日本再興戦略、設備投資減税(企業減税・法人税減税)の採用は選挙前のリップサービスか

12日、政府は産業協力会議を開き、成長戦略の最終案を取りまとめた。14日閣議決定される。成長戦略は「日本再興戦略」という正式名称になることも明らかにされた…

12日、政府は産業協力会議を開き、成長戦略の最終案を取りまとめた。14日閣議決定される。成長戦略は「日本再興戦略」という正式名称になることも明らかにされた。

議論を踏まえ、安倍総理は「思い切った投資減税で法人負担を軽減する」と明言。取りまとめられた最終案では、法人税の減税を日本再興戦略の柱に据えることにした。5日に発表された成長戦略の素案では、企業減税が盛り込まれず株式市場の失望を買っていた。そのため安倍首相は、9日に行われたNHKの討論番組で、秋の臨時国会で企業減税を実現すると明言していた。

減税の具体策としては、企業が工場や機械などの設備を更新する場合に、投資額の3%を法人税から差し引いていたが、この割合を拡大する「設備投資減税」を行う方向だ。また、新薬開発などの新技術に取り組む企業の研究費の一部を、法人税から差し引く「研究開発税制」の延長なども検討している。

安倍政権では、この減税への対応を「次元の違うスピード感を持って」行うとしている。通常であれば、各年度の税制の変更については年末に「税制改革大綱」という文書に盛り込まれ、これを元にした「税制改革関連法案」を政府が年明けに国会に提出、国会での議論を経て3月末までに法案が成立する。成立した内容はそれぞれ4月から、あるいは翌年1月からなど、内容によって別々に適用が開始されていた。今回の発表された「次元の違うスピード感で」というのは、この法案の成立を前倒しし、出来上がった減税対策から順次適用するとしている。

一方、既に1000億円程度の設備投資減税が行われていたのに、さらに追加しても効果があるのかという疑問の声もある。甘利明経済再生担当相は11日の閣議後記者会見で、現在プランの詳細については設計中としながらも、そうとう大胆な手法を考えており、設備投資に向けた意欲が増すような内容を考えていると述べている。

安倍政権としては、企業の税負担を軽くして収益を拡大し、労働者の賃金増につなげたい考えだが、企業は利益を内部留保に回す傾向があり、法人税率の引き下げが家計が潤う保証はないともいわれている。共同通信の調査では、2012年3月末において、大手企業100社が、利益のうち人件費などに回さずに社内にため込んだ「内部留保」の総額が総額約99兆円に上ることがわかっている。

甘利大臣は1日に東京都内で行った街頭演説で、内部留保があるのに投資を行わない日本企業について、どんな分野に投資をしていいかわからないからと指摘し、医療やエネルギー分野などの成長分野に絞った法人税減税を打ち出す考えを示している。

ここで気になるのは、国内ではどのような企業が、国内投資に積極的になるのかという点である。ロイターはみずほ証券の話として、国内投資が今後活発化しそうな業種として非製造業をあげている。製造業については、「これまで企業は着実に生産の海外シフトを進めてきた。企業センチメントを短期間で転換させるハードルは高いとみられる」ためとしている。

製造業から非製造業への設備投資意欲の変化について、ロイターは伊藤忠経済研究所の話として、下記のようにも書いている。

伊藤忠経済研究所では「これからは高齢化社会で医療や小売りなどでの需要が伸びることから、成長戦略としてこれを取り込む非製造業の設備投資に期待できそうだ」と見ている。機械受注統計でも底堅く伸びているのは、運輸業や卸・小売業やその他製造業といった非製造業だ。

従来、設備投資の波は製造業から始まり、非製造業へと波及してきたが、製造業の国内投資回帰に大きな期待が持てない現在、けん引役は変化しつつあるようだ。

(ロイター「〔アングル〕設備投資にも動意の兆し、非製造業に投資余地 70兆円回復の可能性」より。2013/06/12 13:22」

しかし、一般財団法人 労務行政研究所が4月26日に発表した「東証第1部上場企業の2013年夏季賞与・一時金(ボーナス)の妥結水準調査」によると、製造業(105社)の支給水準は67万5847円で、対前年同期比は0.1%減、非製造業(34社)については62万9109円、同2.2%減と、非製造業の方は落ち込みが大きいだけに、今後盛り返せるのかという不安もある。

甘利大臣は11日の会見で、「この(成長戦略の)プランを実行するには法律が必要であり、法案を提出しているが、成立していない。衆参を通じての法整備の体制が必要。」と、選挙を睨んだ発言をしている。また、具体的な内容が出てくるのは、参院選が終わった「秋の国家」となる。

新しい成長戦略「日本再興戦略」で、今後製造業にも、非製造業にも恩恵が回ってくるのか期待したいところであるが、選挙まで国民の支持率をつなぎとめておきたいという思いも透けて見えて「選挙前のリップサービス」にも見えてしまう点が残念である。

なお、13日の寄り付き時点での東京株式市場は続落し、1万3000円を下回っている。

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