ブログ

ハフポストの言論空間を作るブロガーより、新しい視点とリアルタイムの分析をお届けします

村上裕 Headshot

「一橋大学アウティング事件」の次に、LGBTのニュースで起こること

投稿日: 更新:
印刷

こんにちは。

ゲイの心理カウンセラー村上裕です。

私についての自己紹介などは、以前の記事やWEBサイト等をご参照頂ければ幸いです。

2007年にLGBT当事者やLGBTの周辺家族・友人等に向けてのカウンセリングルームを創業して以降、個人や企業・行政・教育現場等、様々なシーンで心理支援を行わせて頂いて参りました。

●トランプ氏の大統領当選によってこれから世界中で起こることを、差別と心理学から考える
http://www.huffingtonpost.jp/yutaka-murakami/lgbt-counselor_b_12925646.html

●「オーランド事件」がどうして起こったか、をLGBTの心理から考える
(日本語)http://www.huffingtonpost.jp/yutaka-murakami/incident-in-orlando_b_10809296.html
(英語)http://www.huffingtonpost.jp/yutaka-murakami/psychological-analysis-orlando_b_10811174.html

2015年以降、社会には急速にLGBTの情報が流通するようになりました。

企業では積極的にLGBT研修が開催され、教育現場でもLGBTの生徒達を主点としたLGBT研修や勉強会が実施されています。

しかし、その一方では、2015年から2016年にかけて起こった、一橋大学アウティング事件のような出来事も起こっています。

●同性愛を暴露されて転落死した一橋大院生の追悼集会「本当のことが知りたい」それぞれの思い
http://www.huffingtonpost.jp/2016/08/20/hitotsubashi-rally_n_11629152.html

上記の記事の最後に書かれている「この件はご遺族が裁判に訴えたことで分かったけど、学内で単なる事故として処理された『単なる自死』があったかもしれない。」という言葉のとおり、社会ではこれまでもカミングアウトとアウティングによるトラブルは、もうずっと前から起こり続けていました。

そう断言できるのは、私達が2007年からの10年間、LGBT当事者や周辺家族・友人達のご相談をお聴きしてきたからです。

少なくとも2007年には、カミングアウトによって会社の中でアウティングをされたり、学校の中で虐めを受ける学生たちが、すでに存在していました。

会社内での役職を変えられる、異動になる、周囲の人々からの態度が急変する、噂話によって孤立させられる、ということが顕著な例でしょう。

これと同様のことは、学校の中で、家庭の中で、起こり続けてきました。

拙書「孤独な世界の歩き方 ゲイの心理カウンセラーの僕があなたに伝えたい7つのこと」でも自身の体験として触れさせて頂いたように、自らがLGBT当事者であると明言しなくても、「ソレっぽい」という理由で虐めや加害を受けたり、当事者であるなしに関わらず噂が伝聞するうちに「そうだ」と決めつけられて被害を受ける人々も、少なくありません。

アウティングは、2015年に初めて起こったのではなく、もうずっと前から起こっていた出来事だったのです。

2017-06-03-1496512758-9982899-201705280.39.18.png

「一橋大学アウティング事件の犯人」は誰だったのか?


一橋大学アウティング事件については、この記事を書いている今時点でも、様々な議論や意見が交わされています。

そのなかでは「犯人探し」に注力している議論や記事も見かけます。

なかには、アウティングをしたBさんが悪者だったのだ、という視点や、ゲイであるAさんにジェンダークリニックを紹介したスクールカウンセラーが悪者だったのだ、整備の行き届いていない大学が悪者だったのだ、Bさんやスクールカウンセラーや大学みんながAさんを自殺に追い込んだ犯人達なのだ、という意見を見かけます。

果たして、誰が犯人だったのでしょうか。

様々な意見の中のひとつの意見、というスタンスで述べさせて頂ければ、一橋大学アウティング事件に、犯人はいません。

誰も悪くなかったのだと思います。

ただ、亡くなったAさん、告白を受けたBさん、Aさんに相談を受けたスクールカウンセラー、その3者を包括する大学、Aさんの家族、その全ての人達がそれぞれ少しずつ、「大切なことを知らなかった」だけなのです。

Aさんは、カミングアウトをするということのリスクを知らなかった。

Aさんのご家族は、AさんがLGBT当事者であると知らなかった。

Bさんは、アウティングという行為を知らなかった。

スクールカウンセラーは、同性愛と性同一性障害の違いを知らなかった。

大学は、カミングアウトとアウティングの課題にどう備えておけば良いかを知らなかった。

Aさん、Bさん、Aさんのご家族、スクールカウンセラー、大学、全てのひとが、この件をどこに相談できるか知らなかった。

記事を書いている今でこそ、アウティングという概念や、アウティングがカミングアウトを行った本人にどんな影響を与えるかは多くの人が知るところとなりましたが、当時、アウティングという概念やその影響を知っている個人はとても少なかったし、誰一人知らないという企業・組織もたくさんありました。

一橋大学アウティング事件、というのは、結果として付けられた名称で、この事件が起こった当時は、アウティングということを知らない人の方が、ずっとずっと多かったのです。

