緩和ケアを誤解していませんか?

「緩和ケア」とは、そもそも何でしょうか?

先日、川越で開催された「第23回 地域の緩和ケアを考える会」で、ホスピスや緩和ケアにおける音楽療法についてお話させていただきました。

埼玉県で緩和ケアに取り組む医師、看護師、薬剤師、臨床心理士など、さまざまな職種の方にお会いしました。皆さんが感じている問題点や、苦労していることなどを知り、緩和ケアは本当に難しいと改めて感じました。

もしかすると、一番難しいのが、「緩和ケア」というものを多くの人に理解してもらうことかもしれません。

「緩和ケア」とは、そもそも何でしょうか?WHO(世界保健聞機関)はこのように定義しています。

緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、 心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、 苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)を改善するアプローチである (日本ホスピス緩和ケア協会より)

日本の場合、緩和ケアの対象になるのは、主にがんの患者さんです。治療を受けている病院で、「緩和ケアチーム」から受けることもできますし、緩和ケア病棟でも、自宅でも受けることができます。

もしかすると皆さんは、緩和ケアは余命の短い人に提供されるケアだと思っていませんか?

実は、緩和ケアはホスピスケアとは違って、余命に関係なく提供されます。実際、がんの早期から緩和ケアを受けることができます。

しかし、それを知っている人は少ないです。日本緩和医療学会が平成22年度に行った調査によると、がんの早期から緩和ケアが受けられることを認識している人は約38%でした。

「緩和ケア」=「死」というイメージが強いのでしょう。

国内では、緩和ケア(Palliative Care)、ホスピス(Hospice)、エンド・オブ・ライフ・ケア (End-of-Life Care)などの言葉が正しく理解されていなかったり、混乱を招いたりしています。

このような言葉は欧米から入ってきたもので、その国ではしっかり定義されています。でも、日本に入ってくると、言葉の意味がなぜかあやふやになってしまう・・・。

奇妙なことに、音楽療法に関しても同じことが言えます。定義がはっきりしていないため、誤解されてしまい、正しい知識が広まらないのです。

あいまいなのは日本文化の特徴で、悪いことだけではありません。ただ、言葉の定義がはっきりしていないと、混乱を招くことになり、新しい考えがなかなか普及していかないのも事実です。

その点が、日本における緩和ケアやホスピスケアの難しい点のひとつだと思います。次回は、緩和ケアにまつわる言葉の意味について、もう少し詳しくお伝えします。

【佐藤由美子】

米国認定音楽療法士。ホスピス緩和ケアを専門としている。米国ラッドフォード大学大学院音楽科を卒業後、オハイオ州のホスピスで10年間勤務し、2013年に帰国。著書に「ラストソング 人生の最後に聞く聴く音楽」(ポプラ社)がある。

(2016年3月15日「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)

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