ロボットによる「おもてなし」サービスのあり方とは?

独自調査をもとに、ロボットによる「おもてなし」サービスの今後の展望について解説する。

ロボットがサービスを提供する観光施設や商業施設への人々の認識、潜在的な利用ニーズの把握などを目的に実施した弊社の独自調査をもとに、ロボットによる「おもてなし」サービスの今後の展望について解説する。

1. 2020年:東京がロボットのショーケースになるとき

我が国では2020年に東京でオリンピック・パラリンピック大会が開催されるが、大会期間中は、世界各国のメディア関係者や国内外から数多くの観戦者が訪れることから、街全体が世界中の注目を集めるショーケースになると言われている。また、近年のオリンピック・パラリンピックでは、大会を一過的なイベントに終わらすのではなく、大会を契機に社会・経済・環境など様々な分野にハード・ソフトの好影響を残すこと(レガシー(遺産)の創出)が重視されている。

こうしたなかで、オリンピック・パラリンピックは国際的なスポーツ大会であるものの、大会を契機に、我が国の優れた科学技術の発信や経済産業の持続的な成長につなげていくため、政府は様々な検討を進めている。

例えば、内閣府が2014年7月に設置した「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた科学技術イノベーションの取組に関するタスクフォース」では、多言語翻訳システムを搭載したロボットなどが各所で活躍する「スマートホスピタリティ」に関するプロジェクトなど、「科学技術イノベーションで世界を大きく前進させる9つのプロジェクト」を掲げ、各種サービスの実現に向けた推進、世界に発信するための方策などを検討している。

また、経済産業省でも産業構造審議会の下に「2020未来開拓部会」を設置し、2020年大会後も持続的に成長していく我が国の未来の姿について検討を行っている。

なお同部会では、福島復興を最優先としつつ9つのプロジェクトの実行を掲げており、特に、「ストレスフリー」に関するプロジェクトでは、おもてなしの観点からコミュニケーションロボットの利活用に加え、清掃ロボット、警備ロボット、搬送ロボットなどの「多様なロボットがサービスを提供する姿」や「ルールに基づきロボットが社会実装されている姿」を世界に発信することとしている。

2. 2016年:ロボットによるおもてなしサービスに対する人々の認識

このように、我が国では2020年東京オリンピック・パラリンピック大会を見据え、大会を契機としたレガシー創出に関する検討やプロジェクトが進められている。

こうしたなかで、弊社では、ロボットがサービスを提供する観光施設・商業施設に対する人々の認識や潜在的な利用ニーズの把握を目的に独自の意識調査「家事の役割分担と機械・ロボットの利用可能性に関するアンケート調査」を実施した。以下では、調査の結果について紹介するとともに、ロボットによるおもてなしサービスを考える上でのポイントについて解説する。

また、2016年7月20日(水)開催のシンポジウム「ロボット政策×サービス産業×成長戦略:ロボティクス技術を活用した新社会システムの創造~医療、介護、観光、外食、物流などの新たな価値創造に向けて~」でも調査結果を紹介する。(詳細はこちらhttp://www.murc.jp/publicity/press_release/news_160705

近年、ホテル・旅館、観光施設や商業施設では、受付窓口におけるコミュニケーションロボット、荷物の運搬に関するポーターロボットなど、各種接客などを行うサービスロボットを活用する事例が見受けられる。弊社が2016年3月に実施したアンケート調査(1都3県に居住する2200人を対象に実施)では、回答者の3~4割がこうした施設を「利用したい(積極的に利用したい+機会があれば利用したい)」としている。

また、サービス現場におけるロボットの導入に対する期待として、一般に施設運営者は省人化・省力化を挙げる傾向があるが、ユーザーサイドの意向をみると、本調査ではロボットがサービス提供することに対し「特に何とも思わない」とする者が約4割を占めていることが明らかとなった。

このように、ロボットが「おもてなし」サービスを提供する観光施設や商業施設などに対し、明示的な利用意向を有する者は3~4割に留まるが、潜在的な利用者は7割超(積極的に利用したい+機会があれば利用したい+特に何とも思わない)を占め、サービス現場へのロボットの導入に対する社会的な受容度・許容度は、既に一定程度高いと考えることができる。

また、比較的、賛否が分かれている「1.ロボットが受付(フロント)で応対するホテル・旅館」の項目について、性別、年齢別に集計をしたものが次の図である。ロボットがサービスを行う宿泊施設の利用意向について、女性では「あまり利用したくない(弱い否定的な意向)」と回答する者がやや多いものの、男女間に大きな差異はみられない。一方、年齢階層別にみると、年齢が上がるほど否定的な意向を有する者が増え、特に、「あまり利用したくない(弱い否定的な意向)」を示す者が増加する傾向がある。

こうした結果から、ロボットに対する現在の社会的な認識を踏まえると、宿泊施設や観光施設などに「おもてなし」サービスを行うロボットを導入する場合も、ターゲットユーザーの年齢などを考慮に入れ、適切な導入シーン(施設利用者に接しないバックヤードでの利活用など)を検討することも重要であると考えられる。

なお、今後、社会システム・社会インフラとしてロボットの利活用が一段と進む場合、ロボットがサービスを行う施設に対する「あまり利用したくない(弱い否定的な意向)」という意向は、「慣れ」により緩和されていく可能性もある。そのため、ロボットに関するターゲットユーザーの認識を柔軟に捉え、短期と中長期の2つの視点から、新たなテクノロジーの利活用について検討を行うことが必要であるといえる。

今回実施した調査のなかで、ロボットが「おもてなし」サービスを行う宿泊施設や観光施設などを「利用したい」理由として、「今まで利用したことがなく、興味があるから(54.8%)」を挙げる者が最も多く、次いで、「人間が行うより、効率的なサービスを受けられると思うから(15.8%)」や「人間が行うより、安い料金でサービスを受けられると思うから(14.7%)」を挙げる者が多い。

なお、過半が「今まで利用したことがなく、興味があるから」という理由を挙げており、ロボットによるサービス提供に対し、人々は『新しいものへの好奇心』から肯定的な評価を行っていることが推察される。

これに対し、「利用したくない」理由では、「人間が行うより、魅力的なサービスを受けられないと思うから(30.5%)」を挙げる者が最も多いが、『イメージの欠如』に基づくものと解釈される「今まで利用したことがなく、判断がつかないから(23.7%)」との回答も2割超を占めていることが確認された。

今後、各種施設へのサービスロボットの導入が進み、人々がロボットからサービス提供を受ける機会が増えていくなかで、『新しいものへの好奇心』による肯定、『イメージの欠如』による否定は徐々に減少し、より具体的な理由(サービスの価格、享受することができる価値など)に基づく利用意向に転じていくと考えられる。

そのため、観光・商業施設などにおけるロボット利活用の成熟を考える上で、短期的にもユーザーへの訴求ポイントになりうる「サービス提供の効率化」や「価格面の優位性」に留まらず、ロボットならではのサービスの提供を通じて「新たな付加価値や魅力を創出していくこと」、また、「新たな価値・魅力に対する社会的の認知・理解を醸成していくこと」が重要であると考えられる。

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