アベノミクスとは何か? 参院選前に安倍政権の経済政策を振り返る【争点まとめ】

参院選の最大の争点となった「アベノミクス」。2012年の衆院選から約8カ月が過ぎた7月17日の時点で、株価は上がり、円安となった。これらの数値だけ見ると、アベノミクスは今のところ一定の評価を得ているといえる。しかし、これは私たちの生活を良くした、または今後良くするといえる状態なのか。アベノミクスとは何かを、今一度検証してみたい…
EPA時事

安倍晋三首相は16日、全閣僚で構成する日本経済再生本部の会合を開き、6月に閣議決定した成長戦略「日本復興戦略」について、「効果ある施策と実行の加速化を優先してほしい」と全閣僚に示した。産経ニュースによると、安倍首相は「選挙期間中でも立ち止まらず、次のステップに向けて準備を進めなければいけない」と強調し、秋の臨時国会を成長戦略実行国会と位置づけて取り組む考えを示したという。

参院選の最大の争点となった「アベノミクス」。2012年の衆院選から約8カ月が過ぎた7月17日の時点で、株価は9,828.88円から14,615.04円に約4,800円上がり、為替は1ドル83.88円から99.75円と約16円ほども円安となった。これらの数値だけ見ると、アベノミクスは今のところ一定の評価を得ているといえる。しかし、これは私たちの生活を良くした、または今後良くするといえる状態なのか。アベノミクスとは何かを、今一度検証してみたい。

■アベノミクスとは何か

アベノミクスとは、第2次安倍政権が行っている、デフレ脱却に向けた“一連の”経済政策のことを言う。「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」の3本の矢から成るとされ、この矢を次々と放つことで、強い経済を取り戻すとしている。

これは、おおまかに次のような景気回復シナリオを、想定しているものと思われる。

・金融緩和、財政出動

・期待から株があがる(インフレ期待)

・企業が投資を行う

・雇用が増える

・賃金が増える

・消費が拡大する

・企業の利益が増える

・景気回復

■「大胆な金融政策」の「大胆さ」はこれまでとどう違うのか

日銀による金融緩和は2001年3月から2006年3月までにかけて行われていた。このときに行われていた金融緩和は「量的緩和」と呼ばれるもので、日銀の当座預金という、日本中の銀行が日銀に開いている口座に置いておくお金の量を増やすというものだった。2010年2月に財務省財務総合政策研究所から出された「量的緩和政策― 2001年から 2006年にかけての日本の経験に基づく実証分析―」というレポートによると、この量的緩和によって、日本の株価が上昇したり、円が安くなったり、設備投資が行われるなどの効果はあったが、物価は上昇しなかったとされる。また、日銀の当座預金が増えても、貸出に回っていないという点も指摘している。

この時期に量的緩和を続けていれば物価が上がり、デフレから脱却できたという意見もあり、安倍首相もその論を展開する一人である。安倍首相は就任後まず、量的緩和を避ける日銀の総裁を、もっと金融緩和をすべきと唱える黒田東彦氏に変えた。

黒田氏は4月4日、日銀政策決定会合後の記者会見において、「量的・質的緩和」を発表。止めていた量的緩和を復活させ、今度は日銀の当座預金だけでなく、世の中に出回る分も含めて、お金の量を増やすという内容とした。日銀はこれまで「金利」をコントロールしていたが、それを「マネタリーベース」と呼ばれる、世の中に出回る現金と、日銀の当座預金残高の合計を示す指標でコントロールをすると変更。具体的には、2012年末は138兆円だったマネタリーベースを、2013年末には200兆円、2014年末には270兆円と、年間約60~70兆円のペースで約2倍に増やすと宣言した。

これまでのお金の量を2倍にするのであるから「異次元」と言われるのも頷ける。市場は「黒田バズーカ」と呼び歓迎。5月23日に、株価は15,942.60と年初来最高値をつけるまでに株高が進行した。

一方、日銀がコントロールするものが「金利」から「マネタリーベース」に変わったということは、少々金利が上下しても、日銀は気にしないという捉え方もできる。事実、株価が年初来高値を記録した5月23日には、長期金利が1%まで急上昇するなど、金利は不安定な動きが続き、これに伴い住宅ローンの上昇も続いた。日銀は長期国債の買い入れを「より頻繁に、より小分けに」行うなどの対応を行うなどし、6月以降にようやく金利が落ち着いた感もある。

しかし、世の中に出回るお金は依然としてまだ少ない。ロイターは、「日銀が8日発表した貸出・預金動向によると、銀行・信金計の6月貸出(速報値)は前年比1.9%増と2009年7月(同2.1%増)以来の伸びとなった」と報じているが、まだまだ数字的には物足りない状態と言える。

■金融緩和と財政出動による、財政悪化の懸念

日銀の金融緩和は、国債を買い取ることが主となる。日銀は直接国債を引き受けることはないが、それでも政府が発行した国債を、金融機関を通じて買い入れることで、市場にお金を増やす。そのために国は国債を発行する必要があるが、国債を発行するということは、財政を悪化させるということにもつながりかねない。

