米海軍特殊部隊の元兵士、トランスジェンダーを公表:新刊書

トランスジェンダーの就役を禁止する米軍の規則が課題に直面している。

トランスジェンダーの就役を禁止する米軍の規則が課題に直面している。

クリスティン・ベック氏は、米海軍特殊部隊「ネイビーシールズ(SEALs)」に20年間在籍。世界13ヵ所に派遣され、シールズの先鋭部隊「チーム6」に所属していた経験を持つ。

同氏は、6月1日に出版された回顧録『Warrior Princess: A U.S. Navy SEAL's Journey to Coming out Transgender(戦士のプリンセス:米海軍特殊部隊隊員がトランスジェンダーを公表するまで)』の中で、自らがトランスジェンダーであることを公表した。

著書では、人里離れた農園で生まれ育ったキリスト教徒の少年「クリス」の半生が描かれる。クリスはシールズの隊員となり、誰からも「英雄であり戦士である男性」として見られるようになるが、実は自分はトランスジェンダーであると知っている。

回顧録の共著者で心理学者のアン・スペッカード教授は、「クリスは非常に幼い頃から、自分が本当は女の子であり、女の子になりたいと感じていた」と「ABC News」に語っている

ベック氏は、シールズで訓練を受け、アフガニスタンで戦闘を重ねた数十年もの間、性別を「オフ」の状態にして戦いに没頭し、自らがトランスジェンダーであるというアイデンティティを抑圧してきた。そして、米軍の同性愛に対する「聞くな・言うな(Don't Ask, Dont Tell)」という方針のもと、沈黙を守り続けたという。

米軍は、ゲイ、レズビアン、バイセクシャルの人間が兵役に就くことを禁止してきた。この規則は2011年に廃止されたが、トランスジェンダーの人間が兵役に就くことは、依然として禁じられている

「この本の中でクリスは、自分の抱える絶望と願望を語っている。願望というのは、国に貢献しテロと戦って名誉の死を遂げたい、そうすれば、国民の安全を守ると同時に、性別にまつわる自分の心と肉体の不一致から生じる精神的な痛みと闘わなくてすむようになるというものだ」とスペッカード教授は述べている。

「シールズのほとんどの隊員よりも多くの場所での戦闘を経験したあと、クリスは、自分の魂で続く激しい闘いへと戻った。そして、公表しないままでいるか、本当の自分として生きるかという、倫理的・社会的な意思決定の問題に向き合った」

2011年の退役後、ベック氏のプレッシャーは軽くなった。この回顧録は、トランスジェンダーであると自覚していながらも、本当の自分を表に出すことに問題を抱えている人々に対して捧げられている。

回顧録でベック氏は、「魂に性別があるとは思わない。私の選んだ新しい道は、私の魂を完全で幸せな状態にしてくれた」と書いている。「これまで私が歩んできた道が、人間の経験にわずかでも光を当て、男と女という二元的な性別に対する社会的・宗教的なドグマを癒す手助けになることを願っている」

「Atlantic Wired」のJ.K.トロッターは、ベック氏の著書が、トランスジェンダーのコミュニティだけでなく、軍などの方針にも影響を持つかもしれないと書いている

以下の画像は、新刊書の表紙。シールズ時代のベック氏が映っている。

以下の画像ギャラリーでは、トランスジェンダーであることを明かした49人を紹介している。トップは、映画『マトリックス』シリーズを弟と監督したラナ・ウォシャウスキー監督。はじめは「ローレンス」を名乗っていたが、2008年に性別適合手術を終えて、名前もラナと変えた。動画は、2012年10月、LGBT団体「Human Rights Campaign」から「Visibility賞」を受賞したときのスピーチ。

[Cavan Sieczkowski (English) 日本語版:兵藤説子、合原弘子/ガリレオ]

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