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ペットと暮らせる老人ホームでの音楽療法

2015年05月06日 22時22分 JST | 更新 2016年05月05日 18時12分 JST

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さくらの里山科の利用者さんと犬

先日、音楽療法をするため、「さくらの里山科」という老人ホームに行ってきました。横須賀の自然の中にたたずむこのホームは、外からは一見普通に見えます。でも、中に入ると驚くような光景を目にしました。

小さなリュックを背負った柴犬のような犬が2匹、廊下を歩いていたのです。一体何をしているのか職員の方に聞いてみると、

「朝刊を取りに行っているんです。そして、朝刊を利用者さんに配るんです」 と、女性は微笑んで言いました。

エレベーターで上の階に行くと、犬猫と住めるフロアーがあり、「犬棟」と「猫棟」に分かれていました。また、動物と住みたくない人のために、動物のいないフロアーもありました。

さくらの里山科は、行き場のない犬猫を保護したり、利用者の方がペットと一緒に入居できる体制を整えている、ユニークな老人ホームなのです。現在、犬が6匹、猫が8匹住んでいます。

私の新しい患者さんは、猫棟に住む80代の方でした。小柄なKさんは、認知症を患っています。部屋に入ってすぐに、彼が大の猫好きだということがわかりました。猫柄の毛布、猫のクッション、Kさんと猫の写真。

私が童謡を唄うと、Kさんは泣きだし、「歌を聴くと子どもの頃を思い出す」と言いました。そして、この涙は嬉しい涙だと言い、私と一緒に唄いだしました。認知症で短期記憶に障害があっても、昔の曲の歌詞は思い出せたのです。セッション中、Kさんが音楽好きであることや、写真の猫はもう亡くなったことを知りました。

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アメリカのホスピスで働いていたとき、数多くの老人ホームを訪問しました(アメリカのホスピスケアの大半は、自宅か老人ホームで提供されます→「アメリカのホスピスについて知らなかった10のこと」)。また、2年前に帰国して以来、国内の老人ホームも訪問しました。

アメリカでも日本でも、老人ホームに犬や猫が1,2匹いるのは珍しくありません。でも、さくらの里山科のように、たくさんの動物がいて、しかもペットと一緒に住めるホームは初めて見ました。

末期の患者さんや高齢者の方が病院や老人ホームなどに移動する際、ペットをどうするのか、ということは大きな問題です。また、自分が死んだ後ペットがどうなるのか、ということも考えなければなりません。ペットは家族の一員ですから、気がかりなのは当たり前でしょう。

さくらの里山科では、入居者の方が先に亡くなった場合でも、ペットは住み続けることができます。ですから、入居者の方々は安心して最期を迎えることができるのです。

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セッションの後、Kさんとリビングルームに行くと、オレンジ色の猫がKさんのひざにジャンプしてきました。彼は微笑み、猫が目を閉じるまでやさしく撫でていました。

猫も音楽も、Kさんにとって普通の生活の一部なのだと感じました。

施設での生活の場合、今まで当たり前にしていたことができなくなります。Quality of Life(生活の質)を向上させるためには、「普通のこと」ができる環境を整えることが大切です。

帰り際、Kさんと猫たちにさよならを言いながら思いました。

「ここは、自分が年を取った時に入りたいホームだ」と。

(「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)

著書: 『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社)
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