日銀短観6月、デフレ脱却の兆し、課題は雇用・設備投資への流れ【争点:アベノミクス】

1日に発表された6月日銀短観では、コスト増を価格転嫁する企業の強気姿勢が鮮明となり、物やサービスの価格面からみたデフレ脱却の道筋が見えてきたとの声が強まっている…
Reuters

1日に発表された6月日銀短観では、コスト増を価格転嫁する企業の強気姿勢が鮮明となり、物やサービスの価格面からみたデフレ脱却の道筋が見えてきたとの声が強まっている。

ただ、雇用不足感を背景にボーナスや残業手当が増える可能性が出てきているものの、全体の賃金水準はかえって低下するシナリオも一部で指摘されている。製造業の海外シフトが止まらない中で、大幅増益を続ける企業が収益を雇用や設備投資につなげていくのかどうか、その点がこれからの大きな課題になりそうだ。

<販売価格と利幅が上昇>

6月日銀短観では、大企業から中小企業まで幅広く景況感が回復した。背景には国内外の需要回復と、円安コストの価格転嫁で利幅を確保した構造がある。売上・収益ともに大幅に上方修正され、大企業製造業の経常利益は2年連続の2ケタ増となりそうだ。

従来の景気回復局面と異なるのは、企業が原材料コストを価格転嫁している点だ。

日銀短観の製商品・サービス価格の値上げ・値下げの価格設定行動を聞く項目において、「上昇」との回答企業が「下落」を上回るのは、バブル期や07年の世界的資源価格高騰時だけ。

今回の短観では、先行き販売価格について、製造業では「上昇」まであと一歩に迫り、非製造業では「上昇」が上回る見通しだ。

この結果、仕入れ価格の上昇に対して価格転嫁を実施することで利幅が拡大している。

<インフレ期待の上昇も影響>

値上げの背景には、原材料価格が円安の影響で高騰していることのほか、内外需要の回復と在庫調整の進展も影響している面がある。

また、アベノミクスによる異次元緩和や2%物価上昇への強いコミットメントもインフレ期待に影響している可能性がある。

第一生命経済研究所・主席エコノミストの熊野英生氏は「アベノミクスが企業マインドを大きく改善させたかと問われれば、おおむねYESと言ってよい」と述べている。その上で「こうした価格転嫁は、素材業種の経常利益計画の改善をもたらし、大企業から中小企業へ業況改善が波及するだろう」とみている。

<非製造業への雇用シフト、全体の賃金水準引き下げるリスクに>

製品・サービス価格からみると、デフレ脱却は近いとの声が出てきている。JPモルガン証券・チーフエコノミストの菅野正明氏は「年内にもデフレ脱却が実現するとの見方は、コンセンサスになりつつある」と指摘する。全国コア消費者物価(除く生鮮)も5月にはマイナス圏を脱しており、6月にプラス転換することが確実視されている。

ただ、物価を押し上げる原動力となる雇用や設備といった需給ギャップの動向には、まだ課題が残されている。

雇用面では、不足感に転じつつあることが短観で判明した。過去に雇用不足超過となったのは、1980年代後半以降では89年を頂点としたバブル期とリーマンショック前の景気拡大期だけだ。現在、雇用面では需給ギャップがほぼ解消したとも言える水準までタイト化している。

だが、雇用不足が生じて所得に波及し、物価上昇の動きに対し出遅れずに賃金が上がるとかいえば、そう簡単な話ではない。

JPモルガンの菅野氏は、時間外労働の増加やボーナスといった形での所得増加が期待できるものの、賃金そのものの底上げは難しいと見ている。雇用不足に陥っているのは非製造業であり、雇用は海外進出の相次ぐ製造業から非製造業へのシフトしつつある。

しかし、非製造業の賃金は製造業の8─9割程度にとどまり、シフトが進むほど日本全体の平均賃金水準は低下することになるためだ。

<非製造業全規模の設備投資、13年度計画はマイナス>

設備の過剰感も、過剰解消が進んでいる。ここ数年、景気の不透明感から抑制されてきた更新投資などが、ここへきて動き出し、投資計画は順調に上方修正された。

とはいえ、中小製造業が13年度2ケタ増の投資計画となっていることを除けば、全般に控えめな計画となっている。特に設備投資規模が製造業の2倍ある非製造業は、その出足が鈍い。全規模でみると、非製造業の13年度計画はまだマイナスだ。

第一生命・熊野氏はデフレ脱却への課題として、価格面での動きに加えて「雇用拡大・設備投資といった、成長から分配面への展開にステップアップしていけるかどうかがポイントになる」とみている。

(ロイターニュース 中川 泉 編集;田巻 一彦)

[東京 1日 ロイター]

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