アニメ「耳をすませば」の名場面 「中学生同士の婚約」は法的に有効か?

ジブリ映画「耳をすませば」で有名な、聖司が雫にプロポーズするシーン。ところで、中学生同士の婚約は、法的に拘束力があるのでしょうか?
Embraced teenage couple standing and looking at each other surrounded by nature.
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アニメ「耳をすませば」の名場面 「中学生同士の婚約」は法的に有効か?

公開から20年近く経った今も、根強い人気があるジブリ映画「耳をすませば」。中学生のさわやかな恋愛をテーマにした青春映画で、7月初旬にテレビでも放送された。

主人公の月島雫(しずく)が同級生の天沢聖司と出会い、自作の詩をバカにされるシーンなど、有名な場面はいくつかあるが、やはり印象的なのはラストだろう。

街を見下ろす高台で、聖司が「雫、今すぐってわけにはいかないけど、俺と結婚してくれないか」とプロポーズ。雫はこれに「嬉しい!そうなれたらいいなって思ってた」と応じる……。

このシーンが放送されるたび、ネットでは「二人はその後どうなるか」という話が盛り上がる。雫役の声優、本名陽子さんは、7月の放送に合わせたニコニコ生放送の番組で「(続編があるとしたら2人は)すぐ別れると思う」と、なんとも切ない予想を披露していたが……。

万一そんなことになれば、「結婚するって約束したでしょ!」と大げんかになる可能性もある。しかし、よくよく考えてみれば二人はまだ中学3年生だ。中学生同士が交わした「婚約」は、はたして有効と言えるのだろうか。約束を守らなければ、法律的な責任も生じるのだろうか。橋本智子弁護士に聞いた。

■「15歳」が年齢的な目安にはなる

「何歳から、当人同士の『婚約』に責任が生じると言えるのか。実は民法には、婚約についてのはっきりとした規定はありません。

そこで他の規定から推察してみます。たとえば、養子縁組や遺言などについて、本人が決められるのは15歳からです。また、女性が結婚できるのは、16歳からです。

こういった規定から推察すれば、おおむね15歳が一応の目安にはなるでしょう。ただ、14歳だったらただちに無効かというと、そういう話ではないと考えます」

――二人の「婚約」は法律的にはどう扱われる?

「『婚約』が法律問題として争われるのは、それが一方的に破られたときです。合意の上で別れたなら問題になりませんからね。

しかし裁判になっても、判決で誰かに『結婚しろ』と強制することはできません。その責任は、『損害賠償(慰謝料)』の支払いという形でとることになります。

これを今回のケースに当てはめて考えると、論点は、あのとき交わした口約束をどちらかが破ったとして、破った側に『損害賠償』を支払わせるべきか、ということになります」

■損害賠償が認められるには「プラスアルファの事情」が必要

――裁判ではどう扱われている?

「実は、婚約に法的責任が生じるかどうかについては、本人の年齢よりもむしろ、『約束がどんな形でなされたか』のほうが重要です。あのような形での口約束を破った側に、『お金を払え』と言えるかどうかは、常識的に考えれば微妙ですよね。

判例でも、一方的な婚約破棄によって損害賠償が認められるためには、単なる口約束だけでは足りない。プラスアルファの事情が必要だとされています。

プラスアルファというのは、客観的に見て、『この二人は本気で結婚しようとしている』と考えられるような事実ですね。あるいは、法的責任を認めなければ、一方的に婚約破棄された人(多くは女性)があまりもかわいそうだと感じられるような事情です。

具体的には、たとえば結納などをすませているとか、式場の予約をしているとか、相当長期間にわたって結婚を前提とし、かつ性交渉を伴う交際を継続している――などです」

――そういう事情がなければ、『婚約』ではない?

「いえ、口約束だけでも、婚約は婚約です。しかし、この種の口約束だけで損害賠償責任まで負わせることには、裁判官としてもかなり慎重にならざるを得ないでしょう。

現実問題として、二人の『結婚しよう』という約束が本気だったのか、単なる戯れ言なのかは、他の様々な事実と照らし合わせてみないと、裁判官にも判断しがたいです」

――では、聖司や雫のどちらかが一方的に約束を破っても、法的責任は問われない?

「『耳をすませば』の例では、単に口約束をしただけの段階ですし、14〜15歳という年齢も考えれば、損害賠償責任を生じさせるような婚約が成立しているとは、とても言えないでしょう。

ただ、今後、二人が交際を続けていけば、そのような婚約が成立しているとみられる段階に至る可能性は充分にあると思います」

なるほど、たとえあの時点では口約束でも、プラスアルファが積み重なれば、約束の性質が変わってくるということか。今のところ長編映画の「続き」は作っていないジブリだが、これはもしかしたら「続編」もある……?

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【取材協力弁護士】

大阪弁護士会所属 犯罪被害者支援委員会 委員

共著書『Q&Aモラル・ハラスメント 弁護士とカウンセラーが答える 見えないDVとの決別』(2007年、明石書店)

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