ドイツのメルケル首相は、22日の独連邦議会(下院)で大勝したが、今後は欧州全体の問題解決に手腕を発揮するか注目される。
首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は第1党となったものの、過半数の確保には至らず、中道左派野党との連立が焦点となる。
ギリシャの追加債務免除からポルトガルの追加支援、スペインの不安的な経済状況、イタリアの政治混乱、フランスの改革の遅れなど、欧州の問題は多岐に及んでいる。今回の選挙を受け、欧州のまとめ役としてのメルケル首相の役割が強まった可能性がある。
首相は背後からリーダーシップを発揮するやり方を好むとされているが、ユーロ圏経済の持続的回復に向けより積極的な指導力が求められ、銀行同盟の発足、通貨同盟の強化について厳しい決断を迫られる公算が大きい。
また、主権の多くを各国に戻すことを主張するキャメロン英首相の動きにも影響が及ぶとの見方もある。英国では2017年に欧州連合(EU)残留を問う国民投票が予定されている。
<高まる要望>
各国からは早くもさまざまな注文の声があがっている。
メルケル首相に批判的なフランスの閣僚は早速欧州の成長促進のための政策実行を主張。モスコビシ経済・財務相は、銀行同盟などのプロジェクトの完成など、統合強化に向けたより野心的な取り組みを求めている。
ドイツは各国予算や経済改革に対するEUの監督権限強化を求めている。一方フランスは経済における主権がさらに侵害されるとしてこうした動きを嫌っており、他国への働きかけを強めているという。
メルケル首相の連立協議は最大2カ月に及ぶ可能性があり、本格的に欧州問題に目を向けるのはその後となる。このためEU関係者は、10月下旬に開催される次回のEU首脳会議では議論の進展は望めず、主要問題の決定は12月中旬に持ち越しとなるとの見方が広がっている。
南欧では、最大野党である社会民主党(SPD)との「大連立」政権が誕生し、首相の緊縮重視の姿勢が和らぐことが期待されている。
<支援国以外に潜む問題>
現時点では、これまでにユーロ圏と国際通貨基金(IMF)から金融支援を受けた国は最大の懸念とはなっていない。ギリシャの債務問題はいずれ再検討する必要があり、ポルトガルも数カ月以内にさらなる支援が必要になるとの認識が広がりつつあるためだ。
これらの国は欧州中央銀行(ECB)、欧州委員会、IMFで構成される「トロイカ」の監視下にあり、問題が浮上した場合は即座の対応が可能となっている。
より懸念されているのは、トロイカの監視下にはないが問題がすぐに表面化しそうな国。イタリアの政権崩壊危機やフランスの経済改革に対する投資家の信頼失墜などが想定されている。
イタリアのレッタ首相は、独選挙でのメルケル氏の勝利とともに、反ユーロを掲げる新党「ドイツのための選択肢(AfD)」の得票率が議席獲得に必要な5%を下回ったことに安堵を示した。同党の台頭は、イタリアの「五つ星運動」のようなユーロ懐疑派を勢いづかせる可能性があった。
またレッタ首相は、ドイツの新政権がイタリア政局の不安定化回避に力を貸すことに期待を示した。
<求められるリーダーシップ>
欧州首脳の間では、メルケル首相が銀行同盟発足に向けての道筋や通貨統合強化のための措置を明確に示すことが期待されている。
どちらもドイツの納税者にさらなる負担を求める可能性があり、国内での不信感は強い。
実際にドイツは欧州委員会よりも限定的に銀行同盟を進めようとする動きをみせており、政治問題になりやすい貯蓄銀行に対する権限を国内に残そうとしている。
こうした動きは金融市場に懸念を生じさせ、欧州委員会の権限を弱めることにつながりかねない。
そうした意味で、ドイツはEU全体よりも主要国政府と直接話し合う姿勢を強める方向に向かう可能性がある。
ただ英国は、この機をとらえEUとのつながりを見直す動きを強める公算が大きい。キャメロン英首相は、英国のEU残留を主張するメルケル氏との関係を重視している。
メルケル氏は、ユーロ圏の統合を揺るがすことなく英国を味方につけるか、EU参加国が自由に振る舞えるようにするのか、難しい舵取りを迫られることが予想される。
ある欧州外交筋は「メルケル首相はキャメロン首相にとって最善の選択肢だが、ドイツの影響力を過大評価してメルケル首相に賭けるのはリスクだ。メルケル首相は英国よりEUを重視する一方で、英国のEU残留を望んでいる」と指摘した。
メルケル首相にとって今後の4年間は、国内の摩擦から脱却し、フランスとの関係を不安定化させずに、背後からではなく前面に立って欧州全体の指導者になれるかどうかの試金石となる。
(Luke Baker記者 Paul Taylor記者;翻訳 中田千代子 ;編集 宮崎亜巳)
[ブリュッセル/パリ 23日 ロイター]
関連記事