世界陸上の表彰台でロシア女性選手がキス 同性愛宣伝禁止法に抗議か?

8月18日に閉幕した世界陸上で、17日に行われた女子4×400メートルリレー決勝に出場し、金メダルを獲得したロシアチームのタチアナ・フィロワとクセニア・リジョワが、競技終了後キスを交わしたことが物議をかもしている。彼女たちは表彰式の際にも再びキスをした。

8月18日に閉幕した世界陸上で、17日の女子400メートルリレー決勝に出場し、金メダルを獲得したロシアチームのタチアナ・フィロワとクセニア・リジョワが、競技終了後キスを交わしたことが物議をかもしている。彼女たちは表彰式の際にも再びキスをした。ハフィントン・ポストUS版が伝えた。

ロシアでは6月に、未成年者に「非伝統的な性的関係」(ロシアでは同性愛についてこう表現する)について情報提供することを禁じた「同性愛宣伝禁止法」が成立したばかり。

表彰台でのこの行動は、明らかにロシアの同性愛宣伝禁止法への抗議の意思を示したものだという見方もある一方で、地元メディアは政治的意思表示なのか、単なる歓喜の抱擁なのか、疑問を投げかけている。

Russia's Tatyana Firova (R) and Russia's Kseniya Ryzhova kiss shortly after winning the women's 4x400-meters relay final at the 2013 IAAF World Championships at the Luzhniki stadium in Moscow on August 17, 2013. (YURI KADOBNOV/AFP/Getty Images)

Gold medalist Tatyana Firova and Kseniya Ryzhova of Russia kiss on the podium during the medal ceremony for the Women's 4x400 meters relay during Day Eight of the 14th IAAF World Athletics Championships Moscow 2013 at Luzhniki Stadium on August 17, 2013 in Moscow, Russia. (Paul Gilham/Getty Images)

両選手ともこの件に関して声明を出していないため、彼女らに政治的意図はなく、ただキスを交わしただけなのかもしれない。しかし、Gay Star Newsによると、この行為は、6月にロシア国会で成立した同性愛宣伝禁止法に違反するとしている。法的に見れば、彼女たちは公衆の面前でキスをした罪で起訴されることになる。「非伝統的な性的関係」を宣伝したとみなされるからだ。

一方で、ロシアスポーツ省のムトコ大臣は18日、同性愛宣伝禁止法に対する騒動に関して声明を出し、大げさに騒ぎ立てるメディアを非難した。

ロイターによると、「この騒ぎはでっち上げられたものだと思う」とムトコ大臣は会見で述べた。「ロシアには非伝統的な性的関係を禁止する法律などない。違う法律なのだ」とも述べている。

さらにムトコ大臣は、2014年に行われるソチ冬季オリンピックのボイコットを求める声が上がっていることについても言及。ロシア当局が、ロシアの都市を訪れる選手や観衆に対して同性愛宣伝禁止法も含むロシアの法律を順守するよう義務付けることを認めている。

しかし、ムトコ大臣は、ソチを訪れる人が変わらず「すべての権利と自由が認められる」とも述べている。

■ イシンバエワ「ソチオリンピックで反同性愛法に従うべき」、のちに釈明

ロシアの同性愛宣伝禁止法をめぐっては、スポーツ選手や国際オリンピック委員会(IOC)でも発言が相次いでいる。

世界陸上選手権の女子棒高跳びで優勝したエレーナ・イシンバエワ(ロシア)は15日、プーチン政権が制定した同性愛に関する宣伝を規制する法律を順守するよう呼び掛けた

イシンバエワは自身は同性愛者ではないとした上で、「さまざまな意見は尊重するが、ソチオリンピックのためにロシアを訪れる人々は法を順守すべきだ」と主張。

しかし、この発言が大きな波紋を呼び、16日、前日の自身の反同性愛的な発言を弁解する声明を発表し、同性愛者への差別意識はないとコメントした。イシンバエワは、発表した声明の中で「私は性的指向に基づいた同性愛者への差別には反対しています。英語は私の母国語ではないので、昨日(15日)お話しした時には誤解をされてしまったと思います」と釈明。しかし謝罪の言葉はなかった。

国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ会長は、18日付のドイツ紙ターゲスシュピーゲル日曜版に掲載されたインタビューで、ロシア政府から来年2月のソチオリンピックに同性愛を規制する法律を適用しないとの確約を得たことを明らかにした

ロゲ会長は「ロシア政権の最高位から、法律は五輪の参加者や訪問者には影響しないとの約束を得た」と明言。「スポーツは民族や性別、性に関する考えに関係なく、誰もが参加できなければならない」と強調した

■ ロシアの反同性愛に抗議、ソチオリンピックボイコットの声も

自転車女子で昨年のロンドン五輪銀メダルのユディト・アルント(ドイツ)は14日、ロシアの同性愛宣伝禁止法を批判し、ソチオリンピックのボイコットを呼び掛けた。アルントはドイツのテレビ局を通じ、「ロシアの法制度は非人道的である」と述べた

スウェーデンの女子走り高跳び選手、エマ・グリーン・トレガロ(写真)は15日の世界陸上で、モスクワ大会でネイルを同性愛コミュニティーの旗にちなんで虹色に塗ることでロシアの同性愛団体への支持を表した

トレガロは「これは正しいことだと思った」とコメント。抗議のために前もって用意していたわけではないとしながらも、「自分の考えを表す、簡単な方法だと思った」と説明した。

イギリスの喜劇俳優で作家のスティーブン・フライ氏は、1936年のベルリンオリンピックの陰で進んだナチス・ドイツによるユダヤ人弾圧の歴史に触れ、ソチオリンピック開催の撤回を求め、キャメロン首相とIOC宛の公開書簡を発表している

この公開書簡の中で、フライ氏は「スポーツは社会や政治とは別世界の、浮世離れしたものではありません。スポーツと政治は関係ない、という考え方は不誠実でばかばかしいという以上に、どう考えても間違いなのです」と述べ、IOCがロシアの同性愛宣伝禁止法に反対の意思を示すべきだと訴えている。

※ロシアで進む反同性愛の動きに対し、スポーツ選手たちが競技の場で政治的意思を示したことの是非について、みなさんのご意見をお寄せください。

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