母乳育児でIQが上がるとの論文、信ぴょう性は?

「母乳育児は赤ちゃんのためによい」。この、半ば定説と化した「母乳育児支持説」に、また一つ、「科学的根拠(エビデンス)」付きの論文が加わった
Mother breast feeding baby
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Mother breast feeding baby

母乳育児は、赤ちゃんのIQを上げるのか?

「母乳育児は赤ちゃんのためによい」。この、半ば定説と化した「母乳育児支持説」に、また一つ、「科学的根拠(エビデンス)」付きの論文が加わった。

今回取沙汰された効能は「知能の向上」。29日、米医師会が発行する医学誌「JAMA Pediatricws(小児科学)」に掲載された。

今回の研究方法としては、1999年から2002年まで米国で行われた「ビバプロジェクト」と呼ばれる大規模調査に参加した1312人の母子に対しての追跡調査を行った。すると、生後1年間、母乳を飲んだ期間が長いほど、3歳時点の受容言語認知力(聞いてわかる言葉)が高く、7歳時点での言語性、非言語性IQのポイントも高かったという。

論文の主執筆者でハーバード大学医学大学院の助教(小児科)を務めるマンディ・ベルフォール博士は、母乳育児を1年間続けた子どものIQは、そうでない子どものIQを約4ポイント上回ったと述べている。

なお、ここでいう「母乳育児を続けた」とは、摂取した飲食物のなかに母乳が含まれていた、という意味だ。生後半年間母乳のみを飲んで育ち、それ以降は補完食(母乳を補う飲食物)を取り入れながら母乳を飲み続ける、という、WHOで推奨される「理想的な母乳育児」を行った場合はもっと結果がよくなるという。

【母乳育児と知能との関連を証明する難しさ】

USAトゥデイ紙は、過去、母乳育児の効能が認められた健康上の効能として、胃腸管感染症や中耳炎の減少、肥満や糖尿病のリスクの減少が広く認められてきたことを紹介。しかし、母乳育児と知能の関連性については、疑念にさらされがちだと指摘した。理由としては、以下のような、特有の難しさがあるのだという。

1.ランダムなデータ抽出が困難であること

母乳育児をするかしないかという決断は極めて個人的なものであり、ランダムに、「母乳群」と「人工乳群」に振り分けることが、倫理上難しい。結果的に、観察的手法に頼るしかないことは、ベルフォール博士も認めている。

2.結果に影響を及ぼしうるその他の因子がたくさん存在すること。

「懐疑派」から繰り返し指摘されるのは、子どものIQの差は、「母乳を飲んだか飲まないか」ではなく、「母親のIQ」の差ではないかという点だ。実際、母乳で育てる母親はそうでない母親よりも高学歴で比較的裕福だという調査結果もあるという。

また「母乳」そのものではなく、母乳を飲ませる際の母児の触れ合いこそが脳への刺激となるのではないかという指摘もあるし、環境的な要因が大きいという説もある。

さらに、母乳と一口にいっても、「質」にちがいがあり、最近では脳の発達への深い関連性が指摘されているDHAやARAが多く含まれる魚の摂取量などが関連するのではないかとの可能性も指摘されている。

【今回の研究の信ぴょう性】

ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、今回の研究が、論文に関与していない他の専門家からも、過去の例に比べて信ぴょう性が強いと評価されているのは、調査対象の規模の大きさと、独自の方法によって、上記のような変数を排除したことによる。

研究では、利用できる本の数などの要因によって子どもの環境を評価したうえ、母親に個別IQ検査を実施した。さらに、保育状況、収入、両親の学歴などの、IQに影響を及ぼす可能性のある詳細な質問を行い、統計的なモデルを用いて、これらの変数を排除したという。

なお、母親の魚の摂取量に関しては、有意差がなかったとされている。これは、一面においては、母親が「良い」ものを食べても母乳の質が上がらないという結果ともいえるが、DHAを多く含む魚が同時に、水銀も多く含むと指摘されていることからすれば、肯定的な結果ともいえるだろう。

ベルフォール博士は、結果の信頼性に強い自信をにじませている。

【母乳育児は絶対(マスト)か?】

一方、「懐疑論者」である専門家は、今回明らかになった4ポイントという差は「有意差として認めるには小さすぎる」と指摘する。知能の多元性を鑑みれば、単一の原因に差を求めることには賛成できないという意見だ。

この点を強く示唆したのは、タイム紙で、母乳育児以外にも、IQを左右しうる要因は多数あるとしている。同紙によれば、出生順位、遺伝、公害、折檻、ジャンクフードなどが、IQを上下させるという。

もっとも、ベルフォール博士も、今回の結果が絶対的だとは考えていないという。母乳育児率が、出産直後には70%という高率を示しながら、半年後には35%にまで急落するアメリカの現状からして、社会全体の取組によって小学校の補習などの必要性が下がるかもしれないとの見方だ。

さらに博士は、健康上の理由から、あるいは選択的に母乳育児を行わない女性に対して、こう言い添えている。

「子どもが理想的な発達を遂げるために、親にできることはたくさんあると理解することが大切だ。そのうちの一つが、母乳育児だ、ということなのだ」。

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