MITメディアラボと朝日新聞によるシンポ開催

MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボと朝日新聞社による共同シンポジウム「メディアが未来にできること」が、東京・六本木の東京ミッドタウンであった...
Akihiro Chishiro

MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボと朝日新聞社による共同シンポジウム「メディアが未来にできること」が、東京・六本木の東京ミッドタウンであった。情報技術がさらにハイレベルになり、ソーシャルメディアがさらに社会に浸透することで、私たちの生活にどのような影響が出るのか。また、メディアと近い存在である政治も変化するのかなどについて、MIT、朝日新聞、そしてハフィントンポストのキーマンたちが語り合った。

シンポジウムに先立ち、木村伊量・朝日新聞社代表取締役社長による主催者あいさつがあった。

ソーシャルメディアが力を持ち、政府と市民、メディアの関係も変わりつつある。新聞をはじめとするマスメディアの「伝える」という役割は変わらないが、伝える手法は変わっていく。紙の新聞の良さを引き継ぎながら、デジタルという無限の可能性のある大海原にこぎだしたい。

と、朝日新聞としての決意を語り、朝日新聞デジタルをはじめ、ハフィントンポスト日本版の立ち上げ、そして今月末には未来のメディアの姿を自由な発想で議論するための「メディアラボ」をスタートさせる一連の取り組みを「未来メディアプロジェクト」と名付け、様々な試みに挑戦していくと発表した。

基調講演ではMITシビック・メディア・センター・ディレクターのイーサン・ザッカーマン氏が「ソーシャルメディアが社会に与えるインパクト」と題してプレゼンテーションを行った。ザッカーマン氏はブログメディア「グローバルボイス」の創設者で世界中の市民メディアの研究などで知られる。

ザッカーマン氏はオンラインでホワイトハウスに市民が「請願」できる仕組みや自然災害に対する自衛策を政府に頼るのではなく、一般市民が自らソーシャルメディアを使って考えていく方法などを説明した。

その上で、「デジタルメディアは市民をどう変えるか?」という問いに対して、

1.ニュースや情報の制作・共有・消費の仕方を変える

2.市民共同による問題解決のしかたを変える

3.どんな問題が解決可能かという認識・期待を変える可能性もある

と変化への期待を示した。

続いて、MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏がプレゼンテーションを行った。

MITの学生たちと取り組んだデトロイトでの治安改善プログラムの紹介とあわせて「co-design」という考え方を説明。デザインというのはかつては技術者たちが独占していたものだったが、ユーザーフレンドリーな製品を目指したアップルなどがそのコンセプトを変えていったという。それはさらに進化して、消費者であるはずのユーザー自身が必要に応じてデザインにするところにまでいきつつある。この考えは国民がボトムアップで国をつくっていくという「民主主義」の思想につながっていくと思うと語った。

■パネルディスカッション

パネルディスカッションには伊藤氏のほか、ザ・ハフィントン・ポストの創設メンバーの一人であるロイ・シーコフ氏、朝日新聞報道局ソーシャルメディアエディターの山田亜紀子氏、朝日新聞デジタル事業本部長の西村陽一氏が参加し、「メディアが未来にできること」というテーマで議論をした。

ロイ氏はソーシャルメディアを使った効果的な報道の一例として4月のボストンマラソンでのテロ事件を挙げた。

この事件の報道は、メディアの新たなあり方を示すものだった。被害の状況や容疑者についてなど数えきれないほどの情報が飛び交う中、有益な情報を市民に届けるためにはメディア間での線引きはなかった。既存メディアとツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアとが互いにタッグを組んで情報を発信し続けた。

また、アメリカでのハフィントンポストのスタートからこれまでに2億以上のコメントが寄せられたことを紹介し、「私たちはただ情報を漫然と載せるようなつもりはない。池に石を投げ入れて波紋を起こすように、『あなたはこの問題についてどう思う?』と議論を投げかける記事をこれからも出していく」と語った。

伊藤氏は「Open Government」というコンセプトを取り上げ、「自治体や国は、自分たちにとって都合のよい情報は積極的に出したがるが、そうでないものは隠したがる。これからのメディアは、データジャーナリズムの手法などを使って、たとえば国会議員がどんな法案に投票して、どのような団体から献金を受けているかをあぶりだすことを目指すべき。データサイエンティストとジャーナリストの能力を併せ持った人材を育て、国が出したくない情報を引っ張りだしていくという課題があると思うと話した。

山田氏はソーシャルメディアの発達によって新聞記者が得られる情報の質が変化したと語った。

私たちは面白い局面にいる。一般の人々の暮らしの様子や個々の嘆きまで見え、聞こえてくるようになった。これまでなら、役所に窓口へ市民が要望書を出したという段階にならないと新聞社がニュースにすることは少なかったが、いまはリアルタイムで個々人が抱えている問題をニュースとして出せるようになった。人々の暮らしの真ん中の物事まで伝えられるようになった。

西村氏はシンポジウムのまとめとして、「朝日、MITに限らず、私たちひとりひとりもメディアを使って何ができるだろうかと考えるきっかけにして欲しい」と語った。

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