないかなと思います」(写真・ホテル椿山荘東京)

「お客さまがいらした時に、『こんにちは』『こんばんは』と気軽に語りかけるのが外資系ホテルのサービスだとすれば、『いらっしゃいませ』とお迎えし、天気や季節の話に触れるのが私ども日本のスタイルです。日本のもてなしの感性をサービスに込めたいと思っています」

その言葉を聞いて、私は考えさせられました。

「いらっしゃいませ」は、実に不思議な言葉。

その一言の中には、「遠方からさぞや道のりは大変だったでしょう」、「よくぞこの門を叩いてくださいました」、「さあさあ、お上がりください」という、相手への「ねぎらい」や「歓待」の想いが、無言のうちに込められている。

日本のもてなし文化の特徴の一つは、相手への配慮、共感、想いを馳せる、ということかもしれません。

それを言葉だけでなく、言語化しないコミュニケーションの中にも込めるということ。

「フォーシーズンズ時代からのお客さまには、『いらっしゃいませ』というお迎えに対して多少驚かれる方もいますが、『旅館の若女将みたいで初々しいね』というお褒めの言葉もいただきました」と浦嶋総支配人。

もう一つ、日本文化の特徴といえば「四季」にある。

季節の移り変わりを、五感を使って細やかに感じとり、楽しみ、愛でる心。

ホテル椿山荘東京には、大きなアドバンテージがあります。

森を思わせる広大な植生、樹齢500年のご神木。豊かな緑と台地の起伏が生み出す湧水、池と滝とせせらぎ。秩父山系から沸き出す水が渓流や池を作り出し、たえず水の音が響く。

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秩父山系からの湧水「古香井」。一説では東京23区で自噴する井戸は、椿山荘と明治神宮、吹上御所の3か所のみと言われる(写真・五感生活研究所)

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5月~7月頃には沢に蛍が幻想的に舞う(写真・ホテル椿山荘東京)

初夏には沢に蛍が舞う。その幻想的な風景は他には真似できない固有性であり魅力です。

でも、ただ「雄大な庭園を有している」というだけでは、蛍が飛び交う風景を味わうことは不可能。その背後に、環境を維持し創出する地道な努力が横たわっていました。

「蛍の専門家の指導のもとに、沢の環境改善に取り組み、敷地内に地下150メートルから流出するミネラル分豊富な湧水を利用した本格的な飼育施設(プラント)を設置しています。餌となるカワニナが生息できるよう配慮し、蛍を暑さや乾燥から保護するためのミスト装置も沢に設置しています」と、浦嶋総支配人が秘密を明かしてくれました。

椿山荘で見られる蛍は東京・文京区育ち。産卵から飛翔まで自生・生息できる環境作りをコツコツと地道に重ねてきたその結果が、蛍が飛びかう幻想的な風景となって、私たちの前に現れているのです。

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毎年2月頃には地元の小学生を招き幼虫の放流式が行われる(写真・ホテル椿山荘東京)

そして秋。これからの季節、たとえば「観月」という楽しみが待っています。

今年の「中秋の名月」は9月19日。湧水が作り出す幽翠池に、金色の月が映る。虫の音を楽しみながら、秋の風情を五感で味わう。

これ以上の贅沢な「おもてなし」があるでしょうか。

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「椿山荘七勝」は、山縣有朋が五感で感じる風景の美しさを讃えて選定した七つの風景。秋は「関口秋月」。晴れた夜空に煌々と輝く月を愛でるという楽しみだ(写真・ホテル椿山荘東京)

周囲の自然環境を受け入れ、溶け合うことによって空間は完成する、という考え方が、日本にはあります。

「庭屋一如(ていおくいちにょ)」は、庭と建物が一つのごとく一体になるという思想です。

庭園の風景を味わうことができる、ガラス張りのバスルーム。空中庭園・セレニティガーデン。

フォーシーズンズ時代にはグローバルホテルの施設基準が存在し、なかなか実現できなかった「借景」のくつろぎ空間。それが今、ホテル椿山荘東京の中に、次々に誕生しています。

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新たに誕生したビューバススイートのバスルーム。庭の風景を堪能しながらバスタイムを(写真・ホテル椿山荘東京)

樹木、花、匂い、風、光、人、空、動物......環境の中にあるさまざまなものと出会うことのできる空間作り。

日本のもてなしとは、人と人のみならず、人と環境との対話、変化していく四季とのやりとりをも含みこんでいるのでしょう。

しかし日本人は得てして、日本文化の良さがどこにあるのかを自覚できていません。

「日本は驚くべきところです。その独自性と美しさに圧倒されそうなほどです」と、ハフィントンポスト創業者のアリアナ・ハフィントンさんも来日時の記者会見で語っていました。

そして、京都の寺で座禅を組んだことや日本庭園の美しさを、滔々と興奮気味に述べていました。

日本文化の精神的静寂と成熟、その中にこそ近代社会のひずみを救うヒントがある、と熱く語っていたことが思い出されます。

その時は「日本文化がここまで期待されているのか」と、やや唐突感と驚きをもって聞いていた私ですが、でも、たしかにそうなのかもしれません。

今、私たちに求められていることは、日本の「もてなし」の思想を確かめること、深く噛みしめること、そして、それを表現し行動することなのかもしれません。