グーグルが推進する「人工知能のマンハッタン計画」

まるで「人工知能のマンハッタン計画」のようだ。そのように、グーグルの最近の動きがたとえられている。第2次世界大戦中に米国や英国などの連合国が科学者や技術者を総動員して原爆開発計画に注力したように、グーグルが人工知能(AI)の研究・開発のために優秀な科学者や技術者をがむしゃらにかき集めているからだ。

まるで「人工知能のマンハッタン計画」のようだ。そのように、グーグルの最近の動きがたとえられている。第2次世界大戦中に米国や英国などの連合国が科学者や技術者を総動員して原爆開発計画に注力したように、グーグルが人工知能(AI)の研究・開発のために優秀な科学者や技術者をがむしゃらにかき集めているからだ。

年末年始だけでも、グーグルによるAI関連会社の買収が相次いでいる。年末に「Boston Dynamics」を買収したときには、やっぱりド肝を抜かされた。蹴られても倒れない4脚ロボットや山の急斜面を駆け登る軍備輸送用ロボットなどを開発している会社であったからだ。ここ半年少しの間に、8社ものロボット会社を買収したことになる。年明けには、ネット接続のサーモスタットや煙感知器などを開発している「Nest Labs」を32億ドルで買収。さらに今週に入って、ロンドンに拠点を置く謎のAI関連スタートアップ「DeepMind」を買収した。

グーグルのこれまでの主流事業であるWebサービスやスマートフォンサービスに留まらず、ネットにつながる全てのモノをビジネスの対象にしようとしている。ロボットや家庭製品、それに自動車もだ。広義のスマートマシンである。既存事業に加えて、新しい各種スマートマシンにおいても、これからはいかに人間のようにスマート化(賢く)していくかが共通の目標となり、それを支えるAI技術を磨いていこうとしているのである。

そこでグーグルは、トロント大学でGeoffrey Hinton教授が立ち上げていたベンチャーDNNresearchを2013年3月に獲得したのを口火に、先に述べたようにロボット関連の8社( Schaft、 Industrial Perception、 Meka、 Redwood Robotics、 Bot & Dolly、 Autofuss、 Holomni 、Boston Dymamics)やNestそれにDeepMindと、矢継ぎ早に買収を実施してきた。買収先企業の技術や特許を獲得すること以上に、AIのエキスパートの確保に躍起となった。

グーグルには、Geoffrey Hinton氏の他にも、発明家やフューチャリストとしても有名なRay Kurzweil氏(エンジニアリングのディレクター)、グーグルの自動運転車を開発しスタンフォードAI研究所長も務めたSebastian Thrun氏(VP&Fellow)、自然言語処理の大家でGoogleの研究本部長を長く務めているPeter Norvig氏など、AIやロボット工学の重鎮を既にグーグルは囲い込んでいた。これに買収先企業に居た若い有望な研究・開発者が、続々と、グーグルに入ってくるのである。米国防省の災害救援ロボット競技会で勝利した東大発ベンチャーSCHAFTの開発者も仲間入りする。スマートホームNestの技術責任者であるロボティックス研究者Yoky Matsuoka氏(かつて秘密の研究所GoogleXに在籍していた日本女性)はグーグルに復帰する。

それに今週、4億ドル~5億ドルで買収したDeepMindの研究者も加わる。ただし約70人の社員を抱えているのに製品らしきものは事実上何も出していない謎のスタートアップに4億ドル以上も払うのは、高い買い物ではとの声も出ていた。ところがMIT Technology Reviewによると、DeepMindの1ダース(12人)のディープラーニング研究者は4億ドル以上の価値があるという。ディープラーニングは機械学習の手法で、音声認識や画像認識で大きな可能性を示す成果を上げつつあり、動画解析やロボット技術への応用も期待されている。ところがモントリオール大学のAI研究者Yoshua Bengio氏の見方によると、世界にディープラーニングの優れた専門家が50人くらいしかいないという。でも以下の特許例からも推測できるように、DeepMindが優れたディープラーニング研究者を擁していることが,AIコミュニティー内では知られていた。DeepMindを買収すれば、世界のトップ研究者50人のうち12人を一気に抱えることができるのだ。このため、グーグルだけではなくてフェイスブックなどのインターネット企業も買収合戦に加わった。でも、グーグルならではの興味深い膨大なデータセット(ビッグデータ)や強力なコンピューティングリソースを自由に使え、それに世界中から集まった優秀な研究者と交流できる環境が備わっているとなると、やはりグーグルに軍配が上がる。ちなみに優れたディープラーニング研究者ともなると、年収が7ケタ(100万ドル:約1億円)になるそうな。

ディープラーニングはまだまだ開発途上の技術であるが、営利会社のグーグルとしては、その技術により画像や、テキスト、動画を理解したり学習できる新しいタイプの製品を開発していきたいようだ。AIの研究者はSF的な夢の研究に走りがちだが、DeepMindからのスタッフはJeff Dean氏の下で働くことになりそう。Dean氏は分散システムを15年近くも担当してきたベテランで、DeepMindからの研究者にはディープラーニングによる画像検索などをやらせるのだろう。またBoston Dynamicsなどからのロボット部隊は、前のアンドロイド責任者であったAndy Rubin氏が面倒を見るようだ。Nestからの部隊の管理はTony Fadell氏が行い、CEOのLarry Page氏に報告するという。

スマートな人工の頭脳を開発するために、グーグルはとびっきりスマートな人間の頭脳をかき集めた。そしていよいよ人間に匹敵する人工頭脳の開発プロジェクトが始まるということか。

◇参考

What is going on with DeepMind and Google?(MARGINALLY INTERESTING)

(2014年1月31日「メディア・パブ」より転載)

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