中国人客への高級ブランドの対応がすごい

中国本土の店舗の売り上げが減り、顧客がますます価格に精通するなか、高級ブランド企業は中国の裕福な顧客に香港の系列店舗で高額の買い物をしてもらうツアーを提供している。高級カジノのジャンケットさながら、ツアー費用はすべてブランド側が負担し、接待する…
Reuters

中国本土の店舗の売り上げが減り、顧客がますます価格に精通するなか、高級ブランド企業は中国の裕福な顧客に香港の系列店舗で高額の買い物をしてもらうツアーを提供している。高級カジノのジャンケットさながら、ツアー費用はすべてブランド側が負担し、接待する。

ここ数年、中国各地に店舗を開設してきた仏PPR

ボストン・コンサルティング・グループ(香港)のマネージング・ディレクター、ビンセント・リュー氏は「高級ブランド企業の第1・四半期決算は、中国国外での中国人客に対する売り上げが、中国国内での中国人客に対する売り上げよりも急速に伸び続けることを確かに示している」と指摘する。

同氏によると、ハンドバッグから靴、化粧品にいたる高級品の中国人客に対する売り上げの内訳は、約3分の1が中国国内、3分の1が香港あるいはマカオ、残りの3分の1がその他の海外だという。

中国本土で販売される高級品は、ブランドの価格戦略に加え、高級品の輸入に関わる税がかかるため、香港で販売される場合よりも30─40%高い。

コンサルティング会社チャイナ・ラグジュアリー・アドバイザーズの共同創業者、レネ・ハートマン氏は「彼ら(中国人客)が本当に買い物をする店舗は香港あるいはパリにある。中国国内の店舗はショーウインドーに過ぎない」と分析する。

こうしたなか、高級ブランドが富裕層の顧客だけを相手に、北京や上海で非公式に開催するイベントが増えている。顧客は中国本土で高級品の前金を支払い、会社側が全費用を負担するツアーで香港に移動し、商品の購入を完了するというもので、こうした企画は、富裕層の顧客との関係維持だけでなく、高価なマーケティング手法としても機能している。

業界の専門家はこれを、カジノ運営会社がプライベートジェットと5つ星ホテルを用意して高額を賭ける客を呼び込む手法に例える。

モニター・デロイトの中国コンシューマー部門責任者、トルステン・シュトッカー氏は「彼らは真のVIP客に対しては、必要と思うことなら何でもする」と述べ、「マカオやシンガポールのカジノに客を連れてくる高級カジノと同じだ」と指摘する。

中国の新指導部を率いる習近平・国家主席は今年、汚職撲滅を推進すると表明し、政界エリート層に対しては富の誇示を自制するよう求めた。中国では、企業幹部や政府当局者に便宜を図ってもらう見返りに高級品を贈る習慣がこのあおりを受け、高級ブランドは中国本土の店舗と海外の店舗の役割を見直す必要に迫られている。

シュトッカー氏は「高級ブランド側は、どこに次の店舗を出すべきか、どうすれば事業拡張を加速できるかを考えることは少なくなり、代わりに中国国内と国外の店舗はそれぞれどのような役割を果たすか、中国に本当に必要な店舗数はいくつなのか、ということを考えることが多くなる。おそらく2、3年前とは異なる考え方だろう」と述べた。

世界最大の高級品ブランドグループであるLVMHは4月、中国での需要は、景気減速や政府の賄賂など汚職に対する取り締まりの影響で、ここ9─10カ月は「ほぼ横ばい状態」と明らかにした。また、欧州での価格引き上げにより、アジアからの観光客がパリやミラノで買い物をする魅力は薄れたが、高級品を購入したい中国人客には引き続き人気の行き先だと分析した。

LVMHは今年に入り、傘下の皮革製品ブランド、ルイ・ヴィトンの世界展開に歯止めを掛けたことを明らかにした。

中国の汚職取り締まりの影響で打撃を受けた高級時計や宝飾品メーカーも、中国本土外での買い物を支援するツアーを企画している。

リシュモン

ピアジェのフィリッペ・レオポルド=メッツガー最高経営責任者(CEO)はロイターの取材に応じ、ツアーについて「当ブランド、その伝統や正当性について語る最善の方法」で、ツアーの回数は未定と説明。また、VIP顧客のツアー中の買い物について、「もちろん彼らは買う。われわれは強要しないが、彼らも(買い物を)望んでいる」と述べた。

<海外で割安品探し>

多くの裕福な中国人顧客は海外で割安なブランド品を探す術を備えている。割安だと分かれば、すぐさま飛行機に飛び乗り、目当ての品の商品番号を手に店に向かい、中国の店舗よりも安く商品を購入する。

この傾向は、中国の旧正月(春節)連休がある1─2月に特に顕著だ。

高級品市場の調査を行う世界ラグジュアリー協会によると、この期間の中国国内の高級品の消費は53%減少、なかでも皮革製品と時計の落ち込みが目立ち、それぞれ63%、95%減少した。対照的に、中国人観光客が海外で高級品に使った金額は18%増の85億ドルとなり、その半分は欧州で使われたという。

ロサンゼルスを拠点に中国人富裕層向けの企画を扱うアフィニティ・チャイナのクリスチャン・ルーCEOは、中国人が海外に行く際にブランド名を覚えておいてもらうために、高級ブランドが中国国内に店舗を構え続ける必要性はまだあると指摘する。「彼らが年に2、3回海外を旅する場合、彼らは中国で目にしたものに影響を受けている。とんでもなく高い賃料のために上海や北京の店舗から利益が出ない高級ブランドは多いだろうが、それはマーケティングのサンクコスト(埋没費用)だ」と述べた。

(Melanie Lee記者;翻訳 高橋恵梨子 編集 佐々木美和)[上海 1日 ロイター]

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