ただただ、みんなが少しずつ大切なことを知らなくて、AさんとBさんが追い詰められていったのだと思います。

その結果、Aさんが亡くなってしまったことは本当に悲しいことで、これまでに自殺していった何人もの友人達や、生きることと死ぬことの狭間に居た頃の自分の姿を重ねます。

それと、カミングアウトをしたくてもできず、愛する人に拒絶されるかもしれない恐怖や自己否定感から、時に凶行に及んでしまうであろう人、及んでしまった人達のことも。

一橋大学アウティング事件の犯人を、どうしても明確にしたいのなら、それは「知らない」という事象です。

私達は、LGBTが何であるかということや、カミングアウトをするということについて、LGBT当事者でさえ、とてもたくさんのことを知らないのです。

そして、LGBT当事者を取り巻く様々な人々は、当事者以上に、たくさんのことを知ることのできない環境にあるのです。

それは、「誰か」が悪いのではないと思います。

これから明確化されていく課題


今、カウンセリングルームP・M・Rには、あるご相談が急増しています。

それは、子供からカミングアウトを受けた家族からのご相談です。

40代〜50代の母親が多く、その子供の多くは高校生や大学生、20代の若者です。

また、婚姻相手がLGBT当事者であるとカミングアウトを受けた方々からのご相談も、徐々に増えてきています。

カミングアウトを受けた家族は、下記のような事で悩んでいると、ご相談くださいます。

  • 自分の育て方が原因で子供がLGBTに「なって」しまったのではないか。

  • (母親の場合)お腹の中に子供が居る時の自分に、何か原因があったのではないか。

  • インターネットで調べ、理性では異常なことではないと分かるけれど、受け容れ方が分からない。

  • 自分の関わり方で傷つけてしまうのではないか。

  • 自分一人ではどうして良いか分からず、他の家族に相談したいが、どう伝えれば良いのか。

  • 子供の将来が心配。学校や就職する会社でつらい目に合うのではないか。

  • (異性配偶者の場合)自分との夫婦生活が偽りだったのか、自分は愛されていないのか。

これが全てではありませんが、ご相談くださるご家族の多くに共通しやすい悩み事です。

個々の家庭や家族関係によって細かなことは違ってきますが、悩み事の焦点は、「受け容れ方」と「かかわり方」ということ。

カミングアウトをされた当事者にとっては「アウティングリスク」が明確になってゆきます。

カミングアウトを受けた人は、ただただ悩んでいるだけです。

カミングアウトをする前のLGBT当事者が孤独で孤立していたように、カミングアウトを受けた家族もまた、孤独で孤立しているのです。

違った見方をしてみれば、LGBT当事者が持っていた孤独と孤立のバトンが、今度は、カミングアウトを受けた家族や友人に手渡されてしまう、ということなのかもしれません。

次にニュースになる、悲しい出来事があるとすれば


それまでも社会に存在していた課題であるにも関わらず、悲報や訃報によってニュースとなり、社会にその課題が浸透してゆく、というのは、とても悲しく残念なことではありますが、確かな事実です。

「アウティング」という概念や出来事が、そうであったように。

次に流れる、LGBTの悲しいニュースがもしあるとすれば、それは、

「カミングアウトをしたLGBT当事者が、企業の中で不当な扱いをされて自殺。」

というタイトルであったり、

「カミングアウトを受けた家族が、悩んだ末に自殺。」

というタイトルかもしれません。

全ての方々がそうではありませんが、それくらいに追い詰められている家族や異性配偶者は既に存在しているし、組織や企業・学校には、既にそんなリスクがあるのです。

2017-06-03-1496514083-486713-IMG_4233678.jpg
graphicstock

では、LGBT当事者は、カミングアウトをしないほうが良いということでしょうか?

そうではないはずです。

クローゼットの内側で、孤独と孤立に苦しむ人は、幸せではないかもしれない。

LGBT当事者であることは誰も悪くないのに、差別や偏見に怯えながら苦しみ続ける人生を送ることは、理不尽なことです。

自分らしさを感じられないまま、一生をクローゼットに隠れて生きることは、とてもつらく、悲しいことです。

カミングアウトによって誰も不幸にならないために大切なことは、

  • カミングアウトをする人は、ご自身にとってのメリットとリスクを充分に考え、備えてから、行動をすること。

  • カミングアウトを受けた人や組織は、どうすればアウティングにならないのかを知り、適切な相談相手を見つけること。

の2つです。

そのために必要なのは、

「カミングアウトを『する側』と『受ける側』それぞれの心のこと」

「『する側』と『受ける側』を孤立させない支援の仕組み」

の2つです。

これらを全国の家族に伝えるために講演会を開催するため、カウンセリングルームP・M・RではReadyForでのクラウドファンディングへのチャレンジも開始しています。

(※「LGBTカミングアウトに大切な心の知識を全国の家族に伝えたい」https://readyfor.jp/projects/lgbt-comingout-pmrsupport

2017-06-03-1496512973-6697841-201706043.01.19.png

LGBTを理解しようとする人を、近年ではAlly(アライ)と呼びます。

しかし、この言葉は元来LGBTだけに由来する言葉ではなくて、元々は、協力者、味方、支援者という意味です。

動詞型であるAlliance(アライアンス)という言葉は、ビジネスシーンでは以前からごく自然に使われてきました。

LGBT当事者がカミングアウトをする時、それは、自分を偽らないためだったり、嘘をつかずに生きられるようになるため、という理由があると思います。

けれどそれだけではなくて、理解者や支援者を求めているからカミングアウトをする、という側面もあるのではないでしょうか。

LGBT当事者が自らのAllyを求めてカミングアウトをするのなら、今度は、私達、LGBT当事者が、カミングアウトを受けた家族や友人や、受け止めようとする組織のAllyにならなければいけないのではないでしょうか。

「理解」というのは一方通行ではなくて、双方向です。

カミングアウトは「する側」と「受ける側」の、両方の課題です。

「受ける側」に必要な努力や準備があるように、「する側」にも必要な努力と準備があるのではないでしょうか。

相手に理解を求めるのなら、相手を理解しようとすることも、必要ではないでしょうか。

次の悲しいニュースが流れる前に、私達には、必ずできることがあるはずです。

もう誰も、死なないために。