この点は、アベノミクスの「機動的な財政政策」にもつながる。2月26日に成立した補選予算は13兆1054億円であるが、政府は緊急経済対策としたがこれに対してはバラマキとの批判もある。

IMF(国際通貨基金)は9日、世界経済見通し(WEO)を公表した際の記者会見で、「信頼できる中期財政計画と構造改革がないと投資家が不安に思う」という意味で、アベノミクスにリスクがあると発言したという。また、6月17日に行われたG8(主要8カ国首脳会議)でも「日本の成長は、大胆な金融緩和と、最近発表された成長戦略によって、支えられている。しかし、信頼ある中期財政計画の策定という課題に取り組む必要がある。」と指摘を受けている。アベノミクス失敗による財政悪化を指摘する声は国内だけではなく国外からも出ているということであろう。

安倍首相は財政再建について、「夏までに中期財政計画を作り、道筋をしっかり示していく」と話している。「機動的な財政政策」の具体案が出るのも、参院選後になるため、この2本目の矢は、すべてが放たれたとはいえない状態である。

■鍵は成長戦略

日本国内外から注目されているのが「成長戦略」である。日本の経済を立て直すことを医療に例えてみると、金融緩和が「内科的」な要素だとすると、成長戦略は外科手術と言えるのではないだろうか。日本の体質改善を促し、強い体に作り変えるのが成長戦略である。

金融緩和が行われ、企業の資金調達が容易になった所で、投資する先がないと考えれば企業は投資を行わない。ここで企業の投資が生まれなければ、「金融緩和をしてもダメだった。アベノミクスでもダメだ。」というようなデフレマインドが逆に強くなるという懸念もある。政府は企業側が「投資を行いたい」と感じるような政策を用意しなくてはならない。そもそも需要がないとする意見も多い中で、新たな需要をどう生み出すのか。

政府は6月14日、「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」と名打った成長戦略を閣議決定した。「日本産業再興プラン」、「戦略市場創造プラン」、「国際展開戦略」の3つのアクションプランを設定し、それぞれのアクションについてKPI(Key Performance Indicator)を設定。2030年を最終目標とし、中長期の工程表を元に実行するとするというものだ。

「日本産業再興プラン」では、グローバル競争に打ち勝つための企業の再編などを行うとし、世界的に競争力のある企業を育成する「産業競争力強化法」(仮称)の策定や、税制優遇措置を特定の地域を限定して導入する「国家戦略特区」の創設を行う。雇用に関しても、若者・女性の活躍を促進したり、待機児童解消加速化プランなどを表明した。

2つ目の「戦略市場創造プラン」では、新たな成長分野を切り拓く産業を開拓するとし、日本が国際的強みを持つ「医療」「クリーンエネルギー」「次世代インフラ」「農林水産物などの地域資源」など4つの分野に注力するとする内容とした。

3つ目の「国際展開戦略」では、日本国内の徹底したグローバル化をすすめるとし、日本の産業の世界市場展開と、海外からの対内直接投資拡大等を実施する。インフラシステム輸出ではトップセールスを実行し、2020年までに世界市場での受注額を30兆円まで拡大すると見られている。

政府は5日、この日本再興戦略の素案を表明していたが、市場は内容に落胆。市場はこれでは物足りないとしたのか、株価は下落。安倍首相はいち早く「秋に法人税減税などを考える」などと発言している。

しかし、それでも国内外から、規制緩和を求める声は大きい。労働市場改革の現状について、モルガン・スタンレーMUFG証券のロバート・フェルドマン債券調査本部長は「Dプラス」という厳しい評価を下す。ロイターによると、フェルドマン氏は、「今のルールで(企業が)正社員を雇いたいという気持ちになるとは思えない。解雇規制を緩くしたら経済的にどうなるか、を考えるべきだ」と同氏は言う。「結局、雇用は増え、賃金も増えるだろう」と話しているという。

この他、安倍首相はTPPやEPAを推進すると述べているが、日本はTPP交渉に参加できる日数が少ないということもあり、どこまで交渉を行うことができるかという点に懸念がある。国内でも依然反対する声も大きい

10年後には1人あたりの国民総所得(GNI)を現在の水準から150万円増やすことができる」と安倍首相は掲げるが、本当にこれが達成できると、人々に感じさせることができるのかという点は、まだまだ疑問が残る。

日銀、景気判断を「緩やかに回復しつつある」と上方修正した。しかし、この上方修正を加速させるためには、この参院選後が正念場となる。

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■第1の矢・金融緩和

《金融政策》

《景況感・景気動向》

■第2の矢・財政政策(第4の矢・財政再建)

《消費税》

《財政再建》

《社会保障費》

■第3の矢・成長戦略

《成長産業》

《TPP・規制緩和》

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